8脂肪の正体
まず、心音を聞き、脂肪のつき方を見てみたり。血圧や内臓の数値を調べたが、どれも健康体の模範のような数値しか現れない。
アレンの巨体からすれば、どう見てもただの肥満でしかないのに、この数値はおかしい。
リズは異常な数値に納得がいかず、何度か再計測を試みたが、最初に測った数値とそれほど変わらない数値しか表示されない。
「おかしい。機械はちょっと前にも使ってたから、故障も考えにくいし……」
リズは機械のモニターに表示される数値を眺め、眉間に皺を寄せた。
感触は脂肪そのものだ。食事も運動もしている。それなのに、体重の増減はない。
「こんなに脂肪ついてるのに、健康体そのものなんですけど!? アレンさんの体、どうなってんの!?」
膝から崩れ落ち、リズは床を拳で殴る。あまりにも謎で、どこに感情をぶつければいいのかわからない。
そんなリズを見て、ライルはアレンと自身の腹を触り、首を傾げた。
「なんか、アレンの腹、すごい熱いんだけど……太ってるからなのか?」
「俺、暑がりだからなぁ。汗っかきだし、代謝はいいと思うぞ」
「運動するし汗もよくかく。食事も栄養バランスを考えられていて、抜かりはない」
リズは小さな声で呟き、アレンの周りをぐるりと一周した。
アレンは居心地の悪そうに縮こまっていた。
ライルは、ライルで機械に映し出されている数値をぼんやりと眺めている。
「専門外なんですけど、機械自体は持ってるんです。もうちょっと詳しく調べてもいいですか?」
隣の部屋から持ってきた分析装置。大きな病院でしか取り扱わないほどの高性能、かつ高額なものだった。
「いいけど、専門家じゃないのによく買えたなぁ」
「これは信頼を勝ち取った報酬みたいなものですね〜」
鼻高々にリズは言い、注射器や装置の準備をし、すぐにアレンの血を抜いて、装置で皮下脂肪など調べられることは徹底的に調べた。
できることは全てやったリズは、すぐさま装置に映し出された文字と数値を凝視した。
「え? そんなこと、ありえるんですか……?」
「なんだ? やばいやつか? ……は?」
動揺しているリズを見て、ライルもモニターを覗き込む。みるみるうちに笑顔は消え、眉間に皺が濃く刻まれる。
アレンは二人の様子に、肝が冷え始めていた。
(一生治らない病気か? それとも救いようのないほどの脂肪蓄積量なのか?)
「師匠……これ、何ですかね?」
「見たことのない高密度の分子だな。やっぱり専門家に頼まないと調べられないのか?」
二人は顔を見合わせ不思議そうな表情をしている。
「なあ、俺も見て良いか?」
「もちろんいいですよ!」
リズはすぐさまモニターをアレンの方向へと傾ける。
アレンはその分析レポートの数値を眺めた。見たことのある数値に、目を瞬かせた。
「これ、回復薬の残渣じゃないか?」
「残渣、ですか?」
リズは保管していた回復薬を持ち出し、すぐに調べ始める。
これで似た数値が出れば、アレンの言った通り、回復薬が体内に蓄積しているもののはずだ。
回復薬を数滴垂らし、機械に読み取らせる。
そしてアレンの脂肪に溜まったものと回復薬の数値を交互に確認し、口をわなわなと動かした。
「脂肪と思っていたのは、実は回復薬の蓄積ぃ!?」
信じられないと言いたげな表情でアレンを見て、彼に近寄るリズ。
触りはしないが、腹を凝視している。アレンとしては居た堪れない状況だ。
「これ全部、回復薬!? 消化しきれずに? それともアレンさんが必要ない時にも飲んでいた代償?」
「アレンがダイエット頑張っても痩せない訳だ」
自身が痩せられなかった理由がわかり、アレンは安堵した。自分のダイエット方法が悪かったわけではなかったのだから。
しかし、それならばこのたまった残渣はどうすればすべて消費できるのだろう。アレンは自身の腹をさすった。
「ん? そういえば、指を切った時にすぐに怪我が治ったな」
「それ、本当ですか!? もしかして大怪我をすれば痩せたり……?」
確かに。という空気が流れたが、すぐにライルが口角を歪めた。
「いやいや、その方法はさすがにアレンが可哀想だろ」
「確かにそれは抵抗あるなぁ。けど、手っ取り早い方法ではあるよな」
「その力が治療に使えたらいいんですけどねぇ」
「それいいな! こう、手をかざして回復を――」
アレンがなんとなくライルの方に手をかざしてみると、突然アレンの手から光が溢れ出した。一瞬のことだったが、三人ともしっかりとその光を目撃していた。
「え、ちょ、なんですか今の」
「俺だってわからん! 俺は魔法を一切習ってないぞ!」
リズにツッコミを入れられたアレンだが、アレンはアレンで困惑し自身の手を見つめた。
特に変わった様子はないが、ただ一人ライルだけは硬直していた。
「お、おいライル! 大丈夫か?」
アレンがライルの前で手を振ると、ライルは目が覚めたようにハッとして、突然自身の胸や腹、背中、腕を触る。
動揺の色を見せるライルは、腕をまくり、前腕部を触った。
ライルは信じられないと言いたげな表情で、アレンを見た。
「お前、俺の火傷痕を消してくれたのか……?」
「え?」
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