第15話
とはいえ、やはり念のために、確認しておく必要はあった。父上はお昼ご飯も一人で召し上がられた。やはり気づかいであろう。私の方から書斎に赴いて、確認するというのも、気がひける。
こういう時、やはり頼りになるのは、召し使いさん。私の自室の隣に、控えの部屋があり、召し使いさんは、そこに住み込んで、私に仕えてくれておった。
私は、午後のお茶の時間、しばしば、召し使いさんと一緒にお菓子を食べた。 そうでないときは、おすそ分けした。
召し使いさんは、最初こそ遠慮していた。でも「全部食べたら太りすぎてしまう」と、もっともらしい理由を言うと、受け入れてくれるようになった。しかもうれしそうに。
どこの世界でも、女は食いしんぼである
それで、お茶しながら、話をしようとした。
ただ呼ばれた召し使いさんは
「あら。お嬢様。ずい分とおぐしが乱れてますわ。いけません。そんなで、お父上に会われては。わたくしが叱られてしまいます」
(私がベッドで寝転がっていたからだ。でも、とすると、朝ご飯の後も寝転がっていたから、やはり寝乱れておったろう。
うーん。既にその父上とは一度会っているのだが。叱られることもなかった。でも、当たり前か。あんなことがあった後だ。気にすることではない。
ただ、召使いさんは昨夜何があったか、まったく知らない)
「まずは、それを直してから、お茶にご相伴させていただきとう存じます。」
そうして、その髪をとかしてもらっておるとき――とてもお茶の時間を待ってはおれなかった――何気ない素振りをよそおって尋ねてみた。
「王太子様は元気にしているかしら?」
「あらあら。やっと王太子様のことを口にされた」
想わぬはずんだ声が返って来て、ついつい振り返ろうとしてしまい、ちょうどくしけずっておるところでもあり、髪が引っ張られ、ア痛となったアホウな私。
そんな私に気付く素振りもなく、召し使いさんの言葉は続く。そのことからも、よほどに心待ちにしていたらしいとは分かる。
「このところ、まったく口にされないから、何かご不満やご不安でもあるのかと、心配しておりましたわ。わたくしの方から切り出そうかと、ずっと迷っておりました。
しかし、それでかえってお嬢様のお心をかき乱してはと想い、自重する日々でございました。
それに王太子様のお話はまったくされぬようになった代わりなのでしょうか? それまでは、いくらわたくしが勧めても、決して応じてくださらなかった父上との食事をなさるようになりました。それも三食とも。
何ごとにも時が必要なのだわと、心に言い聞かせておったところです」
「そう・・・・・・。私って、そんなによく話していました?」
再び、忘れたふり、忘れたふり、エリザベトは忘れっぽいのだ・・・・・・である。
「それは、もう度々聞かされましたよ。決して気を悪くなさらないでくださいね。それを聞き、また、その様を見るのが、わたくしの何よりの喜びでしたから。
お嬢様は本当に楽しげであり、頬を染められ、尽きることなく王太子様の話をされていましたわ。まさに恋する乙女でしたわ。
わたくしもついつい自分の若かりし時を想い出し、聞き入ったものでした。繰り返しますが、それは間違いなく、わたくしにとって最も楽しき時。どうぞ遠慮なさらず、王太子様の話をこれからもなさってください」
さすがに、私はその後、お茶をする気分ではなかった。召し使いさんには、お菓子をおすそ分けして、控えの部屋に戻ってもらうことにした。
不思議そうに私の顔をうかがっておったが――もっともらしい理由を思い付くこともできず――少し強引だが、彼女の肩を押し出すようにして、自室の外に出てもらった。




