第15話
ただ、こちらをそうした状況に追い込んで、なお終わりではなかった。そう、王太子の仕打ちは、それのみではなかったのである。
訴状の到着から1週間もたたぬうちに、新たな情報がもたらされたのだった。これは最初、父上から聞いたのではなかった。もちろん召し使いさんでもない。ゴリねえが教えてくれたのだった。
あの件の後、父上は私の――つまりエリザベトね――身を守ることに、より神経質になったようで、城館の護衛をお二人に任せるようになっておった。
よって、お二人は私に会おうと想えば、いつでも会える状況であった。まるで自分のことのように悔しがって教えてくれたところによれば、
「王都には、お嬢様の醜聞が広がっております。
王都に派遣した間諜によりますれば、
『王太子の婚約者であるところの公爵令嬢エリザベト・フォン・ハインツは、すっかり敵国皇子の閨ごとに狂わされており、ただ抱いて欲しくて、その軍国の機密を漏らした』とのことです」
ここでゴリねえは、続きを言うには少し心を落ち着けなければならないという如くに、しばし間を置いた。
「更には『子供でさえ、訳が分からぬままに、これを口にしておるとのこと。
男たちは卑しい笑みを浮かべ、女たちは嫌悪をあらわにして、ただ顔さえ会わせれば、これを話題にしておると。
そして、これを知らぬ者は、王都におらぬのではないかとの想えるほどである』とのことでした」
ゴリねえがそばにおるにもかかわらず、私は体の震えを止めることはできなかった。
「下がって」
それしか言えなかった。
(本当は「教えてくれてありがとう」と礼を言うべきであり、お菓子や果物のお裾分けをして、感謝の意を伝えるべきだったけど)
既に憤激しておった私の堪忍袋の緒は、ここで切れたのだった。
エリザベトへの罪科の訴えは、公にはされておらぬはず。まだ有罪が確定しておる訳ではないし、当然、それを決めるために、まず審問が開かれるのである。
そして王太子の婚約者に対する嫌疑ゆえにこそ、それが流布するを恐れ、審問員はすべて王族で構成するのではなかったのか?
ゆえに、この段階でこれを知るは、国王陛下ならびに王族、そして無論王太子。
王太子によるものであるは明らかだった。乙女ゲームは、その下僕を用いて、あくまで淫乱なる令嬢との悪評の中にエリザベトを沈め、婚約破棄→断罪処刑を忠実に遂行せんとしておるのだった。
(なら、それに乗ってやろう)
ただし潔白の証しを得るのではない。その密通の方である。更に言えば、国に背くことにしたのである。
まさに訴状にあるその罪科の通りをなしてやろうと。乙女ゲームの最も望むところをなしてやろうと。
私はエリザベトの美貌をもって、敵国の皇子を籠絡してみせる。
さらには公爵家の全領土をもって、敵国に帰付することを条件に、敵国の軍をして我が国に攻め入らせよう。
そう決意を固めたのだ。
無論、領土の話は父上の合意が必要であるが。




