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魅惑の星のアロマテリア  作者: 一人記


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2605/08/11 13:20『label4︰空間』

・用語解説

偵察隊における《health》の見方

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

          《health》


  ①・label 3 ・Code 井ノ本 開花 ・ago 14

・Strength 25 ・Agility 23 ・Vitality 18 ・Power 35


           ② S.A

     『label possession disorder』


           ③ E.S

    ーーー ーーー ーーー ーーー

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

①旧世界文字で『level』→成長段階を表す言葉らしい。

専門家たちによると正しい表記は少し異なるらしいが、世間一般的に広まっているのはそのような認識である。

他にも、codeが名前であるとか、agoが年齢であるとか、そういったことは長年の研究から伝わっているが、他の数値に関してはなんか高い方が良いということしか分かっていない。


②S.A→先天的な、または秘められた才能から来る異能力だとされている。しかしこの項目に関しては分かっていることの方が少なく、表示があっても内容が分からない事の方が多い。

また、大抵の場合『旧世界文字』で名付けされている為、専門家に見てもらわなければ名前の意味すら分からない。未だ謎の多い《health》の中でも、取り分けて謎が深いブラックボックスのような能力表示である。


③E.S→levelが上がることによって取得される技能。

およそ5レベルに1回のペースで、複数選択肢の中からランダムで一つ手に入る技能。

人によっては入手時期に1、2レベル程度の誤差があるが、現在確認されている80種程度の技能リストから、大きく逸れたものを手に入れたような偵察隊はいない。

例《acute vision》→目が良くなる。

《Muscle hypertrophy》→Strengthの数値が爆増する。

等の効果を持ったものや、運が良ければ異能力に限りなく近いものまで手に入ったりする。偵察隊からは、E.Sは努力の賜物だと言われている。


また、levelが低い頃の初期段階では、E.Sの能力欄が出てきたら能力が生えてくる前兆だと言われ、初心者に有り難がられたりするらしい。

数ヶ月に1回levelが上がれば御の字という偵察隊の環境にとっては、人生の節目となるレベルの祝事だと言えるだろう。



……そんなこんなで、そんな拘束&監視付きの日々を送りながらも数日が経過した。


「おー、あれが《第一北部未開領域》……第一特区太平洋沿いの北側ですか。なんか白いですね。フケですかね隊長?」


 第一保護区画、特にその中でも私たちが住んでいる区画特区とは昔でいう《日本/東京》辺りに当たるらしい。

今では中央大陸との間の海を挟んで、開拓があまり進んでいない向こう側も《第一保護区画》に分類されるのであまり滅多な事は言えないが、少し前までは大陸人と特区住人の間で諍いや差別も多かったらしい。


 今は少しだけ安定期に入っていて、都市のインフラもある程度進んだおかげか倫理観の保安にまで手を回せるようになったが、それでもまだまだ《未開領域》はどの場所にも眠っていた。世界で一番開拓が進んでいて安全だと言われている、第一特区のあるこの島にも少し外れればこうして《未開領域》があるのだから。


───そんな事を思いながら、五左衛門の言うように、白く染まった北の未開の大地を見つめながら、私と隊員たちは《転送船》のデッキにてだだっ広い地平線を見下ろしていた。


「五左衛門、お前は本当に凄いな。第一特区でも雪ぐらいは見るだろうに……フケって。一体何をどうしたらそんなに常識をかなぐり捨てられるんだ……?」


 純粋な疑問だろう隊長さんの困惑した声と、それを聞いてにこにこと微笑む五左衛門。


 そしてその背後ではイヴァンと魔女おばさん、船員たちがキャッチボールをして遊んでいた。

投手である魔女おばさんの投げたボールが、哀れにもデッキから真下に見える真っ白な大地へと消えていく。


 うん、ここには馬鹿しか居ないのだろうか。

だって……ボールはバットにぶち当てなければ外へ落ちていくことは明白だろうに。


というわけで、私は勢いいさんでモップを持ってキャッチボールに参加していく。


「へい、キャッチャービビってる、ヘイヘイヘイ」

「はあ!?ビビってないわよ!あんたなんかに打たれないんだからッ!」


『……あとあたしはピッチャーね!?煽り文句間違ってるからっ!』そう叫びながらおばさんが投球するボールを3個とも下に見逃しながら、私は打席を後にする。


……全部ボール球だったので当然だ。

ストライクゾーンに投げてもらわないと打てないし、ルール的にアウトなので私の勝ちである。


というわけで、私はやり遂げた顔で隊長さんたちの方に戻っていく。


「え!?あんた何しに来たの!?今のでボールもう無くなったんだけど、馬鹿ガキぃ───ッ!?」


 ……ちなみに安易に《未開領域》まで転送で飛んでこなかった理由は、安全性と燃料節約のためだ。


 安易に探索の進んでいない《未開領域》へ座標指定で飛ぶと飛んだ瞬間に死ぬ可能性が全然あるし、燃料効率も普通に空飛んで行った方が転送より十倍ぐらい効率がいいらしい。

 転送船の燃料に使われてる《悪魔の魂》は《未開領域》の悪魔からしか手に入らないから、マジで死ぬほどバカ高いって団長が会議室で愚痴ってきたので私は知っていた。会話が面倒くさかったので無視したらへの字口で髭触ってた。なんでだろうか。不思議である。


