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味方のために薬を飲みすぎた俺、太る  作者: 勿夏七


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4ハイカロリー

 帰宅中、人々の視線にアレンは冷や汗をかいていた。

 彼は地獄耳ではないので、何を言われているのかはわからない。

 だが、アレンを見て不愉快そうな表情でひそひそと話す様子から、聞かずとも察しがついた。


(不祥事を起こして、ランクダウンした話がもう広まっているのか?)


 真相を知りたいと思ったが、聞く勇気もなくアレンは足早に歩く。

 その途中、冒険者が金の入った袋を掲げ、ヒーラーに頭を下げる姿が見えた。


「頼む! 金ならある。だから、どうか治療してくれ!」


 冒険者は息も絶え絶えの様子だが、ヒーラーは彼を前に顔をしかめ、首を横に振った。

 

「……申し訳ございません。予約者が多数おりますので、治療は引き受けられません。それでは」


 ヒーラーはそれだけ言って、そそくさと神殿へと入った。

 そんなヒーラーの背を見送った後、冒険者はその場に座り込む。

 顔は青く、今にも倒れそうだ。その様子を遠くから見ていたアレンは、無意識に彼の前に立ち、回復薬を取り出していた。


「よければ、どうぞ」

「……親切を無碍にして悪いが、安い回復薬は飲めねぇよ」


 回復薬を拒否する多くは、その不味さのせいだ。ヒーラーに頼るくらいなのだから、拒否されてもおかしくはない。

 それでもアレンは、質問する。

 

「やっぱり、不味いからですか?」

「いや、違う。俺の職業はアサシンなんだ。身軽さが売りの俺には、そんなカロリー爆弾飲めねぇよ」


 そこで、アレンは初めて太ることが死活問題となる職業があることにハッとする。

 アレンは太っていても割と戦えてしまう戦士職で、味方の盾も担っているため、気にすることがなかった。

 

 また、『肥満は怠慢』というイメージしかなかったアレンにとって、太ることが職業的な死活問題になることには気づいていなかったのだ。


(もしハイカロリー問題を解決したら、アサシンや他の身軽さを売りにしている職業の人も、ポーラーになる道があったりするのか?)


 アレンはそんなことを思いながら、冒険者のために不味い回復薬を数本飲み、治療を施した。

 すっかり良くなった冒険者は、地面から立ち上がり笑顔でアレンを見た。

 

「どこの誰だか知らないが、助かった。あんたみたいなのがポーラーなら、安心だな」

「いやあ、とんでもない。今、フリーなんでよかったら短期でも使ってやってください」


 アレンはギルドカードとは別に、自身のスキルなどが記載されている名刺を手渡した。

 冒険者はその名刺をまじまじと見つめ、アレンを見た。


「あんた、今噂のアレンって男か……。元パーティーの男女二人から聞いてたイメージとは全然違うなぁ」

「うわ、やっぱりもうカイルが広めてるんですね」


 カイルが嬉々として広める様子を、容易に想像できてしまう。嫌がらせのための行動は相変わらず早いと、アレンは思わずため息が出てしまう。

 

「そうさ、かなりの声量で話していたからな。正直、あの二人は巷でもあまり印象が良くないから、歴の長いやつらは信じちゃいねぇよ」

「よかった……」

「安心するのはまだ早いぜ。若いモンは信じてるやつが多い。それと、あんたAランク二人と高い飯屋行っただろ? そのせいでタカりだって言われてたぞ」


 視線を感じたのはそのせいか。とアレンは納得した。不祥事とAランク二人との食事。太っていて悪目立ちするアレンが、よく映るわけもなかった。

 

「言いたい放題だな……情報ありがとうございます。それじゃあ俺はこれで」

「待ちな。薬代と、ポーラー1日雇った分の金、持っていきな」


 カイルたちと組んでいる時とは違い、かなりの量だ。アレンはギョッとした顔で受け取りを拒否した。

 

「ええ!? こんな大金、悪いですよ!」

「何言ってんだ。これくらい受け取っとけ」


 半ば強制的にアレンに金の入った袋を持たせ、冒険者は彼の背中を軽く叩いた。


「周りのことは気にしなくていい。あんたはあんたらしくしていれば、きっと報われる時が来るさ。じゃあ、俺は仕事に戻るよ」

「ありがとうございました!」


 アレンがお礼を言う前に、すでに冒険者はその場から姿を消していた。


「あれがアサシン! かっこいいなぁ」


 今の自分とは程遠い職業だ。しかし、もしローカロリーな回復薬の開発ができれば……アレンはそんな期待を胸に、金の入った袋を抱え帰宅した。


 嫌な視線を浴びながらの帰宅ではあったが、特に話しかけられたりイタズラをされたりすることはなかった。

 緊張も解け、アレンは冷蔵庫にぎっしりと詰まった安い回復薬を数本取り出した。


「誰かとパーティーを組まない限り、これもそこまで多く使うことはないだろう。実験に使うことにしよう」


 ポーラーは、回復薬の調合も勉強する。そのため、ある程度のアレンジはお手の物だ。

 昔仕事の合間に摘んでいた薬草を薬草箱から取り出して、アレンは1つ1つ薬草の特性を確認する。


「確か、回復薬に使っているヒーリング草が苦いんだよなぁ。ただ、家でも育てやすくて、増やしやすいから安い」


 アレンもヒーリング草は家で育てており、かなり収穫している。アレンが飲んでいる回復薬は、すべて彼の手作りだ。


「で、これを使わないのが海外から輸入している真回復薬。エリク草を使ってるらしいが、国内では種の流通がなく、輸入も限られている。だから、一般人にはなかなか手が届かない高値で売られている……と」


 アレンは念の為と、真回復薬の原料となるエリク草と、完成品の真回復薬をそれぞれ一本ずつ確保している。ヒーリング草は緑色だが、エリク草は青色のため、間違えて使うこともない。


 大事にとっておいたエリク草と真回復薬。

 アレンはこれをまず分析し、何かしら国内で楽に作れる方法はないか探す予定だ。

 少しだけ進めてから寝ようと思っていたが、睡魔が襲ってくる。


「……やっぱ今日は寝ようかな。どうせ明日から暇だし」


 自身で暇だと言ったが、それに対して胸の奥が痛んだ。

 だが、アレンは気にしないように片付けをし、寝る支度をしたのだった。

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