18疑惑
ポイノンがなくなって数日後。
突然、ギルド職員とフードを深く被った男がアレンの家にやってきた。
また、以前薬草の購入後に喧嘩を売ってきた女も一緒だ。もちろん取り巻きを大勢連れてきている。
「この家に住んでいるアレンさんで間違い無いですね?」
「はい。そうですけど……ここらへんで何かありました?」
「こちらの女性から、毒草であるポンウイを所持していると通報がありました」
ギルド職員は、背後でニヤニヤとした笑みを浮かべている女を一瞥した後、アレンへと向き直る。
アレンは動揺せず、確認するように薬草名を言う。
「薬草のポイノンではなく、毒草のポンウイですか?」
「はい。それを元パーティーメンバーであるカイルさんに使ったのだと証言が上がっています」
そこでアレンは、つい最近カイルが言っていた話を思い出す。
『誤ってポンウイを使った奴がいる』という話だ。
それを使った者は誰かに薬草だと貰い受け、好意で使ったのだと説明をしているらしい。
「なるほど。それで本当にポンウイがあるか調べさせて欲しいということですね?」
「お察しの通りです」
アレンは素直にそれを受け入れて、ギルド職員とフードの男の後へと続く。
もちろん女と取り巻きは外で待機だ。
ギルド職員は1階から2階隅々まで探し、最後に薬草を保管している部屋へと足を踏み入れた。
薬草の量にたじろいだギルド職員は、フードを被った男へと申し訳なさそうな表情で頼んだ。
「手伝いを頼めますか?」
「ああ、俺はそのために来た」
被っていたフードを取った男。その顔に覚えのあったアレンは目を見開いた。
「店主さん!?」
「俺が売った薬草だからな。俺が出張らせてもらった」
「万が一ポンウイを売っていた場合、お店側に非がありますからねぇ」
ギルド職員は困った表情を浮かべつつ、店主を見た。店主は口のへの字にして言う。
「俺が間違えるわけないだろ! ......と言いたいところだが、ギルドでさっき見た証拠品は、ポンウイが混じってたんだ」
「そもそも、薬草を保管している部屋に忍び込み盗んでる時点で、彼女本人を全面的に信用できませんけどね……」
それでも無断で毒草を所持している方が罪が重いため、今は見逃してもらえているのだ。
「ああ、やっぱり盗んだのはあの人だったんだ……」
「なぜ被害届を出さなかったんですか」
「俺が罰点付きだから、取り合ってもらえなかったんです」
「それは……申し訳ない」
ギルド職員は、罰点を付けた側ではある。しかし、今回は非がなさそうだと判断し、ギルド職員は躊躇うことなく深々と頭を下げた。
その横で、店主は鋭い目つきで部屋の中の薬草を調べ始めた。
「あったぞ。これが、あいつが『盗み出した』と言っていたブツと同じやつだな」
店主が指差したのは、アレンが棚の端にまとめておいた、残りのポイノンだった。
店主は手に取って全て調べ上げた。しかし、ポンウイは1つも確認できなかった。
安堵のため息を吐くと同時に、念の為だと他の薬草も調べ上げ、毒草類がないことが証明された。
「やはり1つも持っていませんね」
「そうだな。さて、そろそろ降りよう。外で痺れを切らしている女が待っているぞ」
くっくっと喉の奥で笑っていた店主は、すぐに階段を降りていった。
「それでは私たちも行きましょうか。これで罰点を消してもらえるといいですね」
「身の潔白が証明できたらけしてもらえるんですか?」
「これだけではありませんけどね。アレンさんは最近、人助けに力を入れているでしょう?」
「ああ、治療をしてますね」
リズに提供してもらった治療場を思い出し、アレンは頷いた。
あっさりとした受け答えにギルド職員は目を瞬かせたが、すぐに笑顔で頷く。
「そうそう。あれの評価がかなり高いんですよ。A級リズさんの力もあるとはいえ、治療してもらった人々は口を揃えて、アレンさんのおかげだと言うんです」
「それは嬉しい話ですね。でも、本当にリズさんのおかげですからね」
「本当に罰点付きなのか疑いたくなるほどのお人ですねぇ」
「はは……ありがとうございます」
談笑を交えつつ階段を降り、一階で待っていた店主と一緒に外へと出る。
すると、外で待機していた女が、店主の持っているポイノンを指差した。
「ほら見なさい! やっぱり隠し持っていたじゃない! ギルド職員さん、早くその毒草を押収して、この疫病神を牢屋にぶち込んでちょうだい!」
勝ち誇った顔で叫ぶ女に、アレンは静かに問いかけた。
「……それが毒草だと、どうして断言できるんですか?」
「はあ? そんなの見ただけでわかるわよ! ポーラーでなくとも、毒草くらい誰でも学ぶわ。あんた、それを人伝にカイル様へ送ったんでしょう!?」
女の言葉に、店主が鼻で笑った。
「見ただけでわかる、か。あんた、さっきギルドで提出した『証拠品』についても同じことを言ってたな?」
「ええ、そうよ! カイル様を愛する私の目に狂いはないわ!」
店主はアレンの棚から取った葉と、女が持参していた「証拠品」を並べて突き出した。
「結論から言う。アレンの家にあったのは『ポイノン』。これはただの薬草だ。栄養剤の材料にもなる、体にいい草だよ」
「……は? う、嘘よ! もしかしたら盗み出されるのを察知して、直前ですり替えていたのかもしれないわ!」
「いや、くまなく探したが、ポンウイはどこにもなかった。それと、後出しで悪いが、ポンウイはかなり独特な臭いがするんだ。もし隠していたとしても、薬草を扱っている俺にはすぐわかる」
「そ、そんなっ……!?」
わなわなと口を震わせる女。だが、その瞳にはまだ絶望の色は宿していなかった。
彼女には、まだ「切り札」が残っていたからだ。




