15完璧なビジネスプラン
「寄ってたかって私の商売相手にちょっかい出さないでください!」
リズがアレンと女の間に割り込んだ。
女はリズの顔を見るなり目を大きく見開く。
「A級のリズ!? 商売相手って……まさか手を組んでカイル様の邪魔をする気!?」
女の発言に、リズは思わず「は?」と言いかけたが、すぐに咳払いをし、呆れた表情で女を見た。
「……あんな小物、私の相手じゃありませんよ。そもそも、あの男が怠けていたからこその降格ですからね」
「そんなわけないわ! だってカイル様はこれまでずっと植物の採取はもちろん、魔物の解体も完璧だったのだから!」
「それ全部、俺がやってました」
「……」
悪びれる様子もなく、自慢げな顔をするわけもなく。アレンはただ事実を述べた。
だが、盲目的にカイルを信じている女には、その事実が届くわけもなかった。
「嘘をつくな! あんたはそうやって功績を奪ってきたんでしょう!?」
「一緒に行ったらわかると思いますよ。試しにカイルと組んでみては?」
「そんなことできるわけないじゃない! カイル様は今昇格のために忙しいのよ!」
「いえ、だからそれをあなたが手伝ってあげれば――」
「バカなの!? スピード昇格の邪魔をできるわけないでしょ!」
アレンの提案を一蹴し、騒ぎ立てる女。
(さっき俺に、カイルの手伝いをしろって言ったのに?)
困惑しているアレンを見て、リズは大きなため息を吐いた。
「……これ埒が明かないやつですね。アレンさん、ちょっと失礼しますね」
リズはアレンの手を取り、ポーチからビー玉のような玉を取り出した。それに気付いた女は、すぐにリズに駆け寄ろうとした。
しかし、すぐにリズはそれを指で割った。
その途端、一瞬にしてアレンの家の前に立っていた。
「なんて便利なアイテム……」
「使ったのは高価なアイテムですから、それ以上にアレンさんには働いてもらわないといけませんねぇ?」
リズはアレンに不適な笑みを浮かべた。
「せ、精一杯頑張らせていただきます……」
「はい、よろしくお願いしますね。それで、これはアレンさんの治療能力を見込んでなんですけど、聞いてくれますか?」
「依頼か? もちろん聞くよ」
「よかった! あまり大きな声で言えないので、あとでメッセージを送らせていただきます!」
「わかった。研究しながら待ってる」
◇
メッセージを確認したアレンは、翌日からさっそくリズからの依頼をこなすことになった。
指定された場所は、ギルドや街の中心から離れた、貧困層が多く住むエリアの一角。元は倉庫だったであろう建物の中には、リズが雇ったと思われる数人のスタッフと、簡易的な診察台、そして長い行列があった。
「本日はお越しいただきありがとうございます。これから、皆様には無料で治療を提供させていただきます」
その瞬間、行列の人々からは感謝と期待のざわめきが上がった。このエリアの住人は、軽い怪我でも薬代や治療費を工面できず、泣く泣く放置してしまうことが多かったからだ。
女性スタッフが好意的な人々を見つめながら、言葉を続ける。
「ただし、こちらの罰点付きのポーラーであるアレンが開発中の、新しい回復薬の治験にご協力いただくこと」
そこで並べたられた試作品の回復薬を指差すスタッフ。緑色が主で、濃い色から薄い色がある。そして青っぽい色も少数だが置いてある。
スタッフは今度はアレンを見た。
「そして、アレンの治療を無償で受けていただくことが条件です。彼の治療が嫌な場合は、今ここでご退場ください」
アレンが罰点つきのポーラーだということは、貧困層にも知れ渡っていること。
人々は一瞬ざわめいたが、無料の治療は彼らにとっては天の恵みだった。
それもあって、誰もその場から動くことはなかった。スタッフはそれを確認した後、隣に立っていたアレンを見た。
「アレンさん、こちらへどうぞ」
アレンは奥の診察台に立ち、一人一人と向き合い始めた。
(治験とダイエットを兼ねた依頼、か……)
リズの依頼は、アレンの才能を活かしつつ、彼が最も気にしている体型改善まで組み込んだ、完璧なビジネスプランだった。しかも、人道的な支援という側面も持っている。
善行を積めば、罰点も消してもらえる仕様。きっとリズはそれを知っての提案だったのだろう。
まずアレンの目の前に座った最初の患者は、栄養失調で頬がこけ、手足の骨が浮き出た幼い孤児だった。軽い切り傷にも関わらず、発熱している。
「大丈夫だよ。痛くないからね」
アレンは穏やかな声で話しかけ、手をかざした。
(少し力の加減をしてみよう。回復薬も使いたいし)
彼の指先から微かな光が漏れ出し、少年の切り傷へと触れる。傷が閉じる様子はなかったが、少年の顔からみるみるうちに苦痛の表情が消え、発熱も治まった。
念のため傷口に絆創膏を貼り、アレンは孤児の様子を見た。
「……すごい! もう痛くもないし、苦しくないよ!!」
少年が驚きの声を上げると、アレンは優しく笑った。
「よし、次はこれを飲んでみてくれる?」
アレンは、試作段階の回復薬を小さなコップに注ぎ、少年に渡す。薬はわずかに青みがかっており、飲んだ少年はわずかに顔を顰めたが、すぐに飲み干した。
(痛みと発熱は治まった。回復薬は、この少年の体調改善にどれくらい寄与するか……)
アレンは少年の体調を細かく記録し、次の患者を呼んだ。
この日、アレンが治療した患者は百人を超えた。彼が持つ回復能力と、試作薬の知識を駆使し、来る日も来る日も、アレンは貧しい人々を治療し続けた。
そして一週間後、アレンの体には明らかな変化が表れ始める――




