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魅惑の星のアロマテリア  作者: 一人記


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2/12

2605/08/05 6:50『label2︰港』

・用語解説

《health》

この世界の人民に標準装備されている身体機能表示。

目を瞑り数秒間待つ事で《脳の????中》にアクセスし、自らのlabelと能力値、状態異常や特殊技能を確認することができる。

数百年前の人類が作り上げた《謎の科学技術》による生物機能の一種である。怖いね。



「おらー!お前らぁー!

錨を上げろー、出航だぁッー!」


───人類保護第一特区。

 その大通り沿いの港にある薄黒い海で、空に浮かぶ大型船が地面から飛び立とうとしていた。


 海底に突き刺さっていたであろう鎖。

海から次々に顔を出していくリング状の繋ぎ目が、うねる黒海の水しぶきを海面へと落としながら巻き上げられる。


───壮観な眺めだ。

 いつから海がこんな色になってしまったのかは、元の青い海とやらを見たことがないので知らないが。

タールの様などろどろとした液体が滴っていく光景は、なんというか、こう、一種の気持ち良さを感じるなと私は思った。


「あれ、『翠の力帯(プロウス・ジェイド)』だ。

遂に太平洋境界線の偵察に乗り出すんだな……

何とか生きて帰ってきてくれると良いが、どうだろうか」


 何でも、かつて水の星と呼ばれた《Earth》の海は綺麗な青色だったらしい。


 それが今の粘度の高い黒海になった理由は定かではないが、一説によると《太平洋の果て》にある大きな空間の歪みにあるらしい。


……その名も《太平洋境界線》。

今まで、数十師団もの『偵察隊』がルート調査に挑んできたがその調査を終え帰って来た者が居ないという《危険度︰ステージA》を超えた《危険度推定不可能の特殊領域》である事が噂されている大境界である。


 その《太平洋境界線》から、あの謎の黒い液体が流れ出しているらしいのだ。

それによって世界では海魚という生き物が一切捕れなくなって食物自給率が著しく下がってしまったらしい。

人類の半数が死滅したのも、これが大きな原因と言われるほど、世界に多大な影響を与えている歪みの一つだ。


「さぁ、準備完了だ!行くぞー!

───お前ら《転送》に備えろぉッ!!!!」


「「「「おぉぉぉーーーーッ!!!!!」」」」


 そして、そんな境界線に挑む無謀な者が、今日は一師団居るようだった。


 彼らは『翠の力帯(プロウス・ジェイド)』。

今、人類保護第一特区で順風満帆の功績を挙げ台頭している『トップ偵察隊』の内の一つに名を連ねる『偵察大隊』である。

───そんな『翠の力帯(プロウス・ジェイド)偵察大隊』の《転送船》が、大きな唸りをあげて光り輝き始めた。


『ゴウゥゥゥゥゥンッ!!!!』


 あれは《転送船》だ。

空間の歪みの中で手に入る《悪魔の魂》をエネルギーとして使用することで、《転送》という空間を瞬間移動する歪みを作り出すことの出来る偵察隊用の箱舟だ。


小さな物から大きな物まで様々あり、所有している船の大きさによって《偵察小隊》《偵察中隊》《偵察大隊》と偵察隊の呼ばれ方が変わり、転送出来る距離も変わってくるらしい。

ここに来るまでに電子閲覧室で少し調べたけど、小さな船でも結構なお値段だった。


 一隻、私の清掃の給料の千~1万倍とかだ。

つまり150000~1500000AP。手が出るはずも無かった。


「の、乗れなかったぁ……」


と、言う訳で。

私は現在港の転送船搭乗口の目の前で、しゃがみこんで絶望している最中だった。


 理由は簡単である。

現在、受けた《偵察隊》の数およそ6件。

8月4日、つまり昨日の時点で色んな《偵察隊》の元に足を運んで、《転送船》の中に同乗させて貰えるように頼み込んで土下座までしたというのに……。



「うわぁぁぁあ、明日からの家、どうしようぉうあ……。」



───私はその全てに断られて、現在、家を失っている最中なのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……はぁ?!ダメダメッ!

《赤タグ》の人間なんか、うちの偵察隊には入れられないよッ!?帰った帰った!!!」


 無機質な鉄材造りの高層タワー。

その一階~四階部分を占めている・偵察中隊『箱中の泉(シュリンク・レイク)』に追い出されて、今、まさに私は今日3度目の不合格を経験している。


「く、くそぉ……誰もいれてくれない……!

