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このお茶とても美味しいですね
「このお茶とても美味しいですね」トオルが言った。
「別に美味しいと思ったことはない」老人は言った。
「毎日飲んでいるからですよ。美味しさに慣れちゃうんですね」
「別に初めて飲んだ子供の頃から美味しいと思ったことはない」
「それは子供だったからですよ。お茶の美味しさがわかるのは大人になってからですから」
「だから、別に美味しいと思ったことはない」
「なるほど。美味しいと改めて考える機会がなかったわけですね。子供の頃はお茶の美味しさがわからなかったし、それでも飲み続けていたから慣れちゃって、大人になっても改めて美味しいと思うこともなかった、と」
老人は黙ってお茶を啜った。
「一度断食ならぬ、断茶してみたらどうですか?」トオルは言った。
「絶対に嫌だ」老人は言った。
「・・・」
「・・・」
「美味しいと思ってるじゃないですか」
「美味しいと思ったことはない」




