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最後のコラボ配信

世界の終わりは、鉄と硫黄の匂いがした。

俺たちは、歪んだ帝王ゼノンの待つ、崩壊寸前の辺境の街へとたどり着いた。だが、そこは、もはや戦場ですらなかった。

ただ、一方的な蹂躙。世界の終焉。


「――がはっ!」


ボルガの巨体が、紙切れのように吹き飛ばされる。

ゼノンの放つ、世界の理を歪める闇の衝撃波。その一撃一撃が、大地を割り、建物を塵へと変え、空に開いた亀裂をさらに大きく広げていく。


「リリアナ! 下がれ!」


俺の絶叫も、虚しい。

リリアナの剣は、ゼノンの身に纏う混沌の魔力に触れることすらできず、ただ、その余波で吹き飛ばされるのが関の山だった。

手も、足も、出ない。あまりにも、絶対的すぎた。


「はは……ははははは!」


ゼノンの、苦痛と狂喜に歪んだ笑い声が、崩壊していく世界に響き渡る。

これが、世界の理と契約した、歪んだ帝王の力。

俺たちは、ただ、その絶対的な絶望の前に、為すすべもなく蹂躙されていく。


(――ここまで、か)


俺の脳裏に、初めて、敗北の二文字が浮かんだ、その時だった。


キィィィィン!


空気を凍てつかせる、一筋の白銀の光。

それは、ゼノンが俺たちに放った、とどめの一撃を、寸でのところで弾き返した、必殺の氷槍だった。


「――!?」


ゼノンが、初めて、その狂気に満たた表情に、純粋な驚愕を浮かべる。

俺たちもまた、信じられないものを見るような目で、その光が飛んできた方向を見つめた。


そこに立っていたのは、月光を思わせる、銀髪のライバル。

エララだった。


「……計算外の事態だ。盤面(世界)そのものが、消滅しかけている」


彼女は、ボロボロの俺たちを一瞥だにすることなく、ただ、ゼノンという「イレギュラー」を分析するように、冷たい瞳で見つめている。


「このままでは、私がこのゲームを『完全攻略パーフェクトクリア』するという、私の計算が成り立たない」


彼女は、俺たちに向き直ると、淡々と、そして無慈悲に告げた。


「一時的に、手を組む。世界の崩壊という最悪の結末は、私の計算に反する。それだけだ」


それは、信頼ではない。

仲間としての誓いでもない。

ただ、利害の一致によって結ばれた、究極の共同戦線だった。



エララの、あまりにも無慈悲な提案。

だが、それは、今の俺たちにとって唯一の、そして最後の希望の光だった。


俺は、ボロボロの体を引きずり、彼女の前に立つ。


「……ああ、手を組もう。最高のショーの、幕開けだ」


俺は、誰にも聞こえないように、心の中で呟いた。

(――これが、俺の、最後の配信だ)


俺は、震える手で《神々のインターフェイス》を起動させた。

そこに叩き込むのは、俺の配信者人生の、集大成となるタイトル。


『【最終回】世界を救う物語~最後のコラボ配信~』


そして、このありえないメンバーを前に、最後の作戦会議を開いた。

俺の指揮の下、四人の役割が、明確に定められていく。


「ボルガ!」

「おう!」

「あんたは、俺たちの全てを守る、不屈の『盾』だ! 何があっても、絶対に折れるな!」


「エララ!」

「……何だ」

「あんたの計算で、ゼノンの弱点を的確に貫け。あんたは、俺たちの必殺の『矛』だ」


「リリアナ!」

「はい!」

「お前は、俺たちの全ての想いを乗せて、最後の一撃を放て。お前が、俺たちの最強の『切り札』だ」


そして、俺は。

この三つの魂を束ね、奇跡を起こす、絶対的な『司令塔』となる。


俺の視界の端で、インターフェイスが、静かな、しかし、これまでにないほどの熱い光を放っていた。

そこにはもう、野次や罵声、エンタメを求める声はない。

ただ、世界の存続を、そして、俺たち英雄の勝利を願う、地上の神々の、純粋な「祈り」だけが、光の奔流となって、画面を埋め尽くしていた。



最後の作戦会議は、終わった。

四人の魂は、それぞれの役割を胸に、一つとなった。


「「「「うおおおおおおおっ!」」」」


四つの雄叫びが、崩壊する世界に響き渡る。

最後の死闘の、火蓋が切って落とされた。


ゼノンの放つ闇の魔力は、もはや天災そのものだった。

だが、俺たちは、もうただ蹂躙されるだけの存在ではない。


「――そこだ!」


俺の指揮が、戦場を支配する。

ボルガが、不屈の『盾』としてゼノンの猛攻を受け止め、エララが、必殺の『矛』としてその隙を突き、リリアナが、最強の『切り札』として、常に最善の位置取りを続ける。

だが、ゼノンの力は、俺たちの連携を上回っていた。誰もが満身創痍となり、その体は限界を迎えようとしていた。


そして、ついに、その瞬間が訪れる。


「――終わりだ」


ゼノンが、その身に纏う全ての闇を、聖剣の一点に集中させる。

全てを消し去る、破滅的な一撃。

避けられない。防げない。誰もが、死を覚悟した。


だが、その絶望を、一人の男の覚悟が打ち破った。


「――行け、ユウキ!」


ボルガが、吠えた。

彼は、パーティーの全てを守る『盾』として、ただ一人、その破滅的な一撃の前に立ちはだかった。


「お前の物語を、見せてみろ!」


轟音。

ボルガの巨体は、その自慢の盾ごと、光の中に掻き消えた。

だが、彼の覚悟は、確かに、ほんの一瞬の、奇跡のような好機を生み出していた。


「……計算に、新たな変数を追加する」


エララは、その一瞬を見逃さない。

ボルガの「非合理的」な自己犠牲が生み出した、彼女の計算にはなかった「可能性」。

彼女の全てを注ぎ込んだ必殺の一撃が、ゼノンの闇の鎧の、ただ一点の綻びを、正確に貫いた。


「ぐっ……!?」


ゼノンの顔が、初めて、純粋な苦痛に歪む。

その一撃は、ゼノンに初めて、致命的な隙を作った。


そして、その隙を、俺たちの最強の『切り札』は、決して逃さない。



全ての仲間が創り出してくれた、この、たった一度の好機。


俺は、満身創痍のリリアナに、最後の指示を叫んだ。


「行け、リリアナ! 俺たちの物語の、最高の結末を、その剣で描け!」


俺の雄叫びが、この物語のクライマックスを告げる。

その声に応えるように、リリアナは、地を蹴った。


ボルガが命を賭して創り出した、一瞬の好機。

エララがその計算の全てを懸けてこじ開けた、唯一の活路。

そして、俺との、絶対的な信頼。

仲間たちが紡いできた、全ての物語を力に変えたリリアナの聖なる一撃が、ついに歪んだ帝王を、浄化の光の中に包み込んでいく。


ゼノンが消滅すると、禍々しい紫色の空は晴れ渡り、世界の崩壊は止まる。

戦いは、終わった。


静寂の中、俺のインターフェイスに、クロノスからの、たった一言の神託が届く。


『――見事だ。汝らの紡いだ物語、我が『神話』として認定しよう』


それは、ユウキたちが、Sランクへの挑戦者として、ついに認められた瞬間だった。俺たちの物語は、まだ始まったばかりだ。

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