11不信感
その後、ヴァレリアはアレンを見つけるたびに治療を頼むようになった。
「ポーラー! また治療してくれよ〜。ちゃんと金払うから」
「ヴァレリアさん。いえ、お金は必要ないですよ。実験に付き合ってもらってますし。何か副作用とかあればすぐに教えてください」
「わかった。そん時は言うぜ」
ヴァレリアは、歯を見せて笑った。
そして、治療してもらったばかりの腕を回しながら、言葉を続けた。
「正直、あのヒーラーに治療してもらうより、体が軽くなってる気がするんだよなぁ。ま、あいつ自身「わたくしは未熟者ですから〜」てうるさいくらい言うから、そうなんだろう」
「非公式ヒーラーは確か、まずヒーラーとしての知識を詰め込むだけ詰め込む。そして基礎的なことができて、テストに合格すればすぐにでも卒業できる、と聞きますね」
「へえ、そうなのか。だから公式ヒーラーのようにはいかないってか。……いや、待てあのヒーラーって非公式なのか!?」
目を丸くして、アレンを見たヴァレリア。
アレンは目を瞬かせ、首を傾げた。
「違うんですか? 公式ヒーラーの紋章がローブについていなかったので、てっきり非公式かと思っていたんですけど」
「そういうの、あたしは疎いからなぁ。でも確かに、公式なら基本は予約制か……」
納得したヴァレリアは頷いた。
それなら複雑な治療はできないだろうし、先生(講師)を推すのもわかる。
「ヒーラーのくせに」と思っていたヴァレリアは、クラリスのことは少し多めに見てやろうと決めたのだった。
一方その頃、クラリスはヴァレリアに不信感を抱いていた。
「最近のヴァレリア様、わたくしが治療できなかった傷も治ってる……」
骨にヒビが入った際、自身では治療できないから先生を紹介すると提案をした。
しかし、ヴァレリアは必要ないと一蹴し、仕事終わりに足を引きずったままどこかに行ってしまった。
後日、仕事で招集された時には骨は元通りになっていた。先生の所に言ったのかと聞けば、友人に治療してもらったのだと言う。
詳しく聞いてもヴァレリアは、アレンの言葉を思い出し「秘密だ」としか返さない。
それが不思議で、釈然としないクラリス。
「どうしたんだ、クラリス。可愛い顔が台無しだぜ?」
カイルはミリアを放って、クラリスの肩に手を置いた。
クラリスは申し訳なさそうにミリアを見たが、彼女は彼女で他の男に声をかけていた。
本当に、二人はまだ付き合っているのか。疑問に思う者も少なくはなかった。
「……ヴァレリア様、最近以前より怒らなくなったと思いませんか?」
「いいことじゃねぇか。治療しろって言われなくてクラリスも助かってるだろ」
カイルは、良い買い物をしたとクラリスとその場にはいないヴァレリアを思い浮かべた。
クラリスは儚い美少女。ヴァレリアは褐色の肌がよく似合う姉御肌。そして、ミリアは地雷系美女。ハーレムでパーティーを結成したかった彼にとって、仕事をこなすよりも満足感があった。
とはいえ、稼げなければメンツは保てない。そのため、二人のランクを上げる建前で、低めのランク仕事を多くこなしている。
経験値を積むためとヴァレリアとクラリスをメインで戦わせているが、二人の給料は少なめにして渡していたりする。
もしバレても適当な理由をつけて、カイルは二人をこき使う予定だ。
「わたくしが未熟だから、外部の人に治療してもらうんですね……。紹介も断られてしまいましたし」
クラリスは、悲しげな表情でカイルを見つめた。カイルはその表情に思わず抱きしめたくなったが、ミリアがいる前でそんなことはできない。
カイルは抱きしめたい衝動をグッと堪えて、クラリスの頭を優しく撫でた。
「あいつとは仕事だけの関係だって割り切った方がいい。最近は、仕事を終わらせたらすぐにどっか行っちまうしな」
「飯に誘っても全然来なくなっちまってよぉ」とカイルは唇を尖らせた。
「ですが、せっかくのパーティーメンバーなのですよ? わたくしはもっと皆さんと仲良くなりたいのです……」
眉を下げ、縋るようにカイルを見つめた。クラリスの身長が低いため、意図せずとも上目遣いのように見える。
カイルはその姿に心を奪われてしまい、ミリアがそれをじっとりと見ていたことに気づかない。
その姿を見ていたミリアは苛立ちを覚え、二人に声をかけることなくギルドから出た。
どうせこの後解散なのだからと、ミリアは自身に言い聞かせカフェへと足を運ぶ。
「あれ? 奇遇ですね、ライルさん」
ライルはテラス席で一人、ハンバーガーにかぶりついていた。
そんな彼を見つけ、ミリアは足早に駆け寄った。
「? ……君は?」
「私、ミリアって言います。ライルさんのことは、あのデ……じゃない。アレンから話を聞いています」
「ミリア」という名前に一瞬眉を動かしたが、ライルは笑顔で頷いた。
「なるほど。カイルの彼女か」
カイルの彼女として認知されていることに、ミリアは顔を引き攣らせた。
だが、すぐに笑顔に戻りライルの許可も得ず、彼の隣に座った。至近距離でライルを見つめ、ゆっくりとカイルの腕に手を伸ばす。
「最近は他の女の子にばっかり構ってるので、別の人に乗り換えようかなと思っているんです」
「ああ、そう。じゃ、頑張ってくれ」
ミリアの手が届く前に、ライルはハンバーガーを食べ切って席を立つ。
「えっ、ちょっと! もう行ってしまうんですか!?」
ライルは振り向かずに手を振りすぐにミリアの前から姿を消してしまった。
「……アレンがパーティーから抜けてから、良いことないよお!」
仕事は以前よりも大変になった。収入は少ないのに仕事量は多い。それにより、カイルも最近はミリアに使う金も減った。
また、ミリア以外の女をパーティーに迎え入れたため、構ってもらえなくなってきている。
ミリアは苛立ちを隠せないまま、帰路に着いたのだった。




