3パーティーへの誘い
ライルの取り出した紙は、パーティー加入申請用の書類だった。
一瞬、舞い上がるほどに嬉しさが込み上げたが、アレンは誘惑を振り払うように首を振る。
「いやいや! ライル、何言ってんだよ! 俺、Fランクになったって言ったよな!?」
アレンはギルドカードを取り出して、『Fランク・無所属』の表示を見せた。
右下には小さく、ペナルティを意味する罰点のマークも印字されている。
それを見たライルだったが、首を傾げた。
「それがどうしたって言うんだよ。俺はお前が無罪なのを知ってる。お前が有能な男であることも知ってるんだ。ポーラーかつ前線で戦えるやつなんて貴重だし、事務仕事もできる。誰もが欲しがる人材だ」
「な?」とライルに背中を軽く叩かれたリズは、言いにくそうな表情でアレンを見た。
「確かに師匠の言うとおりです。でも私たち、もうAランクなんですよ……?」
リズの言い分はもっともだった。ギルドで仕事をしている者なら、誰もが知っている常識だ。
「そうだぞ、ライル。一人でもFランクがいたら、受けられる依頼はFランクまでになる。お前らに、俺のせいでランクに見合わない仕事をやらせるわけにはいかない」
「一緒にやった方がランクだってすぐ上がるだろ?」
「いやいや、今の俺だと不正だって思われて、さらに状況が悪化する可能性がある」
寄生だと思われれば、ランクをまた下げられる可能性がある。下手すると、パーティーごとギルドから出禁になる可能性もある。
低ランクを雇うのは、高ランク帯の者にはリスクしかないのだ。
「だからもし、俺がAランクに上がって、お前らの気が変わらなかったら……その時はまた誘ってくれ」
アレンは笑顔でそう返したが、ライルは寂しそうな雰囲気を察知した。
「絶対誘うから、さっさとランク上げて来いよな!」
ライルは拳をアレンに突き出した。アレンも拳を突き出し、笑顔で軽くぶつけあった。
その後、ライルの視線はテーブルにある料理に移った。
「話はこれくらいにして、飯も揃ったし食おうぜ」
「美味そうだな! それにしても、すごく高そうなんだけどいくらだ?」
アレンは財布の中身を思い出しながら、すでに食べ始めているライルを見た。
ライルが答える前に、リズが答える。
「気にしなくていいですよ。師匠の奢りですから」
「アレンの門出だからな! もちろん俺が出すから、好きなだけ食ってくれよ」
「マジでいいの!? 俺、回復薬の飲み過ぎで全然食べられなかったから、多分……いや、絶対かなりの量食べるぞ? いいのか?」
目を輝かせるアレンに、ライルとリズは食事の手を止める。
ポーラーの主な仕事は、自身が回復薬を飲むことで、パーティー全体に回復効果を与えることだ。
それ以外は、他の職と同じく戦闘にも参加する。それは理解していた。
だが、回復薬で腹を満たしていることが、あまりにも衝撃的だったのだ。
「……え? 飲み過ぎで食べられなかったんですか?」
リズは動揺でカトラリーを皿に落とした。
アレンの説明では「二人とも回避も防御もしないからよく傷を作る。俺も太ってからは、回避が苦手だから防御で凌ぐ。それもあって他のポーラーよりも多く飲んでいる」程度の話だった。
「ちょっと待ってくれ。確かに結構な量を飲んだとは聞いていたが……そんなに?」
ライルは理解できず、額に手を当て、眉間に皺を寄せた。
ライルとリズは、誰かしらがかなり消耗したタイミングで飲んでいると解釈していたが、実際はかすり傷でも「回復しろ」と飲まされていたのだ。
二人の態度に、きょとんとするアレン。
「そうだけど、ポーラーってそんなもんじゃないのか?」
「絶対違います! ポーラーを目指していない私でも、それだけはわかります!」
「リズの言うとおり、絶対違う! お前、ポーラーの中でもえぐい量飲んでるやつだぞ!!!」
ライルとリズは食べることが好きだ。そう言ったこともあり、回復薬だけでお腹いっぱいになるのを想像し、二人は青ざめた。
「アレンさん! 遠慮せず食べましょう! ダイエットは後回し!」
「アレン! 何か食べたいものはないか? この高級ステーキでもいいぞ!」
リズはすべての皿をアレンに寄せ、食べるようにと促し、ライルはメニュー表をアレンへと見せ追加の注文を勧める。
「や、やめろ! これ以上俺を太らせないでくれ!!」
拒絶も虚しく、アレンは欲のまま食べ物を食らったのだった――。
レストランを後にして、アレンはさらに大きくなった腹を摩りながら、項垂れた。
「た、食べすぎた……」
「でも、美味かっただろ?」
「美味かった! でも、もう回復薬飲めなくなりそうだ」
「ははっ、それでもいいんじゃないか? あのクズのおかげって言うとあれだが、お前は事務職もいけるぞ」
雑用をこなし、お金の計算やギルドでの手続きなど、一通りのことをやっていたアレン。
事務仕事が苦手なパーティーに入れば、きっと重宝されるに違いない。
そもそもライルも事務作業で助けてほしかったのだが、アレンにかっこよく断られてしまい、言い出せなくなっていた。
「なるほど、そう言う道もあるか……。でも、せっかくポーラーになったんだしなぁ」
二重顎に手を添えて、考えるそぶりを見せたアレン。
「まあ、考えておくよ。ライル、リズさん。今日はごちそうさま! 何か手伝えそうなことがあれば、遠慮なく頼ってくれよ」
「おう、そうさせてもらうぞ。じゃあまたな、アレン!」
「ダイエット用品が欲しければ、ぜひ私のことを思い出してくださいね〜」
爽やかな笑顔でアレンに手を振り、リズは、手に持った小瓶を揺らす。
二人と別れた後、アレンは両手を握りしめた。
「よし、明日からランク上げ、頑張ろう」




