21追放者の危機
シャラタンはアレンの作った回復薬を1つ購入して、小さなカバンに仕舞い込んだ。
「それでは患者のところへ行きましょう」
クラリスに連れられ、古ぼけた小さな戸建てにやって来た。
人通りが少なく売地の多い場所。シャラタンの拠点の1つだ。
「ほう、例の患者はここに連れてきたのですね」
シャラタンは、さほど興味のなさそうな声色でクラリスへと問いかける。
クラリスは彼とは裏腹に「はい」と満面の笑みで大きく頷いた。
「ここなら周りを気にしなくて良いと思ったので」
シャラタンはクラリスに促されるまま家へと入り、硬いソファに座っているカイルへと視線を向ける。
足は包帯で巻かれており、血が滲んでいる。先ほどまで、クラリスとミリアを連れてランク上げに挑んでいたのだ。
しかし、前衛での戦闘を得意とした者はおらず失敗に終わり、今に至る。
カイルはソファに座ったまま、シャラタンを見つめた。
ごく普通の、白髪混じりの中年男にカイルは目を瞬かせた。
もっと物腰柔らかで、偽善気取りの胡散臭い男が来ると思っていたからだ。
「……あんたがクラリスの言っていた先生か?」
「はい、間違いありません。どこにでもいるただのおじさんですよ」
そう返したシャラタンは、カイルの足の怪我をすぐに治療した。
一瞬の出来事で、カイルは包帯の上から探るように自身の足を触った。
「……へえ、本当に一瞬だな。クラリスが勧める理由もわかる」
カイルは「体も軽くなった気がするな」とソファから立ち上がり、その場で軽く体を動かす。
カイルの気が済んだところで、シャラタンは請求書を彼に手渡した。
「こちら確認してください」
請求書には0が五つ以上並んでいた。
動揺のあまりカイルは請求書を凝視するが、シャラタンは気にせず言葉を続ける。
「その治療代には、クラリスの治療代金も含まれています。彼女の治療は私が主にやっておりますので、その請求ですね」
「……は? 聞いてないぞ、クラリス! お前は自分で全部治療してるんじゃなかったのか!? そもそも、治療費は自己負担だろ!」
クラリスを睨みつけると、彼女は泣きそうな表情を見せた。
口元を押さえ、今にも倒れそうに体をふらつかせた。
すぐにシャラタンが支えると、クラリスは彼にお辞儀をした後、カイルに訴えかける。
「……カイル様が報酬を意図して減らしているのは、私もヴァレリア様も知っています。ですが、いざという時にと貯めてくださっているのだろうと、黙っていたんです」
「なっ!? なんでそれを……」
絶対にバレていないと思っていたカイル。だが、報酬額が前もって掲示されている。しっかりと確認していれば、誰もが気づくことだ。
しかし、カイルは自身があまり確認する側ではなかったため、騙せると思っていたのだ。
「いや、これはお前たちを思ってのことだ! そもそも、俺のパーティーなんだから、俺が少し多く貰ったっていいはずだろ!」
開き直るカイルに、クラリスは心底うんざりしたように眉間に皺を寄せ、口角を下げた。
「アレン様がいらっしゃる時から、カイル様の素行は知っているつもりでした。ですが、ここまで堕落的な人だったなんて……」
「お、おいおい。俺の素行がなんだって? そりゃアレンが法螺を吹いてただけだろ……?」
カイルはアレンを虐げた心当たりがなく、眉を顰める。
わざと怪我をさせたり飯を抜いたりするような嫌がらせはしていない。
アレンが前戦も事務作業も進んで申し出たからこそ、カイルは仕事を任せていたつもりなのだ。
実際は、「事務作業はポーラーの仕事だ」と適当に押し付け、「戦士はタンク職だろ? しかもポーラーなら俺たちを守りながら戦えるよな」とポーラーならできて当たり前といった風に押し付けていた。
解体作業も、「俺、魔物の血で気分悪くなるから無理だ」ともっともらしいことを言って面倒なこと、やりたくないこと全てをアレンに押し付けていた。
アレンはカイルのパーティーが初めてだったこともあり、素直に受け入れていた。
しかし、周りから見ると都合のいいポーラーとして映っていた。
「罪状はアレン様のこと以外にも、たくさんあります! 公表されたくなければお金を払ってください」
カイルは罪を犯した覚えはない。しかし、無自覚に犯した"何か"があると思わせる勢いのクラリスに、思わず頷いた。
「わかった払う! だが、一括で払える額じゃないだろ!」
静かにその様子を見守っていたシャラタンは、落ち着いた声色でカイルの問いに答える。
「さすがに私もそこまで無慈悲ではありません。ギルドの仕事を片付けてからで構いません。よければ、その返済の一環として、私の事業に携わっていただきたいのですが……よろしいでしょうか」
カイルが断れるわけがないのに、シャラタンは丁寧にカイルを勧誘する。
もちろんカイルは迷わず頷いた。
「なんでもする! ……他のパーティーには言わないでくれよ? これ以上失望させたくないんだ」
どれだけ窮地に立たされても、女の前では格好つけていたいカイルだった。
まさかその結果、自分でも数え切れないほどの罪を重ねることになるとは知らずに――




