14薬草と誤解
朝起きて、ルーティンを終わらせアレンは、今日の予定を考える。
「せっかくリズさんに資金もらったし、いろんな薬草を試してみようかな……」
昨日、分厚い封筒を開けて、アレンは顎が外れたのではないかと思うほどに口をあんぐりと開けたまま、硬直してしまっていた。
それほどまでに大金が入っていたのだ。それは、アレンの貯金を優に超えるほどだった。
すぐに返そうと考えていたアレン。しかし、リズに先手で返却は受け付けていないと手紙付きだったのだ。
アレンはその手紙を見て、苦笑いを浮かべた。まだ会って日は浅いが、アレンの性格をよく理解しているようだ。
アレンは一部の札を取り出し、残りの札束が入った封筒を手紙と一緒に金庫へと入れ、鍵をかける。
「……これは先行投資。俺は、リズさんの期待に応えるよう頑張るしかない」
自分に言い聞かせて、家を後にした――。
アレンは、ギルド近くにある薬草や回復薬が豊富に置いてある店に来ていた。
入ることさえも躊躇われるほど、高価な品々が並ぶ店だった。だが、今回はリズのおかげで金は潤沢にある。
アレンは臆することなく店内へと入る。
「……いらっしゃい」
無愛想な店主が、一瞬だけアレンを凝視したが何事もなかったように挨拶をする。
アレンは「お邪魔します」と笑顔で会釈をする。近くにあった買い物カゴを手に、アレンはお目当てのものを探す。
その時、店内にいた人々の中には、彼に不愉快そうな視線を送る者や、アレンを見ながらひそひそ話をしている者がちらほらいた。
だが、アレンは気にしないように、並べられている品々を熱心に見つめ薬草などをカゴに入れていった。
「すみません、ここにある薬草について聞いてもいいですか?」
呼ばれた店主は、眉間に皺を寄せたが、質問された薬草を見て態度を改めた。
アレンが気になっていたのはどれも希少な薬草で、薬草の知識を持っている者にもあまり知られていないものだったからだ。
「もちろんだ。この薬草は、主に胃薬に使われる。だが、もっとお手頃な薬草があるから、使われることはないんだ。その隣は――。で、こっちは――」
熱心に聞いているアレンに、主は思わず長々と説明をし始める。
嫌な顔1つしない彼に、店主は大喜びであまり表には出さない薬草まで持ち出し、それを割引価格でアレンへ売った。
「また来てくれ。今度はお前さんが欲しがっている薬草がないか探しておくからな」
「ありがとうございます! よろしくお願いします」
大きめのリュックサックに買った商品をすべて詰め込み、店を後にする。
帰ってすぐに調合を試そうと思っていると、すぐ目の前に仁王立ちで立っている女と目が合った。その女の背後には、人集りがある。
女は、アレンだとわかると彼を睨み、大きな声で言う。
「よくも呑気に買い物ができたものね、この疫病神! あんたがカイル様にデバフをかけたせいで、あの人のパーティーはランクを落としたのよ! 罰点付きのデブが、いつまで邪魔をするつもり!?」
アレンが去ってから、カイルのパーティーはBランクからDランクまで落ちたのだと、女は哀れみの目で嘆いている。
アレンとしては、デバフをかけた記憶も、カイルのパーティーがランクを落としたことも初耳だった。
わけのわからないアレンは、眉を顰める。
「デバフなんて、魔法も使えない俺がかけられるわけないじゃないですか。……というか、どなた?」
カイルがミリアをパーティーに加入させる前、たくさんの女と交際があったことはアレンも知っていた。カイルは口説くのが上手く、顔もそこそこ整っているため、恋人を途絶えさせたことはなかった。
しかし、今回の女はアレンの記憶には残っていない。
「そんなこと、あんたは知らなくていいわ! どうせ家でこそこそしてるのは、カイル様にデバフを仕込むための準備だったのでしょう!?」
「誤解すぎる! 俺はただ回復薬の研究をしてるだけですよ!?」
「どうせそれも、優しいカイル様に押し付けるための粗悪品なんでしょう!?」
「そうだそうだ」と言わんばかりの周りに、アレンは口を閉ざしてしまう。
まだ完成もしていない、方向性も決まっていない薬だ。適当に言ってしまえば、それはそれで後々厄介になる。
言葉に迷っていると、それを肯定と捉えた女は、言質を取ったと言わんばかりの得意げな顔でアレンを見た。
「ほらやっぱり! あんなみたいなクズの考えなんて、お見通しなのよ!」
「誤解ですって! 今日買ったものでよければ全部見せますけど!」
リュックサックを降ろそうとしたところで、女は「はあ?」と眉間に皺を寄せた。
「薬草のことなんて、私たちが知るわけないじゃない。どうせ適当言って誤魔化すつもりでしょう!?」
実際、ポーラーや薬師くらいしか薬草の勉強はしない。趣味で知識を得ることも可能だが、ヒーラーやポーラーに任せる者のほうが多いのが現状だ。
だからこそ、恥ずかしげもなく無知であることが晒せるのだ。
「ええ……じゃあどうすれば」
試作品はできていない。そもそも、今目の前にいる女は、カイルのために体を張ってまで薬を飲むことはしないだろう。
デバフがかかっていないか調べることもできるが、きっと見えないデバフだと言われてしまう。
「さあ、罪を認めてカイル様のランク上げを手伝いなさい! もちろん無償で、ね」
勝ち誇った女が、何か紙を渡そうとしたその瞬間――
「ちょっと、待ったぁああ!」




