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魅惑の星のアロマテリア  作者: 一人記


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2605/08/08 12:50『label3︰六旅』

・用語解説

《中央大陸》

『亜空間バブル崩壊』が起きてから、人類の生存圏は大きく減少した。人類は身を寄せ合うように保護特区を作り、その周囲から探索を始めていった。

比較的数の残っていた日本国の人類圏から『偵察隊』の走りのようなものが生まれる。それを皮切りに、未だ通信の出来た各国も同様に安全な国家間でのインフラの整備を始めた。


 日本国の太平洋沿いから、大西洋を挟んで旧ユーラシア大陸手前辺りを『第一保護区画』と制定。


 他にも、高度な科学技術によって開発されたワールド・デジタルマッピングシステムを搭載した装置、《探査輪》によって探索の進んだ地域が幾つか。


 それを『第二』『第三』『第四/五保護区画』と呼ぶ。


そして件の『第一保護区画』の旧ユーラシア大陸側、今はもう『未開領域』による危険地帯だらけとなってしまった場所を『中央大陸』と呼ぶ。


 また、現在では通信が途絶えている為、把握しきれて居ないが『第六、第七保護区画』になり得る安全地帯も出来始めているようだ。すごい!



「───嘘よ!嘘嘘っ!

……そんなわけ無いでしょっ!?」


 ヒステリックに叫び散らかす魔女おばさんの甲高い声に、煩わしくなって耳を塞ぐ。


「いやだから本当ですよ。

私、ほんの一週間前まではlevel1どころかlevel0でした。

だってここ数日で偵察隊になりましたし。levelも今さっき3に上がりました。多分ですけど」


 乗り込んだ時はlevel2だったから、ここ三日のうちに上昇してる。それは間違いないのだ。

なのにこのヒス魔女おばさんときたら……私が嘘つきだって言うのだ。とても心外だった。


「まぁまぁ二人とも、一旦落ち着けって……カタリナもあんま叫ぶなよ?作戦会議室あんま防音良くないんだから。聞こえるぞ、他の船員にさ?」


 団長さんが赤髭を擦りながらおばさんを止める。

どうやら私の《health》の内容を叫ぶのは個人情報だしやめろと気を使ってくれているようだ。赤髭さんは案外良い人なのかもしれない。

 この船の中で一番ヤバそうなパーフェクトマックス馬鹿は置いといて、ここの偵察隊男性陣は案外気がいいのかも。そんなことを思いながら、目の前の魔女コスおばさんに向ける。


「それに比べて魔女おばさんは……はぁ、何度言っても聞いてくれない。ツラい」


「はぁ!?誰がおばさんよッ!?

私はまだピチピチの20代よッ、バカガキがッ!」


 そう言って眉間に青筋を浮かべるおばさんは、ぷるぷると震えて必死そうに弁明していた。

どうせ二十代後半ギリギリとかなんだろう。それはもう世間一般からすると三十路である。可哀想に。


「うわぁ、女の争い怖ぁ。こういう時って肩身狭くなるっすよねー。オレらって」


「お前……それ検閲官に聞かれたら裁定食らうからな?ソレ系は《偵察隊》を滅ぼしかねんのだから気をつけろよ……?」


 背後でようやく馬から人になったイヴァンと団長さんがコソコソ話しているのが聞こえてくる。


 ソレ系。多分、いわゆる文化的な風習による性別蔑視のことである。結構昔から存在する価値観らしいが、人気商売だからか《偵察隊》はこういうので結構叩かれたりするのだ。

話題の広がり方によっては区画管理の検閲官からダメ出しを食らって諸隊員全員が捕まる可能性もある。


何故ならば、今は『WDMs発のニュース記事』が普及しているからだ。

"World Digital Mapping"システムを流用した『World Digital Networks』、偵察隊の《探査輪》によって開拓された空間に敷かれる電子の構築線を通る、一定区画内でのネットワークシステムが確立されてしまった為、意外と偵察隊の悪い噂も黄色い話題もすぐに広がってしまうのだ。


偵察隊が発足された最初期の頃は、こんな物も事もなかったらしい。だが……荒れていた時代から、時が進んで法や秩序が整備された影響だろうか。


なんでも、私達は今、かつて人類が最も繁栄していた時代と同じ問題を繰り返すように、同じような発展経路を辿って文化を形成しているようだ。人間、少しでも余裕ができたらそういう所に目を向けたくなるのだろう。


……まぁ、私には余裕が無いので『そういう記事』も買う余裕が無いし、性別がどうとか差別がどうとか、そういう話をする以前に飯が食えれば満足なのだが。

それに"赤タグ"はそういうのそもそも対象じゃないしね。当然、私には興味も感心も無い話だった。


ーー


 閑話休題。


「まぁ、取り敢えずだ、開花くん。

キミの処遇だが、当初の予定通り帰るまで私たちと共に行動してもらう。というか拘束アンド連行だな。

そして区画に戻ったら第一警備会社に突き出すから。そのつもりで過ごしてくれたまえ。性犯罪者として」


 うん、という訳でまさかの性犯罪者扱いだ。

ちょっと気になって男子トイレに入って用を足してただけなのに。団長さんはわからず屋である。


「いや、だって君、マジで純然たる意思で男子トイレに忍び込んでたじゃん。話聞き出した限り。お腹下して止む無くとかだったらギリこっちは見逃したけどそういうのじゃなかったじゃん。驚いたよ普通に。怖いよ。キミ。」


