第23話
実はもう一つある。そう。私の方も負けずに2段構えである。
2段構えって何と想った?
まあ、あせらず。あせらず。
順を追って説明するね。
厳密に言うと、今回の件でいえば、乙女ゲームはそれほどシナリオを変更した訳では無かった。
する必要が無かったの。
訴状と王太子の手紙とにらめっこしていた私は
――昼ご飯の後ということもあり、ついついそれらに突っ伏して、寝落ちしてしまい
――そして寝ぼけ眼で再びそれを目にした時に、
――ついでに言えば、それらに垂れた私のヨダレをフキフキしていた時に、
――気付いたのであった。
ゲームでは、エリザベトが隣国に赴き、皇子と密通した。訴状が届くのは、あくまでその後であり、そこは現在の私の状況とは異なる。
ただ、訴状にある罪科はほぼ同じなのではないかと。そして王太子は2回目の手紙を送る必要はなかったろうが、やはり醜聞は流したろう。
つまり、この乙女ゲームは『婚約破棄』イベントについては、そもそも2段構えのシナリオであった。
(ほら。ここで、2段構えが出て来た)
仮に『親友との情交』が無くなっても、『敵国の皇子との密通』を理由として『婚約破棄』が遂行できるという、そうした周到なシナリオであった。
何故『婚約破棄』にここまでこだわるのか。このことは、ヒロインの存在を抜きにしては、語れない。もっとも、私はヒロインが裏で画策しておると言いたい訳ではない。しているのかもしれないが、それは重要ではない。
王太子が乙女ゲームの下僕なら、ヒロインもまたそうであるに過ぎない。ただプレイヤーはヒロインとなって遊ぶのだ。ヒロインが特別なのは、この一点のみ。
そしてそれゆえにこそ、このことは、ヒロインを主人公とする乙女ゲームの根本的な性格付けに関することなのでは? と考えたのだ。もしかしたら、乙女ゲームでは『断罪処刑』イベントより、『婚約破棄』イベントの方が重要視されるのではないかと。
恋愛ということに限れば――特にヒロイン(=プレイヤー)の立場に立てば――その攻略対象と結婚するには、『婚約破棄』イベントこそ必要なものであり、重要である。
なるほど、『断罪処刑』イベントは、ハデハデしいが、なければならないものではない。別に追放でも、平民や奴隷に落とすでも、ストーリーは成り立つ。
ひるがえって、悪役令嬢たる私の側に立てば、『婚約破棄』イベントは、カードとして捨てることができるものに他ならなかった。断罪処刑イベントこそ、最重要であり、譲ることのできぬものであった。
私はこの彼我の違いを利用できぬかと考えたのだ。そう。『彼を知り、我を知れば』である――本当は『敵を知り』なんだけど。(注1)
そう、やっぱり孫子様なのである!
そして、やっぱり私は孫子様に私淑する軍略家なのである!
そして、やっぱり負ける訳には行かないのである!
『である連呼』復活である!
そうしないと不安なのである!
恐いのである!
不安で、恐くて仕方がないのである!
(注1 やはり繰り返しになるが、正しくは『彼を知り己を知れば、』である。主人公のうろ覚えである)




