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魅惑の星のアロマテリア  作者: 一人記


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2605/08/15 20:30『label???︰前線』


「はははははッ!?悪魔よォァ!!!そんな攻撃はよ、大振りすぎて当たんねぇんだよなぁ……っとッ!」


 大きく振り挙げられる悪魔の雪塊の腕を、荒々しい粗雑な髪を刈り上げた彼は悠々自適に回避する。

彼はリャン=ロウ。未来を予測する異能によって数年ほどの短期間で大隊まで駆け上がって来た『狂わしき(フィス・イル=)獣の宴団(ビーストル)』の隊長である。


「はははははッ、当たんねぇ、当たんねぇッ!よえぇなぁ大悪魔!!!?」


「たいちょぉーーー!!それ言えるのアンタだけー!!!

一般人のアタイらはこれ結構辛いんだけどぉ!??マジ受けるので精一杯なんだけどぉ!!!?」


 今、前線には数十人の偵察隊が並んでいた。


彼の予測によって死を予見された者を補給に回し、極力人数を減らさないようにする。

そして対する大悪魔の本体には、彼に付き従う『狂わしき獣達』を中心に、全貌の見えない大吹雪の悪魔の巨大な身体を堰き止め翻弄するかのように守護の隊列を組んでいた。ここで確実に仕留めるための作戦だ。


「おう、頑張れマリーッ!どうだァスハ!魔導砲の準備は出来たかぁ!?撃てるぅ!?」


『うぃーす、あと少しでーす。時間稼ぎヨロー』


「……だとよぉマリー!

俺たちは頑張ってもう少しコイツと遊ぶぞァ!!!?」

「ひぇえええ、まじぃ?!?

もうガチで無理なんだけどぉおおおー!??」


 そう叫ぶマリー・レイナシアの両腕は、戦闘開始十分にも満たないにも関わらず既に酷い有様だった。

異次元の生命体である大悪魔の攻撃を得物のタワーシールドで防ぎすぎたのか……各所に"バグ"のような裂け目が浮かんでおり、その身が瘴気に侵され始めていることが一目で分かる状態となってしまっていた。


「ハハッ、マリー!お前それ後で翠の所のヤツに治してもらえよぉ?!そのままにしてたら死ぬからなァ!!」

「うわぁ聞きたくなかったァ!アタイ今そんなヤバいのぉ!?怖すぎるぅうぇ!!!」


 しかし、そう泣き事を漏らしながらも、彼女は彼らの盾の役割をしっかりと果たしていた。


迫り来る幾重もの吹雪の複腕の一撃をその身でカバーし抑え、立ち位置を細やかに変えて隊長であるリャン=ロウの行動をサポートする。

彼の右腕であり『獣の盾』の異名を欲しいままにしている大隊員であることは、やはり伊達ではなかった。


「っ、あぅわぁ……!腕感覚ないよぉ!?

やばいやばいやばいって絶対これぇ……!!!?」


 だが、それでも時間の問題だった。

幾ら彼らが優秀な大隊員だったとしても、大吹雪の巨体に切り込むには如何せん体が小さ過ぎた。


……というか正直、幾ら未来が予測できる『狂わしき獣』の大隊長であろうとも、この状況は少々計算違いであったのだ。


(チッ、まさかこんなにヤベぇ悪魔だったとはなぁ。

中隊が命からがらでも帰ってこれたレベルだと思ってた手前、正直舐めてたぜ。畜生ッ……!)


 そう、未来が予測出来ると行っても、それは精々が数分から数十分後の未来だ。

読む未来が短ければ短くなるほどその情報の確度は上がるし、長くなれば長くなるほど確度は下がり幾つもの未来が浮かんでは消えてを繰り返していくようになる。


……余談だが、彼の本当の異能力の詳細は完全な未来予知ではなく、生存本能からやってくる凄まじく高性能な予測の様なものなのだ。


だからこそ、確実ではないのである。


「……ッ!チッ、ここで俺集中狙いかよッ!!」


"生存本能"が告げる。


彼自身の身に降り注ぐ、塊となった吹雪の、もはや氷柱の様な形状になった悪魔の複数の腕が視界の中に幻視される。


不味い、避けれない───!


『ズバン───!!!』


『炎の……えー、大隊B、エンカリスよ。

軽くサポートするわ。有り難く思いなさいな。』


「……はっ、炎の女かァ!アイツ意外とやるなぁ?

