2605/08/11 15:40『label4//X︰悪魔』
・用語解説
『穴』と『裂け目』
この宇宙全てを対象とした別空間同士を繋げ、触れた生き物と人工物を呑み込んでいく《歪み》。
その《歪み》の中でも、地面に沿って発生しているものを『穴』垂直に発生しているものを『裂け目』と呼ぶ。
偵察隊にとってどちらが命取りかどうかは、人によるので一概にどうとは言えないが、基本的に落ちたら帰って来れないのが『穴』で、感知するのが難しいのが『裂け目』であるらしい。そして、どちらも触れたら即死級のトラップになっている事が多々あったりする。怖いね。
「……ッ!イヴァン、五左衛門、マルロー、前方から二体の犬型悪魔接近!
五左衛門は前に出て『守護』を展開しろッ!その間に各員は討伐準備を整え戦闘開始だッ!行けッ!」
……悪魔。
それは『穴』や『裂け目』を通り抜けることによって、何らかの力に晒されて身体が変貌してしまった、生きとし生けるものの成れの果てと呼ばれている生き物である。
「了解しました……あぁ、哀れな子羊たちよ。私が貴方たちを救済してあげましょう───『衆目せよ』。」
隊長に指示されて、何やら五左衛門が緩やかな微笑みでもって何事かを呟く。
───その瞬間だった。
全ての人間、いや……全ての生物の視線が彼に吸い込まれていく。そしてそれは悪魔とて例外ではなかった。
あれは確か『public scrutiny』という技能だったはずだ。
手に入れれば《神の使徒》としての役職を認められる系のE.Sのひとつであり、彼が悪魔に対抗する神官として偵察隊をやれている理由であるのだろう。
確か、人によっては『守護』だとか『ヘイト』だとか呼ばれたりするらしい。旧文明でいう所のゲーム用語らしいけど、私はやった事がないのでよく分からなかった。
「よし!《魔導銃》構え!撃てッ!」
迫ってきていた犬型の悪魔。
そんな、身体がガビガビと揺らめき歪んでいる彼らに、船員達が構えていた《魔導銃》の一撃が放たれる。
これは、燃料にも使えないような小さな《悪魔の魂》の欠片に異能使いの異能が込められており、それを付与した銃弾を打ち出す偵察隊御用達の武器の一つである。
『ᵦェギャаァァァ1ァヰッ!!!!!』
「命中確認!カタリナ《火炎》発動用意ッ!」
「おーけー!……五左衛門ッ!!!
ちゃんと避けなさいよッ!?《火炎》ッ!!!」
───パチンッ!という小気味良い音と共に、魔女おばさんの手元から大きな炎の塊が射出される。
『gヰアッ???!!!』
だいたい、人の頭程度だろうか。
その塊が健在だった犬悪魔の一匹にぶち当たり、そのまま纏わり付いて延焼するように彼のバグのような体を燃やし尽くして動きを止めた。どうやら死んだようだ。
「犬悪魔一体の死亡を確認ッ!
……次が来るぞっ!近接隊は前へッ!」
おぉっと近い。ここじゃまずい。
私は考え事もそこそこに、慌てて隊長さんとおばさんの後ろに退避して『獣王の鬣』偵察隊の戦闘行動に巻き込まれないように画策する。
つい先程の道中、私のlevelが4になっているのに気がついたけど、まだ《health》合計数値は100ちょっとだった。
だから巻き込まれると多分死ぬ。絶対に近寄らないように気をつけなければならない。
「よっし、五左衛門、マルロー!行くっすよ!」
「りょうかーい!」「わかりました、救済執行ですね」
おばさんの炎に焼かれないよう、左右に避けていたイヴァン達が武器を取り出して犬悪魔に接近していく。
イヴァンは小さな筒の付いた短剣。マルローは青白い短刀。
五左衛門は片手で扱える一般的な神官用のメイスである。
全て、近接の偵察隊としては割とオーソドックスなタイプの武器達だ。
例えば───
「しゃあっ、死ねやオラッ!」
『ギャあヰウッ!??』
突き刺した途端に犬悪魔の身体の一部が爆発する短剣。
旧文明に『ワスプナイフ』という猛獣に対して使う為のガスを体内に噴射するナイフがあったらしい。
その技術を《異能》を蓄積する『悪魔の魂』の性質を使って再現したのがイヴァンが使用した短剣であり、体内の空間が歪んでいる悪魔にも通用する数年前に開発された画期的な武器なのである。
───他にも、オルローの使っている青白い短刀も、空間のエネルギーがなんやかんやとかいう"特殊金属"が使われた偵察隊仕様のものだし、五左衛門の振るうメイスに至っては《修道院》卒業の際に貸与される祈りの施された特注製だろう。
……その得物によって与えられた衝撃は、まさしく悪魔にとって致命の一撃であった。
「……二体目、死亡確認!