「開花くんはもういいのか?遊ばなくて」

「はい。勝ったので。勝者は何も言わずマウンドを降りるものですよ。野球っていうのは」

「俺の知ってる野球とはルールが結構違うな。地域差か?」


そんなことを話していると……到着した。

《第一北部未開領域》───残っている旧国地図でいうと、北海道とやらに分類される場所だったはずだ。


 地面にゆっくりと着陸していく《転送船》。

その着地時の風によって雪が吹き飛び、土気色の地面と揺れる青草が顔を出す光景を見つめながら、私は船員さんたちの準備を見守っていた。


『アンカー差し込めー!』『射出完了ー!』


 転送船の側方に取り付けられたチェーンランチャーから鎖と銛が飛び出て、地面に突き刺さる。

 そして、その鎖を巻き取るようにして船体を地面に固定して、動力を切っても倒れないようにする。

非常に原始的なやり方だが、これが一番確実らしい。


「イヴァン、探査輪は持ったか?」

「うっす。持ちましたー。接続も完了してまーす」

「《空間異常発動体イエノスリング》と《魔導銃エル・カノン》の準備は?」

「出来てるわよ。整備不良も無し。いつでも何処でもぶっぱなせる状態にしてるわ」

「よし……五左衛門、お前もメイスは持ったな?」

「はい。持ちましたよ。神への祈りも済んでいます。いつでも救済執行可能です」


「分かった……じゃあ、おりるぞ?いいな?」


 そう言われて、隊員の彼らは静かに頷いた。

どうやら出発するらしい。船員の一人が転送船の収納階段を降ろし、それを隊長さんが先行するように降りていく。


「……ほら、あんたも行くわよ。

離れたら死にかねないから。絶対に離れないでね」


 魔女おばさんが私の肩を抱き寄せ、手を引いてくれる。

やっぱり意外と優しい。お小言は多いけど、仲良くなったら意外と良い人なタイプである。魔女おばさん、異能も見せてくれるし、個人的に評価高い。

……名前忘れたからこれからも魔女おばさん確定だけど。思い出せたらそっちに直そう。うん。


「わ、隊長、これ凄いっすよ!めっちゃ冷めてー!」

「ん……ほんとだな。特区ではすぐ除雪されるから触れる機会がないが。ここまで降り積もると雪も壮観だな」


 足首ぐらいまで降り積もる白いふわふわ。

それにざくざくとブーツを押し付けてはしゃぐイヴァンと、軽く触れてみる隊長さん。


 うん、確かに冷たい。

私もおばさんの後ろでしゃがんで触ってみたら、しゅんと溶けていく雪の感触と、じんわりと帰ってくる熱の感覚が指先に感じられた。なんか面白い。

 特区ではたまにしか降らないし、直ぐに除雪機によって片されてしまうので新鮮だった。


「はいはいあんた達、雪が珍しいのもわかるけど、今は任務よ任務!探査拠点建てたらさっさと歩くわよ!ほら!」


 転送船から持ってきたパーツを組み立てて、簡単な大きめのテントのようなものを作る。

 そんな魔女おばさんの行動を見て、周囲で物珍しそうに雪を見ていた船員たちも慌てて動き始めた。


「設営完了しました。いつでも出発できます」


「おう、ありがとう。

じゃあ先行はイヴァン、両翼に五左衛門とマルロー。

それでカタリナは俺と開花くんと同じラインで、周辺の警戒をする。他はいつも通りだ。分かったな?」


「「「了解しました(したわ)」」」


 という訳で、私の初めての偵察隊行動が始まった。

もちろん突然乗り込んできた私に対する監視のための、仕方ない同行、という形ではあったけれども。


内心、少し緊張していたのはここだけの秘密である。


ーーー


「……ッ、ハハッ!あ、危なァー!

今オレ死にかけたっすよ隊長ー!?見ましたー?!!」


 足を踏み出した先、イヴァンはそこにあった歪みの大穴を咄嗟に側方に倒れることで回避する。

 きっと、あのまま踏み込んでいたら、イヴァンの身体ごと空間の歪みに持っていかれてただろう。体重移動で回避するってすごいな。伊達に斥候役やってないって感じだった。


「見ましたー?じゃねえよ!お前危ねぇだろ、イヴァン?!もっと気をつけて歩けー!」

「ハハッ、すみませんっすー。……じゃ、ここバツ付けてくるんで!ちょっと待っててくださいっすよー!」


 でも、みんな気がついてなかったのだろうか?