 食堂に移動して、ご飯を食べながら団長さんに顰めっ面で指刺される。その表情から伺える感情はガチ引きだ。

まぁ、私も男子トイレって構造とかどうなってるのかなー、の興味本位で入って催してそのまま見つかったから言い訳できなかったので、仕方がない。


やっぱり一度気になったものは調べなければ。知的好奇心には逆らえないのだ。私、知的だから。


「まぁまぁ団長さん。いいじゃありませんか。

私も、かつては修道院教育の頃に女子トイレに忍び込みました。若気の至りって奴ですよ。神は許してくれます」

「うわぁ、怖ぇよ。お前もかよ。なんでそんな奴が二人も船に乗ってんだ……俺の周りはなんでこんなヤバい奴が……(ブツブツ)」


 食堂のスチール製のテーブルで左をイヴァン、右を魔女おばさん、対面に団長さんパーフェクトマックス馬鹿に囲まれながら『植物脂スープ』。

植物性の油で乾燥したコーンやら人参やらと調味料を固めて作られた湯煎スープを飲んで一息つく。


「ふぅ……」


 うん、やっぱり《偵察隊》の食べている栄養食は美味しいな。一般市民用の安い固形インスタントスープと比べて旨み成分と調味料の質が大違いだ。これだけでも乗り込んだ甲斐があった。


「すみません、このスープおかわりお願いします」

「はぁ?ちょっとあんた図太過ぎない?!……あ、団長、私もおかわりよろしく。お湯入れて持ってきて」

「え!ならオレも欲しいっす!宜しくお願いします団長!」


「なぁ、五左衛門。こいつら一旦〆ていいか?これ殴ってもバチ当たらないよな?俺……?」


 しかし団長さんにそう問われたパーフェクトマックスウルトラ馬鹿さんは食事に夢中だった。

今はスープの中のコーンを取ろうとして、何回も箸を滑らせてはにこにこと微笑みながら挑戦し直している。隣にあるスプーン使えばいいのに。私はそんなことを思いながらも口に出さずにスプーンでスープをすする。


「てかあんた、よく見たらSAまであるじゃないの。なんでそんなの持ってて赤タグなわけ?馬鹿なの?」

「馬鹿じゃないです。むしろおばさんの方がバカです。バカって言う方が馬鹿。昔の経典にも書いてありますし」

「ッあ!?あんたどこまでも喧嘩売るわね!?そんなの知ってるわよ!馬鹿じゃないもん!あたしッ!」


「まぁまぁ。でも、SAがあるのは本当に珍しいな。

label possession disorder……これ、どんな効果なんだ?開花くん?」


 S.A。俗にいう異能と呼ばれるものである。

healthに大抵の場合先天的、しかし稀に後天的にも生まれ出る特殊な技能の事だ。


 でも……そもそも数が少ないし、使いこなせる異能を持った人間なんてほんのひと握りだと聞いたことがある。そういえば私にもあったなぁ。確認してみよう。


 そう問われて、改めてhealthを確認する。

……?だめだ。タップしても反応しない。情報が見れないみたいだ。


「反応しないですね。どんな効果か分かりません」


「はっ、あんた、それ意味無い特能なんじゃないの?あたしの《Abnormal Brain Waves》と違ってさ!」


 そう言いながらぽっと指先に火を灯す魔女おばさん。

その小さな火を見て……私は思わず驚いて目を丸くした。


「ふふ!バカガキ、ほら───すごいでしょっ?」


 ゆらゆらと揺らめきながら、彼女の指先で踊る炎。

掴めば消えてしまいそうだがそれは確かに彼女の意思で動いており、指先にライターを仕込んでるとか、彼女の指が火打石だったとか、そういう種も仕掛けもないようだった。


「こんなことも出来るわよ?私なら!」


───そして。

挙句には指先を離れてふわふわと浮かび上がり、私の周囲を回り始めては最後に私を煽るようにして目の前でパッと消え失せる。

この人ほんとに凄い異能使いだったんだ。すごい。


 私は思わずスプーンを取り落としてその炎があった場所を見つめたあと───魔女おばさんに対してめいいっぱい感情を出すようにして、ぱちぱちと拍手した。


「すごい。魔女おばさんって本当に異能使いだったんだ。コスプレじゃなかったんだ」


「っ、一言余計よ!?あんた、どんだけあたしをバカにすれば気が済むの、いいかげんにしなさッ……」

「いや違う。ほんとにすごいと思ってる。見直した。

わたしにはそんなのできないから……ほんとに、すごいなぁ……今の……」


 思わず感心するほどの、異能だった。

世界教育での教科書や外聞で聞いただけの、輝かしい《偵察隊》の一人の姿がそこにあった。


「わたし、あんまり職場から出たことなくて、偵察隊とか見たこと無かったから……すごかった。

あんなの、ほんとうは教科書の中だけだと思ってた。すごいんだね、魔女おばさんは」


「……っ、そう!ま、まぁあたしは凄いし?

《偵察隊》の中でも期待の新人の異能使いって呼ばれてるし?おばさんじゃないけどねっ!」


 ふふんと鼻を鳴らす魔女おばさん。

何故か頬を赤らめているが、なんでだろう。風邪でも引いたんだろうか。


「ほ、ほら、他にも見せてあげるわよ!

私、火だけじゃなくて水も電気も出せるから!見ててね、ほら───!」


 そのあとも、おばさんから沢山異能を見せてもらった。

ご飯を食べ終わる頃には異能の使い過ぎかフラフラしていたが……何故か満足そうだった。


 なんでだろう。不思議な人だ。

でも、私は私のことを異能であやしてくれる魔女おばさんのことを少しだけ見直したのだった。

これからも見せてもらおう。見ていて、綺麗で楽しいし、何より凄い。


……それをおばさんに言ったら、やっぱり頬から耳まで赤くなっていた。変な人だ。風邪じゃなきゃいいけど。


ーー


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