全員、周囲を警戒しながら戦闘形態解除!解体員は特殊防護膜の展開を確認した後に解体を始めてくれ!」
ーーー
どうやら、終わったようだ。
少し離れた場所で、イヴァンとその他の解体員っぽい人達に囲まれている犬悪魔の姿が見える。
……なので私はいそいそと隊長たちの後ろを離れて、横たわった犬悪魔の方に近づいてみる事にした。
「うわ、なんかキモい。めじゃめじゃしてる」
「なんだメジャメジャって。初めて聞く擬音だぞそれ」
めじゃめじゃはめじゃめじゃだ。
解体している小さな(一部を除いた表現の)女の子が、えっほえっほと犬悪魔の体をナイフでかっ捌いている。
そして、その首の部分はめじゃめじゃ……空間がビリビリと揺れ動いており、少しづつ緩やかになってはいるが、時空間異常が発生しているのが見て伺えるものだった。
「ほいほい、ほいー……と、取り出せました!」
しかし、女の子はとても器用だった。
綺麗にそのめじゃめじゃを避けるようにしてナイフを走らせて、ゴツゴツとした肉や飛び出した骨をある程度切り離しながらも、その心臓部から黒く赤い色の変な石を取り上げる。
てんてけてーん。って感じだ。
見てるとなんだかゾワゾワするような感じのする物質だった。これが《悪魔の魂》らしい。キモい。
「……」
「どうした開花くん。そんな顔して。
……あぁ、もしかして悪魔の魂を見るのは初めてか?気持ち悪いよな。まだ生きてるみたいだし」
私の隣にいた隊長さんがぼやく。
そして解体員の女の子の掲げたそれを見つめて、なにか納得しような顔で頷いてから「うんうん分かるよ、自分もそうだった」とでも言うように訳知り顔で肩に手を置いてきた。
……なんだろうか。セクハラだろうか。
顔を殴っても良いんだろうか……ちょうどいい位置にあるし、一発ぐらいなら許されるかな。どうだろう。
「うーん、分かる、俺もそうだったなぁ。
俺も偵察隊始めた頃は、これみてキモって思って吐きかけたし。いやー、若かったなぁ。あの頃はさぁ」
……私、読心の才能があるんじゃないだろうか。
隊長さんが言おうとしていた言葉をまるまる当ててしまった。天才かもしれない私。
それか隊長さんが凄い単細胞かのどちらかだ。
たぶん前者だと思う。私って頭良いし。偵察隊の隊長が単細胞な訳ないし。
「隊長さん、自分の若い頃の話は嫌われますよ」
なので、頭の良い私はとりあえず謎解釈で変に同情されるのは癪だったので返す言葉で殴っておく。
「ぐっ……いや、だって……うぅむ。
……カタリナぁ!開花くんが俺のこと虐めてくるんだが!??俺にだけ酷くないかこの子ぉ!??」
悲しそうな目で魔女おばさんの方に縋っていく隊長。
しかし、そこで「キモっ」って言われた挙句に手を叩かれてしょぼくれている。うん、可哀想な人だ。
少しの間距離を置くことにしよう。その方がお互いの為だろう。主に私の保身の為だけど。
「ふぅー解体終了ー!身も皮も分けられましたよー!
