第16話
エリザベトの恋心あっての、この仕打ちか。
私はまさに憤激しておった。
『我が最愛の婚約者たるエリザベトへ。汝の下僕より至上の愛を込めて』
王太子の手紙の最後にあった浮わついた言葉を想いだす。
エリザベトは王太子に恋をしておる。それなのに、乙女ゲームとその下僕たる王太子が狙うことはといえば、
『親友たちに犯させる。その交わりもって、淫乱の名の下に彼女を恥辱の底に沈める。そしてそれを口実に、婚約破棄を成し遂げる』
そこにあるのは、私が転移したエリザベトに対する純然たる悪意であった。
そもそも『袖振り合うも多生の縁』との言葉さえある日本生まれの大和撫子たる私。そして、エリザベトとは、まさに一蓮托生の身の上となった私。
私が転移したために、エリザベトの設定が変わった。
乙女ゲームはそれに対して、なお婚約破棄→断罪処刑のイベントを忠実に行おうとしておる。そのために、よりひどく、よりおぞましいシナリオに変更してきた。
こうなってみれば、エリザベトを守るのは、私の責務でもある。エリザベトを恥辱の底に沈めさせたりしない。そして殺させたりしない。無論、私もみすみす死ぬ気はない。
父上は、あの問いを繰り返すことはなかった。あの時の答え、「少し休ませて」を『王太子とは戦争をしたくない』、とそうみなしたようであった。
私はといえば、答えはまだ出ていなかった。私が考える必要があった。それだけが分かっていることだった。私だけが乙女ゲームの知識を持つゆえに。
後書きです
本話で第2章は終了です。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。 第3章は、『軍略家 新谷百花』となります。是非、引き続き、お読みいただければと想います。




