19信者の退場
「……いいわ。草の種類なんて、専門家じゃない私にはわからなかっただけよ。でも、決定的な証拠は別にあるわ!」
女は手に持っていた一枚の写真をアレンへ投げつけた。そこには、カイルのパーティーメンバーであるヴァレリアの姿があった。
「あんた、この女と頻繁に会っているそうじゃない。その女がフードを被ったやつにカイルへのプレゼントだって貰ったと言っていたのよ!」
その話を聞いた瞬間、アレンは動揺の色を見せた。
「……え?」
「この女にあんたが持たせたんでしょう!? 毒草の臭いを消す方法なんて、ポーラー様ならお手のものなんでしょうしね!」
アレンの動揺も相まって、今度こそ勝ったと言わんばかりの女に、アレンは目を丸くした。
驚いたのは、疑われたことそのものではなかった。その情報の「でたらめさ」に対してだ。
「あの、確かヴァレリアさんは修行に出ると言っていましたよ」
「だから何だって言うの? 同じ街に住んでるのだから、いつでも会いにいけるじゃない」
どこかに所属している者でも、仲間から許可とギルドへの申請が通れば、長期間別の仕事を優先できる制度がある。
趣味や個人的な事情にも使われる、比較的自由度の高い制度でもある。
「一時的にカイルのパーティーから外れ、遠征に出ていると聞いていたんですけど」
「は……?」
鳩が豆鉄砲を食らったように、女はその場で固まった。
傍らで状況を見守っていたギルド職員は、端末を取り出し素早く照会する。
「確かに十日前から遠征部隊に入っています。かなり遠方にいるので、アレンさんから毒を受け取ることはおろか、カイルさんへの接触も難しいかと」
カイルがポンウイを口に入れてしまった時には、すでにヴァレリアは遠征に出ていた。遠征前日には準備などでパーティーに顔を出していない。
つまり、物理的に不可能だった。
「は? ちょ、ちょっと待って。話が違うわ」
その口から漏れた不穏な言葉を、聞き逃さなかった者がいた。
「『話が違う』ですか。これは、誰かが裏で手を引いていそうですね〜」
「うわっ、びっくりした。リズさん、いつからそこに」
いつの間にか背後を取っていたリズに、アレンは慌てて距離を取った。
「ついさっきです。それで、あなたにその話を吹き込んだのは誰なんです? ヴァレリアさんが今ここにいないことを利用して、全ての罪を彼女とアレンさんになすりつけようとした主犯は」
「な、何の話よ! 私はただ、カイル様のために……!」
リズは女に詰め寄り、逃げ場を塞ぐように満面の笑みを浮かべた。
「あんな男のためにアレンさんの家に不法侵入し、薬草を盗み、あまつさえ毒草を偽造して冤罪を仕組んだ。……これは立派な犯罪ですよね?」
リズの冷徹な指摘に、ギルド職員は厳格な表情で頷いた。
「ええ。不法侵入、窃盗、そして捏造による名誉毀損および業務妨害。アレンさんが罰点付きであることを利用した、悪質なケースですね。同行願います」
「わ、私は悪くないわ! 全部このデブが悪……ひっ!」
女が叫ぼうとした瞬間、後ろで控えていたライルが、鞘に収まったままの剣をピシャリと彼女の目の前に突き出した。
「……これ以上喋るな。行けよ、無知な犯罪者さん」
ライルの底冷えするような声に、女は腰を抜かし、そのままギルド職員に引きずられるようにして連行されていった。
取り巻きたちも、関わり合いを恐れて蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく。
静かになった庭で、アレンは深いため息を吐いた。
後ろで控えていた店主は、アレンの肩を軽く叩く。
「お疲れ。珍しい薬草を入荷したから近々見に来てくれ」
「ありがとうございます! 絶対見に行きます!」
アレンの言葉に満足そうに頷いた店主は、ゆっくりと帰路に着いた。
店主の背中を見送った後、ライルは床に落ちたヴァレリアの写真を拾い上げ、首を傾げた。
「あの女に偽の情報を与えて、アレンをハメようとしたやつの正体が気になるな」
「……ヴァレリアさんが遠征に行っていることを知っていて、かつ、あの女を動かせる人物か」
アレンの脳裏に、いくつかの顔が浮かぶ。だが、確証はまだない。
「……さて、アレンさん。泥棒のせいで窓も割られちゃいましたし……これを機に、もっとセキュリティのしっかりした場所へ拠点を移しませんか? もちろん、投資家である私が最高級の物件を用意しますよ」
リズの明るい提案に、アレンは苦笑しながらも頷いた。
アレンの物語が、また一歩、新しいステージへと動き出そうとしていた。