ガキとのやり合いのときも本気じゃなかったってのは嘘じゃねぇってか!ハハハッ!!!」


 白き炎の光線が降り注ぐ無数の氷柱腕を撃ち抜く。

ひとつ、またひとつ、ひとつ二つ三つ、と綺麗な軌道で彼に当たりそうになるものを弾いて行った。

本来から肉弾戦向きではないのだろう。つまり、異能によるスナイパー気質だということだ。その点において彼女の右に出るものは居ないのかもしれない。


『あー、あー……我ら獣のみなさーん。

持ってきた魂大体込められたんで発射準備に移りまぁーす。退避お願いしまーす』


……その瞬間だった。『きゅいんんん』という、馬鹿でかく甲高い異音が背後から聞こえ始める。


「やっべ。逃げるぞマリー!死にたくねぇ!」


「あ、わわ、待って待って隊長!担いでぇ!」


「チッ!お前それ重いんだぞぁ!?わかってるかぁ?!」


「だってぇ!もう腕ないも同然なんだもん!怖いもん!!!」


『ゴォオオオオオオオオ……』


 駆けていくフィスイルの面々。

そしてそんな彼らを追いかけようと蠢き出した大吹雪の悪魔が、ゆっくりと、しかし大きく彼らの"臨界点"の射程範囲に入ったところで───。


「あらよぉーっと、どかーん」『ギュイーーーン───!!!!ドパァぁぁぁあァァァァァアアアァァ───ン!!!』


……指示役兼工作員のスゥハ=ラングリーの砲撃ボタンが、瞬間、ぽちりと押し込まれたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ドパァぁぁぁあァァァァァアアアァァ───ン!!!』


「……おわー。なにあれ、すごい光。異能?」

「おー、アレは魔導臨界砲ですね。リャンさんあれ持ってきてたんだ。初めて見ましたよ僕」


 凄まじい轟音と共に眩い光が発せられる。

その衝撃はここまで届くぐらいで、恐らく音圧だけで周囲にいる人は耳死ぬんじゃないかなって思うぐらいの威力をした火力をしていた。試しに無線をしてみる。


『あー、あー、大丈夫ですかー?』

『次弾装填、装填!聞こえてるやつ、次弾装填してさっさとうてやオラァ!!!!』

『あー聞こえてない。やっぱり耳やられてるんだ。すごい可哀想』

『ガキ、あなたよく無線でそんなこと言えたわねぇ……まぁ私も思ったけれどね。』


『良くやるわよね。あんな近距離で臨界砲とか。やっぱり狂ってるわ、フィスイルは。』


 そんな事を無線で嫌味おばさんが話しながら、ため息をついている。喧嘩したのになんかこの人意外と話してくれる。殴りあって顔ぶん殴ったのに。意外である。


「ははは。なんか不思議って顔してますね。フリーランスのお嬢さん?」

「ん、嫌味おばさんが意外と話してくれるなって」

「そりゃそうですよ。あの人が嫌いなのってあの妹さんだけですし。他の人には割と寛容です」


 まぁ口は悪いですけどね。そう言って、上空にうち放たれる白い炎の線を指さして回復さんは笑った。


「本来ならば優秀な人なんですよ。意外と臆病ですけど。仲良くしてあげて下さい。悪い人じゃないと思うので」

「でも殺そうとしてきたよ?異能で」

「まぁそれは……煽られましたから。仕方ないんじゃないですか?彼女にとってはね?」


 そう呟くと回復さんはふっともう一度何かを思い出すかのように鼻で笑い、何か楽しそうにした後、しかし途端に顰めっ面で遥か彼方を見上げた。


「てか、アレで死なないんですね。リャンさんの無線で嫌な気はしてましたけど、ちょっとこれは予想外です」


「死んでないの?吹雪の悪魔。よく見えるね」


「えぇ、これでも目は良い方でして。

……中隊長さん、さっき準備してたあの遠距離魔導砲もう動かせますか?サポートお願いします」


 そう言って、周囲にいた隊員達に的確に指示を出し、颯爽と動き出す回復さん。とても風格があった。人を動かすのに慣れているのだろう。自らの隊員ではないレオの隊員たちもいつの間にか手足のように使われている。


そしてそんな彼に呼ばれて隣に居たレオは困惑しながらも「あぁ、分かった」と頷いてついて行き、その後ろに私も同伴した。向かう先はレオ隊の魔導砲設置位置、つまり魔女おばさんの所だった。


「おーい、カタリナー!

リさんが魔導砲使いたいってー!」


「は!?わたし今異能込め終わったんだけど!?

