6追放後のパーティー
アレンが抜けてから、新しい二人のメンバーがカイルのパーティーへと加入した。
ギルドで二人の加入手続きを終わらせてから、簡単な歓迎会が開かれた。
一人はヒーラーのクラリス。
カイルは、未熟だからと安値で自身を売り出していた彼女を、破格の安値で雇い入れた。
学校を卒業したてで右も左も分からない、紺色の髪と黒い瞳を持つ少女だ。
緊張でガチガチになっているクラリスの挨拶。
「硬い硬い。もっと気楽にしようぜ」
「あ、すみません。善処します」
「こんな感じであたしの治療が務まるのか?」
クラリスの隣では、彼女と同じタイミングで入ったガタイのいい女が頬杖をついていた。
無造作にまとめられた赤黒い髪を揺らし、橙色の瞳でクラリスを見つめる。
圧力の感じる瞳を向けられ、クラリスは一瞬喉を詰まらせたが、ヴァレリアを見つめ返し大きな声で宣言する。
「快適な戦闘ができるよう、努めます!」
「お、いいね。よろしくな」
クラリスの宣言に満足したヴァレリアは、彼女の背中をバシバシと叩いた。
表向きは和気あいあいとしている中、一人だけ顔をしかめて他人事のようにジュースを飲んでいたミリア。
カイルに飽きているとはいえ、自分以外の女にデレデレしている様子が気に食わなかった。
そんな彼女に気づかず、カイルは意気揚々で言った。
「さて。歓迎会はこのくらいにして、早速実力を見せてもらおうか――」
カイルの指示で向かったのは、彼らが以前アレンと「ウォームアップ」として片付けていたDランクのゴブリン討伐依頼だ。
Bランクの彼らにとっては簡単な仕事のはずだったが、開始から十数分でパーティーは機能不全に陥った。
「クラリス、治療を頼む!」
「ヴァレリア! 回復薬を飲めば済む話だろ! 治療ばっか頼ってんじゃねえ!」
カイルが叫ぶが、ヴァレリアは顔をしかめる。
彼女は前線でゴブリンと斬り結び、アレンの代わりとして盾役を担っていた。しかし、アレンのようにゴブリンの攻撃を受け続けながら回復薬を飲むような真似はできない。
「無理に決まってんだろ! 薬を飲む時間もねえ! それに、あんなハイカロリーなもん、頻繁に飲みたくねぇよ! この体を維持できなくなるだろ!」
ヴァレリアはカイルを怒鳴りつつ、ゴブリンの攻撃を避ける。彼女は俊敏性を売りにしているアサシン職ではないが、筋肉を育てるのが好き。そのため、アレンのように体型が変わることを極端に嫌がった。
「クラリス! はやく治療魔法を使えよ!」
カイルはミリアと共に、すでにゴブリンの刃を受けて軽い傷を負っていた。
後衛にいるクラリスは、すでに精一杯だった。
「わ、わたくしはまだ未熟なヒーラーです! 詠唱には時間がかかります!」
クラリスは小さな声で一生懸命詠唱している。だが、ヒーラーのデメリットは詠唱時間の長さだ。
「詠唱なんて待てるか! アレンは瞬時に回復してくれたぞ!」
「ポーラー様は回復薬を飲むだけですぐに回復できます! ですが、わたくしは魔法なので詠唱が必要なのです!」
言い返すクラリスだったが、カイルは聞く耳を持たない。
結局、戦闘は長引いた。本来5分で終わるはずの討伐が20分近くかかり、全員が汗だくで疲弊した。
「な、なんでこんなことに……お前ら本当にDランクかよ」
カイルはEやFを育てる手間を嫌い、あえて高すぎず低すぎずのランクを選んだのだった。
それなのに、クラリスはすぐに魔法量が底をつき、ヴァレリアはクラリスの治療が間に合わず、体力的に限界で動けなくなっていた。
「お嬢ちゃんの治療が間に合ってなさすぎる」
「ええっ? ヴァレリア様は自傷しすぎているのも要因だと思います」
おずおずと、だがしっかりと自身の思ったことを言うクラリス。
それに対して、ヴァレリアは顔を歪めた。
「つうか、自傷アタッカーなら自分で回復薬くらい常備しとけよな」
「はあ!? カイル、あんたはロクに避けず、防御もせず。ちょっとした擦り傷でも「クラリス〜ケガした。治療して〜」て言ってたくせに! あんたこそ回復薬飲めよ!」
カイルとヴァレリアが睨み合っている様子を、ミリアはただため息を吐き、カイルを見た。
「うるさいんだけど〜」
「てめっ、ミリア! お前はずっと後ろで髪触ってばっかりだったじゃねぇか!」
いつもならミリアには怒鳴らない。だが、気が立っているカイルは、それどころではない。
ミリアは一瞬怯んだが、涙目になってカイルを上目遣いで見つめた。
「カイル、怖いよぉ。もしかして、私のこと嫌いになっちゃった?」
「っ! ……ああ、すまないミリア。ちょっとイライラしててな。お前はいてくれるだけでいいんだ」
抱きしめて頭を撫でるカイル。その様子を見て、一気に冷めたヴァレリア。
クラリスに近づき小声で問いかける。
「付き合ってるのは知ってたけど、もしかしてああいったことを毎度見せつけられるのか……?」
居心地は悪そうだが、気になって仕方ない様子のヴァレリア。クラリスの治療を受けながら、目が離せない。
「そ、それはわかりかねますが……。ところでヴァレリア様、貴女は以前、村にいたとおっしゃっていましたが、独学で戦い方を学んだのですか?」
「いや、師匠がいたんだ。その人が自傷で強くなるタイプでさ。かっけーなぁって」
「そうでしたか。それで、回復はどうされていたのでしょうか」
自傷アタッカーは回復薬をふんだんに使える者や、専属のヒーラーを抱えていることが多い。
そう学校で教わっているクラリスは、ヴァレリアがなぜ回復薬の服用を躊躇うのか、専属のヒーラーがいないのか疑問に思っていたのだ。
「あー、師匠は金持ってたから、真回復薬を飲んでたんだ」
「そうでしたか……どうりで」
納得したと同時に、もしかすると大変なパーティーに加入してしまったのではないかとクラリスは口元を押さえた。