わたし、こんなにも優秀なのに、、、なんでぇ……!」


 この数日で《label》が1上がった。

今まで0で上がってこなかったからか、才能なのか、恐らく他の偵察隊に比べてlabelの上がり方が爆速である。

普通の一般市民がlevel1にすらなれずに大抵の場合人生を終えることを考えると、破格の速度だった。


……だというのに、不合格。

この右手首に刻まれた《赤タグ》の烙印が効いているのだろう。これまでに断られた偵察隊の、私を見た時の嫌そうな顔を思いだす。


 七段階ある市民管理タグ、通称『管理タグ』。


 8歳までの《世界教育》過程修了後に能力値を調べられ、配られる事になる『その人物の基礎能力』を表す評価基準であり、『赤、青、黄、緑、白、黒、紫』の順に高くなってその評価によって就ける職も変わってくる。


……大体《health》の四項目数値合計が『100』程度で青だろうか。青になれば一般的な職業には大体就けるので、一旦はそこを目指したい所だ。


「あーあぁ。これで最初から黄色……

せめて青だったら引く手あまただったのに。悲しい」


……家無し、職無し、ご飯無し。

 しかも『フリーランス偵察隊』になったその日の夜に、生成肉ではない《家畜の肉》を食べて豪遊したり、偵察隊に必要な《探査道具》を買い揃えたりして散財したので貯金もぜんぶないなった。


……そう、全部だ。私が日給15APのデブリ清掃で、今まで貯めてきた6000AP余り、全部。


 うん、このことを考えるのはやめよう。

過去のことを嘆いても仕方ない。今考えるべきは未来のことだ。特に、直近の明日のご飯とか。

安価ペーストは絶対イヤだ。あの泥水の塊のような味はもう一生味わいたくない。なので、考えなければならないだろう。


「……(ぶらぶら)」


 どうすれば《転送船》に乗せて貰えるのか。

また、よしんば《転送船》に乗れないとしてもどうすれば『衣食住』が確保できるか。


 もしくは、その二つが同時に解決できる方法……。

今すぐにでも《赤タグ》の私が『偵察大隊』か『中隊以上』に入れる保険はないだろうか?うーん、ないだろうなぁ。

 だって赤タグだし。保険も適用されない場合が多いんだよなぁ……。赤タグ市民って。


「早く《青》になりたいな。

あと1ぐらい level が上がれば、合計数値100は超えるはずだけど……」


 そんな時だった。


「おぉーい、そろそろ出航の準備だ!今回の目的地は割と遠いから、燃料と物資の積み込み怠るなよー!」

「うぃーっす」「わかりやしたー」「りょうかいですっ!」


 私がボケっと眺めていた港の発着場で、中隊程度の規模感の《転送船》が出航準備を始めていたのが目に入る。


獣王の鬣(キングス・レオ)』。

確か、ここ最近出来た数十人規模の偵察中隊で、かつてのEarthに存在してたとされる《獣の王》を象った勇猛なマークが特徴の団体だ。


 最近、ネットコラムで沢山目にする『翠の力帯(プロウス・ジェイド)』程じゃないにしても、新参の偵察隊にしては破竹の勢いで上までのし上がってきており、今、若者の間で少しずつ話題になっているぐらいの中堅帯の偵察隊だったはずだ。


「よぉーし!燃料積み込んだな!じゃあ次は武器だ!

空間異常発動体イエノスリング》と《魔導銃エル・カノン》はマストで持っていくとして、あと必要なのは……」


……そんな今話題の偵察中隊が私の目の前で出航の準備をしているという場面を見て、私はふと思いついた。


「あ、そうだ。乗り込もう。あの転送船に」


 そうすれば今抱えていた悩みの全てが一挙解決だ。

乗り込んだのがバレたとしても、乗った後ならもう帰せないし、乗組員のフリをすればそうそうバレないバレない。


「よし、じゃあ行こう。私の英雄道キングスロードの始まりだ。うん」


 という訳で、私は目の前の『獣王の鬣(キングス・レオ)』の積荷に紛れ込んで、彼らの《転送船》に乗り込む事に成功した。

 因みに警備は意外とザルだった。こういう所が中隊っぽくて良いね。やり易かったぜ。


「よぉーし、準備万端だなっ!

じゃあ全員乗り込んで探索に出航だッ!みんな気を引き締めていけよっ?!」


「「「「おぉ〜!!!!」」」」


 木箱の中から見える、号令をかけた『偵察隊長』っぽい男。

見たまんま猪突猛進型の直情タイプって感じの淡い赤毛の号令で周囲にいた船員達が唸りを上げる。


「はぁ、面倒臭い。また始まるのね、探索が」

「ハハッ、姉御、偵察隊が未開領域の偵察しなくてどうするんすか!それただの無職っすよw」

「おぉ、お労しい……」


……なんか分かり易く目深な帽子を被った《異能使い》っぽい人、見るからに《探査輪》をつけて走っていきそうな痩せぎすのローブの人、聖職者っぽい人。


「よし、行くぞァーっっッ!

今回も、人類のために頑張るぞお前らぁ───ッ!!!」


 そんな、比較的オーソドックスな偵察隊の構成と隊長を見て、私は内心、こういう分かり易く猪突猛進な所が偵察中隊たる所以なんだろうな……と思った。


 きっと実力はあるのだろうが……うん。

これからの活躍に期待って感じだ。頑張れ、隊長さん。


「うん、栄養バーおいしい。もっとたべよ」


……そんな事を思いながら。

私は一緒に積み込まれていた『固形栄養菓子』を一口かじり、木箱の中でひとり優雅に横になって彼らの事を眺めていたのだった。


ーー



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