これ仕様的に一発撃たないと私以外撃てないわよ!?」


「え?うん、はい……適当に撃てだとさー!」


「はぁあ!?わたしの異能なんだと思って───!

……いや、まぁいいわ!どうなっても知らないわよ!?」


なんか吹っ切れた様子の魔女おばさんが幾つかレバーを倒すと、次の瞬間、少しの待ち時間の後に『ズパァァァン……!』と土と雷で出来た弾丸が撃ち放たれる。


───複数異能の合わせ技だ。これは特別な異能を持つ魔女おばさんにしかできない芸当である。

そんな凄い攻撃に私はおぉと感心しながら手に持っていた魔導銃のスコープで彼方を覗き込み、着弾地点を確認した。


『……ゴォォォオ。』


……あれ、なんか痛くなさそう。多分あれ効いてないな。

吹雪の奥に見える幾つかの瞳が暗く光っているが、そのどれもが意に介していなかった。


「おばさんの異能、弱いね」

「るっさいわねぇ!?これ旧式だし遠距離型だから威力出ないのっ!!!私依存じゃないの!解る!?」

「……それで、回復さんはどうするの?異能撃つの?」

「話聞きなさいよ!?」


 今まで一、二度しか存在を確認されてないようなエグめの大悪魔。それを前にしてるからかおばさんはいつもよりも若干テンション高めだった。不謹慎だけどちょっと面白い。


「えぇ、そうですね。撃ちますよ。

まぁ、でも───あくまで撃つのは悪魔の方じゃないですけどねッ!ふふっ!」


……ドバン!

私たちがボケとツッコミしてる間に回復さんが手早く装填を済ませて弾丸を撃ち放った。するとその弾丸はスルスルと照準があっていたであろう対象に飛んでいき、そのドタマの真ん中にクリーンヒットする。


『ザザッ、あーあー、聞こえますかリャンさんー?

いま魔導砲で回復氣弾打ち込んだんですけど、回復しましたー?』


そして回復さんは対象への着弾をしっかりと確認したあと、徐ろに無線機を取り出して話し出したのだ。

……あれ?てか今さっき回復さんダジャレ言った?いや気のせいかな。気のせいだろう。多分。おもんなかったし。


『……ん?!おぁ!!これお前の仕業かァ!

ハハッありがとなぁ、流石便利だな、サポート特化野郎はよぉー!?』


『はははは、そうですよねー、便利ですよね!

……帰ったら絶対お金の話しましょうね!絶対にね!』


『ぐ、お前、そういうとこあるよなァ……!わかった、わかったからこれからも打ち込め!金は弾んでやる!』


「悪い笑みだね。おばさん。

がめついってあぁいう人の事を言うの?」

「そうね、ああいうのを守銭奴とか銭ゲバとか表現したらしいわよ。昔はね?」

「いやあのー、僕も今回はきちんとした仕事で来てるので……正当な報酬の上乗せ申請だと言っていただけるとありがたいんですがね?働いた分取ってるだけですからね?これ?」


 経費申請と報酬の話し合いは基本ですよ……?と、若干困ったように呟く回復さん。まぁそれは分かる。

……でも多分、今じゃないことは確実だった。よって銭ゲバであることも確実だった。X=y=Zだ。そんな関係性が密かに成り立っていたのだ。


「それで……銭ゲバの回復さんはこれからどうするの?このまま撃ち込みを続ける?」

「いや、銭ゲバじゃないですけどね?まぁ……リャンさんが戦えると判断している間は続けますよ。めんどいですけど」


そうぶつくさと言いながらも装填しては負傷者を狙い、的確に治療を施していく回復さん。

その腕前に思わず驚くが、まぁ、これが大隊クオリティというやつなのだろう。大隊員つおい。それが副隊長ともなればこの位は余裕でこなすのかもしれなかった。


「じゃあ、回復さん。

いまの私に手伝えること、何かある?」


 でも、だからこそここで動かなければ正しく木偶の坊になってしまうのだろう。それは嫌だった。

大隊員だから何か出来た。……それで終わってしまったら、このまま何も出来ないままだった。


それでは何も変わらなかった。今までの私と、何も。


「私、今はまだ、弱いけど……私にできること、ある?」


 だから私は、真剣に、問いかけたのだ。

魔導砲の射手台に座る銭ゲバさんの隣に立ち尽くしその瞳を見つめ、答えを模索しながら語りかけた。そして。


「……ん。あー、そうですね。じゃあ───」


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