20時を経て
治療をして、様々なパーティーに同行した。
そのおかげでアレンの名声は次第に上がっていき、気づけば罰点も解消され、Dランクまで上り詰めていた。
「アレン、俺たちとパーティーを組まないか? お前なら大歓迎だぞ」
「すみません。すでに先約がいるんです」
「ああ、そっかA級の……」
パーティーに誘った男はライルとリズを思い浮かべ、頭を掻いた。
二人がアレンとよく行動を共にしているのは、誰もが知っている。以前なら、寄生していると思われ、悪態を吐かれていた。しかし、今はそんな小さな噂は浮かび上がってもすぐ消える。
それほどアレンは社会に貢献し、「聖人」と目されるほどになっていた。
「長かったなぁ」
新居として用意してもらった、リズ持ちのマンション。
広めの部屋を提供してもらい、アレンは一人、漢方茶を飲みつつのんびりとしていた。
だいぶスリムになった腹回りに手を当て、テーブルに置いてある鏡で自身の顔を見つめた。
赤ん坊のように柔く膨らみを持っていた頬も、今では成人男性らしい引き締まった顔つきになっていた。
その自身の姿を見て、アレンは頬を緩ませた。
そんなことをしていると、メッセージ機の着信が鳴る。
「ん? リズさんからメッセージか……ついに俺の作った回復薬が売られるのかぁ。楽しみだな」
まだカロリーと苦味を少し抑えた程度ではあるが、だいぶ飲みやすくなったと言われた回復薬が完成した。
薬草も大量栽培のめどが付き、リズから借りたスタッフに管理を任せている状態だ。
「至れり尽くせりだなぁ……。貢献できるようにがんばろ」
◇
「ちょ、ちょっと待って? これは私の想像を上回りすぎてるんですけど!?」
リズはアレンへ連絡した後、さっそく回復薬を積み、移動販売を開始した。
試飲できるようジュースサーバーを置き、アレンが作った回復薬であることを明記した。
罰点がついていた過去は拭えないが、今のアレンの活躍を知っている者は、試飲も購入も躊躇うことはない。
むしろ無償で治療を受けていた人々までも購入へと足を運んでいた。
「治験に来てた方まで! 完治したと聞いてましたが、足りていませんでしたか?」
「いいや、違うぞ。俺は、アレンさんのおかげで仕事を見つけられたんだ! だから、初給料はアレンさんの回復薬に使おうと決めてたんだ」
満面の笑みで回復薬を数本購入した男。その男以外にも治療のおかげで仕事ができるようになった、親に迷惑をかけなくてよくなった――そんなポジティブな言葉ばかりだった。
自分のことではないのに、リズは思わず泣きそうになった。
アレンがランクを落としてから、ギルド内ではアレンの悪口を言う者が多くいた。
アレンからは刺激しないでほしいと言われ、黙っていたがリズは言い返したくてたまらなかったのだ。
「リズー、調子はどう……おお、もうほとんど残ってないな」
ライルは、リズのために店で買ったサンドイッチを片手にやってきた。
「すごい売り上げですよ! 正直まだアレンさんの悪い噂が多いので、期待してなかったんですけどね」
「それだけ良い意味でも悪い意味でも、今のアレンは目立ってるってことだな」
アレンがパーティー追放、最低ランク落ちしたタイミングで出会ったこともあり、二人は安堵のため息を吐いた。
二人がおしゃべりをしていると、少し離れた場所で興味深そうにアレンの回復薬を見つめている中年男が立っていた。
隣にはカイルのパーティーに属しているクラリスがいる。
「いらっしゃいませ! うちで売っているのは、苦味とカロリーを抑えた回復薬なんですけど、試飲してみますか?」
リズはすかさず二人の近くまでいき声をかける。
中年の男は、掛けていたメガネを押し上げてからジュースサーバーを見つめた。
「……それでは、二杯分いただけますか?」
「かしこまりました!」
すぐに2つコップを用意して二人に手渡す。
クラリスは小さくお辞儀をして、ひとくち。
「確かに主流となっている回復薬と比べると、苦味が緩和されていますね。飲みやすいです」
クラリスはコップに残っている回復薬を不思議そうに見つめた。
その様子を見ていた中年の男は、困った表情を浮かべた。
「そうだね。いつかヒーラーの私たちは用済みになるかもしれないね」
「っ! 先生、それは……!」
目を見開き、何か言いたげに男を見つめた。だが、先生と呼ばれた男は、優しく微笑みクラリスを見つめただけだった。
目の前で繰り広げられるそのやり取りに、ライルは二人の顔を交互に見た。
「へぇ。ヒーラーの方なんですね」
「ええ。非公式ではありますが、講師を務めております。シャラタンと申します。以後お見知り置きを」
リズは格安ヒーラーの存在を思い出し、驚きの表情を浮かべた。
「貴方が、あのシャラタン先生ですか! 安くヒーラーが雇えるようになったのは、貴方のおかげなんですね。いつも助かってます!」
「はは、ありがとうございます。……とはいえ、この回復薬が普及すれば、ヒーラーの需要は激減するでしょう。職を奪われる者が増えるかもしれませんな」
「それはあり得ませんよ! 回復薬はあくまで補助ですし、水分の摂取量にも限界があります。やはり直接的な癒やしの魔法は必要不可欠ですから」
リズが明るくフォローするが、ライルはシャラタンの瞳の奥に、得体の知れない冷ややかさを感じ取っていた。
(シャラタン、か。……ペテン師なんて、またえらく自虐的な名前を名乗るもんだな)
ライルは心の内でそう毒づきながら、流れる空気の微妙なギスギス感を凌ぐため、苦笑いを浮かべて場を繋ぐしかなかった。




