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溺れてしまえば

作者: 葉山

例えば、君に伝えたとして。


 まだ明かりのつく気配のない電車の座席で、その殆どが雲に覆われ灰色がかった空をつめたいガラス越しに見つめた。3時半という微妙な時間のせいか車両内にはぽつりぽつりとしか人はいなかった。淡いオレンジ色コスモスがプリントされたのビニール傘を扉近くの手すりに引っ掛け、膝にの上にかばんを置く。一連の動作はあまりにも人気の少ない車両内で湿気を飛ばして大げさに響いた。靴の周りの少しの泥が混じった雨水が足を少し動かすたびにきゅうと鳴く。

一転して空回り。


君に伝えられたとして。


 灰色の中に群青を見る。ぼたっと落とした絵の具にほんの少し、ほんの少しだけ水を垂らして滲み出ていく深い青を見るような。潜って、そのまま溺れていきたくなるような。見惚れて音が消えていく、実は気になっていた右端にいる眼鏡を掛けた男性の携帯のボタンがかこかことなる音、雨水の鳴き声。

 潜った、そこに辿り着けるようなひとつまみの希望を頼りに。バタ足の要領で進もうとはしてみた、手だって動かしてみた、水泳だってどちらかといえば得意と言えるほうで。やれることはした。でも進まなかった、何も変わらなかった。疲れて体が思うように動かなくなってきたころ、なにもしないようになった動かないようにした。そうしたら背中のほうから何度かとぷんと音がする。水面にいたわけではない、ましてや必死こいて動いていたから体についてた空気はもうないはずだった。でも確かに聞こえた。


ちゃんと顔を見ることはできるだろうか。


 こぶしサイズの気泡がいくつか体から離れて水面のほうへ上がっていくのが見えた。苦さを連れて群青の液体を押しのけてゆっくりと、でも着実に上っていった。どこから出てきたのかはよくわからないがその気泡は記憶を連れていった。記憶がまるで浮き輪になっていたかのように気泡がでていったあとはずんずんと体は沈んでいく一方だった。

 まるでそこにつく気配がない。ふと思う。変わっているのは周りの色がどんどんと濃くなっていくということだけで、水面からはもうだいぶ離れたはずなのにまったくと言っていいほどそこが見えない。

さすがにひどく狼狽して藻掻くけれどはじめの通り動けば動くほど進むことはない。水面の光を求めて口から吐き出す言葉はすべて群青に溶けていく。

光を求めて溺死。


君の痛切な声を隠し守れたらよかった。


 向かいの窓から入る光が瞼に刺さりゆっくりと目をあける。もうすでに最寄り駅を3つも過ぎていた。深く息を吸い込み短く吐いてドアが開くと同時にかばんを背負ってホームに出る。鳴き声はもうしない。階段を勢いよく駆け下りカードをかざして改札を出た、さっきと同じ。光が刺さって目を細める。暗い灰色と群青は消え去り真っ白な綿雲と雲が溶けた青い空が広がる。目が慣れたころにかざしていた手を下ろしてずんずん道を人を掻き分け走った。


 そこを走りぬけてやっと気づく。オレンジとピンクののコスモスが咲く花壇があった。

「あ、」



(そういえば傘忘れた)



ちょっと、何か書きたいなと思って書いてできたのがこれでした。

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