 そこに()()()()()って事に。


 探査輪を掲げ、空中に『電子線』を引いていくイヴァン。

ちょうど穴がある数メートル手前辺りから、自らの目線下あたりに大きなバッテンを描いたかと思うと、慎重にさっきの穴の周りを歩き始める。


「おー、結構でかい穴っすねー!テンション上がるなぁー」


 そうして、探査用の杖を取り出して地面を突き、積雪を貫いて穴に落ちそうになったら下がって、線を引いて、また歩いて、輪郭を探して、下がって、線を引いて……うん、偵察隊って感じだ。実際に見たことはなかったけど、こういう危険と隣り合わせになりながらも、地道な努力の上に安全を確保するのが偵察隊の仕事なのである。


……ちなみに、各隊同士の安全帯などは付けられない。

穴や裂け目によっては引きずり込まれるタイプのものが存在し、それによって全滅する危険性があるからだ。


 なので、繋げるとしても数人。

基本は運動能力の高い一人が先行して歩き、その後ろを各隊員が三角形の形で追従して安全エリアを広げていくのが主流の歩き方である。そして、隊の隊長はそんな隊列の真ん中で指示&地図の作成報告が主な任務だ。

隊のメンバーが死んだら撤退か進行かを判断したり、死ぬまえにどうするかの判断と責任を負うポジである。


 よって、探索に失敗した偵察隊の中で一番世間一般に叩かれるのは隊長になることが多い。

大体生き残って帰ってくるからだ。成功しても、失敗しても。


「しかし、やっぱ見にくいな、雪があると」


「そうね。歪みの入り口が雪の中に埋まってるからか、イヴァンでも歩きにくそうにしてるわ。珍しいわね」


───歪み。

 自然には何もないように見えるが、人や動物、特定の物質が触れると通り抜けて別の空間に投げ出してしまう時空間異常のことだ。いや、確か、正確には時空間では名称があっておらず、認識が間違っているらしいが、私が世界史で勉強したのはこの程度の知識だった。


 なので、雪が降り積もっていても、その雪は落ちることなくその場に残り───その下に穴が生成される。自然の落とし穴というわけだ。

 だから《第一北部未開領域》は偵察隊や市民たちから嫌われている。普通になんの予兆もなく死ぬから。結構な高難易度なのだ。


 でも……なんでだろう。

私、危ない場所が分かるなぁ。


「あ、イヴァンさーん、そこ危ないですよー」


「ん?なんすか開花ちゃん?危ないってなにが───」


───ジュッ!!!

先行していたイヴァンの、探査杖が裂け目に呑み込まれて消え失せる。

「ッ───!」

そして、咄嗟に後ろに下がったイヴァンの手にあった探査杖は飲み込まれた先端部分が溶けるようにして泡立ちながらその姿を現した。


……どうやら予想通り裂け目があったらしい。

それも繋がってる先が危険なタイプのヤツ。それを見て、私はうんうんと頷く。


「あー、やっぱりだ。

なんか危ない気がしたんですよね。その先」


 嫌な予感のする場所が目の前に壁のように続いていたから、もしかしたらと思って声をかけたけど、正解だった。


「え?……開花ちゃん、今なんか予兆ありました?

空間の揺らぎも、透過現象もなかったと思うんすけど」


 空間の揺らぎ。文字通り異常のある空間が歪んで見えることで、透過現象はその先の繋がっている空間が透けてみえる現象の事だ。多分、そういうのは無かった。


「いや、なんか分かりました。勘でーす」

「勘……勘っすか?でも開花ちゃん、誰よりも早く気づいてたっすよね?少なくとも、オレよりは」


 なんか隣にいた隊長さんが黙り込んで私たちの会話を聞いている。なんだろうか。お腹でも痛いんだろうか。可哀想。


「ははは、イヴァン、嬢ちゃんに助けられたな!ダセェー!」

「はぁー?!マルロー、言っとくけどお前も助けられた側だからな!?あのまま進んでたらお前も落ちてたから!絶対!」


 イヴァンとその隣に居たマルローさん。

……私が男子トイレに入ってるのを見られた内の一人である赤毛の青年が、互いをからかっては肩を叩きあっている。彼に関しては恥ずかしくてあまり顔を見れていないので顔立ちは朧気だが、トイレで私を見て心底ビビってたのは覚えてる。


「はいはい、もういいから!

ここの裂け目だけマークして先行くわよ、あんたたち!」

「「うーす、分かりましたー」」


 なるほど、ここの隊をまとめているのは意外と魔女おばさんなんだな。おばさん、お調子者っぽい二人の手網をしっかり握っているようだ。


 まぁ、あれだけの異能の使い手なら当然か。

私もあれを見せられたら、さすがに尊敬しない訳にはいかない。たぶん人類の希望側の人間である。

それぐらい、あの炎や雷を発する異能力は珍しいと思う。他の異能力者を見たことがないので多分だけども。


「……開花も、何かあったらまた言ってくれていいから。

勘でもなんでも、生き残れれば勝ち組よ。じゃんじゃん言いなさい?いいわね?」

「はーい。分かりましたー。なんかいいます」

「ほんと軽いわね、あんた……?まぁいいけど。じゃあ次行くわよー!」


 という感じで、私を含めた『獣王の鬣(キングス・レオ)』偵察隊は『第一北部未開領域』の白銀の大地を、問題がないとまではいかないまでもつつがなく進んでいくのであった。


ーーー


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