……んぁ?どうしたんですか、トイレちゃん?そんなにわたしのこと見つめて。好きになっちゃいました?」
だが、確かにこれはちょっとキモ過ぎるかもしれない。
……いや、隊長さんの事じゃないよ。
あぁいや隊長さんも少しキモかったけど、私が本当に毛嫌いしていたのは《悪魔の魂》の方だ。あとこの女。
私のことをトイレちゃんと呼んでいる解体屋の女の事も今しがたキモいと思い始めていた。
でも、そんな乳のでかい女の事よりも……だ。
何か、隊長さんの言うように、心の底から《嫌だ》と思えるような、自然と吐き気を催すような異質な感じが背筋を凍らせてくる《悪魔の魂》の方が気になってしょうがなかった。
……見ていると、何故か震えが止まらないのだ。
「いや、なんでもないです。
……あと女、お前次にそのあだ名で呼んだらその胸に付いてる脂肪の塊をぶん殴るから覚悟してな」
「やーん、怖ーい!……マルロー?わたし殴られそうになってますよー!助けてぇー?」
チッ、このバカップルが。
私は少しでも気を紛らわすために、仕方なく隊長さんと話してやろうと、胸女にガンを飛ばしながらも後ろに歩きだそうとする。
そして……。
───label値 上昇!
───能力ヲ 獲得 シマシタ!
「ん?あ、level上がった。これでlevel5だ。
私のlevelの上がり早すぎるな。これでまた強くなって」
───label値 上昇!
───label値 上昇!
───label値 上昇!
───label値 上昇!
───label値 上昇!───能力ヲ 獲得 シマシタ!
───label値 上昇!
───label値 上昇!
───label値 上昇!
───label値 上昇!
───label値 上昇!───能力ヲ 獲得 シマシタ!
───label値 上昇!───label値 上昇!───label値 上昇!───label値 上昇!───能力ヲ 獲得 シマシ……
「…へ?ぶっ───あ゛……??」
あ?
───その瞬間、私の世界はぐにゃりと歪み、全ての情報が頭の中に入ってきた。
「…ッ!!!?????ぁぁあああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁッ??」
───なんだこ、れもうむッ!???
──ぁッ゛あ゛あぁぁあッッッぁあ!!???!!!
───づっっつっ!???
あたまがっああッッ、あッぁああッッッぁ???!
「お、おい───した!?開花くん、何がっ!?」
「ッ──長、容態確認ッ!直ぐに作戦拠点に帰還ッ!」
頭の端で誰かが喋っている!
声が大きい!頭が痛い!!!なんだこれ、なんだこれ、なんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれなんだこれ、????????。??。。。。!??????
頭の中で全ての物音が処理されている!
身体の血を巡る音でさえ聞こえてくる!
それどころか、周囲にいる全ての生物の呼吸音、風のなびく音、吹雪く雪の揺れ動きまで頭の中で共鳴するように耳から目から情報が流れ込んでくる!!!!
「あ、お、おかあ さ ……!し、い……あ……??」
血が吹き出る。鼻血だ。いや、穴という穴から出ている気もする。もう、何が何だか分からない。ただただ痛い。苦しい。辛い。悲しい。嬉しい。多幸感が襲ってくる。悲しい。もう死んでしまいたい。死んでいるのかもしれない。死にたくない。死にいた……
「っ、イヴァン!開花ちゃん担いで!
電光ラインに沿って船に戻るわよ!急いで!」
「う、うっす!」「わたし先行します!こっちです!」
イヴァンに担がれている。
──触れている所が痛い。熱い。
……しかし、もう、それどころじゃない。
「あ う あ ───きれ……」
そんな所で。
私の記憶はプツリと音を立てるように、途切れたのだった。
ーー




