13商売の誘い
突然始まった非公式のヒーラー講座。治療してもらう側の感想は、アレンが仕事をしている時に何度か聞いたことがある。
ちょっと探索に行く場合でも、予約なく安値で雇える。短期で雇えるため、コストパフォーマンスがいい。ものによっては回復薬を消費するより安い。
内容はどれも良い評判ばかりで、それにより公式ヒーラーを貶める者もいる。
しかしその講座を開いている講師について、アレンはなんの噂も聞いたことはない。
「なんかその講師の噂、知らないか?」
「私が知るわけないでしょ。興味ないし」
もちろんずっとアレンの回復薬にお世話になっていたミリアも、情報を持ち合わせていなかった。
二人は顔を見合わせ、出ない答えに苦笑いを浮かべた。
「……まあ、いいわ。あの子がずっと手を抜いてたら、きっとカイルも目を覚ますはず」
「それ、お前にも言えることだよな」
戦闘に参加せず、カイルの鼓舞だけでパーティーに参加していたことをアレンは思い出す。ミリアも自覚があったため顔を真っ赤にして怒りをぶつける。
「うるっさいわね! また紅茶飲みにくるからストックしといてよね!」
嵐のように去っていったミリア。
テーブルには飲み干された紅茶とお茶請け、そして何か入っているビニール袋が置かれていた。
「……忘れ物か?」
アレンはすぐにそれを持って、家から出る。
すると、家の前でミリアがリズと対峙していた。
初対面のはずだが、ただならぬ空気が漂っている。
「……リズさん、こんにちは」
「アレンさん! こんにちは!」
アレンが声をかけると、リズは満面の笑みで彼に駆け寄った。
さきほどの空気が嘘のようだ。
その様子を見ていたミリアはアレンを睨む。
「何か用事か?」
「アレンさんの商売に一枚噛ませていただきたく!」
「ん? なんの話だ?」
「最近、薬草をしこたま集めているという噂を聞きました。きっと回復薬を作っているんですよね?」
興味津々でアレンへと近づいたリズ。それを背後で面白くなさそうに見つめるミリア。だが、ミリアの視線に気づいていないアレンは、気にする様子もなくいつもどおりだ。
「ああ〜! それで商売だと思ったわけか! ただ研究してるだけだぞ」
「研究だけではもったいないです! 投資するので完成したらぜひうちに売ってください!」
「まだいいのが出来るかもわからないのに?」
「それを投資って言うんですよ! 大丈夫です。私の目をつけた商売は売れますから!」
リズは分厚い封筒をアレンに持たせて、「時々様子見に来ますからね!」と駆け足で去って行った。
「要件だけ言って帰って行ったな……」
「あんた、なんで出てきたの?」
「あ、そうそう。これ、ミリアの忘れ物だろ?」
ビニール袋をミリアの前に突き出す。すると、ミリアは呆れた表情を浮かべた。
「律儀に中身を見ずに持ってきてくれたんだ。それは、あんたにあげるものだから置いておいたの」
「……俺に?」
「そう。あ、勘違いしないで。私は頼まれただけだから」
「へぇ、そうなのか……ん? 薬草?」
ビニールの中にはたくさんの薬草が入っていた。どれも品質が良く、ミリアが摘んだとは思えないものだ。
本当にミリアからの贈り物ではないのだろうとアレンは失礼ながら、納得していた。
「それを渡してきた男なんだけど、あの体型からして、あんたと同じポーラーよ」
「ああ、なるほど。だからこんなに新鮮なのか」
ポーラーは素材を採取する際、鮮度を保つ方法を習う。もちろん試験にも出されるため、本来ポーラーと働いている者はこれくらいできて当然だ。
それを知らないミリアは、なんとなく自分が馬鹿にされたように捉え、地団駄を踏んだ。
「何よ! 私だって教えてもらえさえすればできるわよ!」
「うんうん、ミリアは飲み込み早かったからな。でもやる気がな」
アレンは返事はするが、ミリアを見ず薬草をじっくり眺めている。
返事もこちらに目も向けないアレンに、ミリアは腹を立てた。
「褒めてるのか貶してるのか、どっちよ!」
「どっちもかな。……あのさ、ミリアはカイルなんかやめて」
その次に来る言葉を、瞬時にミリアは頭の中で想像した。
きっと「俺にしろよ」と言われるに違いない。だが、ミリアは太った男は願い下げ。
すぐに断ろうと構えた。
「もっとまともな、いい男を捕まえた方がいいぞ」
「…………は?」
ミリアは自分の予想が外れたことに驚きを隠せない。
彼女はこれまでフリーになれば、すかさず男が寄ってきていたからだ。
アレンはミリアの反応に首を傾げ、眉を顰める。
「……もしかして、まだ未練があるのか?」
「そんなわけないじゃない! ほんとアレンは変わらないわね」
「まだ俺が脱退してそんなに経ってないだろ」
「一ヶ月は経ってるから!」
「おお、もうそんなに経ったのか。忙しくて気にしてなかったなぁ」
ヘラヘラと笑うアレンに、ミリアは大きなため息を吐いた。
「ほんとマイペースなデ……じゃない男ね。今度こそ帰るから、じゃあね」
ミリアはそう言い残し、走り去った。
アレンはその背中を見送った後、家へと入る。
「……なんか、嫌な視線を感じたけど、気のせい……だよな」
もらった薬草を分類、整理してアレンは夕食をカロリーを気にせず食べたのだった。




