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第008話ー挟撃の黒水

 六月のある放課後。

 灰色に濁った空が、窓越しに薄く光っていた。


 その教室の隅で、二人の男子が顔を寄せ合っていた。


「なあ、助理……あの転校生、やっぱ怪しいよな?」


「……やっぱ、って、何が」


 也厚の目がギラつく。

 赤ん坊のような顔で、心だけは凶悪な幼獣。


「目つき、だよ。アイツ、前に一回だけ見た目つきだ。忘れもしねぇ、あの“睨み”。あれ、永和の野郎と同じだった。間違いねぇ」


「……ほう」


 助理の眼鏡が、ぬるく光った。


「面白い仮説だ。もし“村上永和”が姿を変えて戻ってきてるとしたら……そりゃあ、色々と燃えるな。いや、文字通り、また燃えたりして?」


 にや、と口元を歪める。

 二人の視線の先には、教室で英単語帳をめくる“村下龍和”の姿があった。



 翌朝。

 東高校の裏庭――体育館の裏へと通じる通路。


「……行子さんには、今日は会えないって連絡しといた」


 スマホをポケットにしまい、龍和は廊下を歩く。


 突如、背後に物音。

 振り返ると、誰もいない。

 しかし――すぐに、背筋に寒気。


(来たか)


 昼休み。人気のない理科棟裏の物置前。


 そこに、二人はいた。


「……お前に話があるんだよ、村“下”くん」


 也厚の声。

 口調は軽いが、拳を握る音がはっきりと聞こえる。


「おや、偶然だね。僕も彼と話がしたくて、ここに誘導してたところだよ」


 助理。

 淡々とした口調。だが手には、黒ずんだ水鉄砲のようなものを握っていた。


「……二人揃って、何が目的だ」


「お前、永和だろ?」


「言ったらどうする」


「潰す。ボコボコにして、もう一回、いなくなってもらう」


「お前みたいなヤツがさ、のうのうと転校してきてさ、女子にチヤホヤされてるの、ムカつくんだよ」


「しかも永和だったとしたら……尚更だよな?」


 次の瞬間、也厚が飛びかかってきた。


「喰らえっ!」


 龍和の顔を目がけて、振り下ろされる拳。


 ギリギリで避ける。

 風が耳を裂く音。


「クッ……!」


 しかし、避けた先に待ち構えていたのは――助理だった。


「はい、正解は“そこ”でした」


 助理が水鉄砲を発射する。


 ドバッと飛んできたのは、ぬめぬめとした黒い液体。

 龍和の視界が、一瞬で曇る。


「ぐっ……目潰しか……!」


「アハ、家庭用の“すき焼きのたれ”だよ。ベタベタするし臭いし、君が嫌いそうだと思ってさ」


 目が霞む。

 しかし――


(こんなモノ……)


 視覚を遮られながらも、龍和は音と気配で動いた。


 助理の鼻息、靴の擦れる音、間合い。


(そこっ!)


 ガッ!


「ぐえっ……!」


 拳が助理の腹に入る。

 眼鏡が外れ、よろめく。


 だが――遅れて也厚が背後から飛び蹴りを放つ。


「うおりゃあああッ!!」


 龍和はモロに受けた。

 背中を壁に打ちつける。


「いってぇ……!」


「へへへ、やっと痛がったなぁ、転校生くんよ……」


 足をふらつかせながら、助理が起き上がる。

 二人がかりで、もう一度襲いかかってくる――



 だが。


 次の瞬間。


「…………っ!」


 龍和の身体が、ふっと低く沈んだ。


 重心が完璧に落ちた体勢。

 武道の構えに似ていた。


 すれ違い様、也厚の足を払う。


「うわッ!」


 体勢を崩したところに――肘が入る。


 バキン、と音が鳴った。

 口から泡を吹く也厚。


 続けざまに、助理の腕をねじり、物置の扉に叩きつける。


「……ハァ……ハァ……」


 倒れた二人を見下ろしながら、龍和は呟く。


「次、来たら……殺すからな」


 その目に、光はなかった。


 かつての“村上永和”とは違う。


 復讐のために生まれ変わった、村下龍和――


 その怒りは、なおも燃えていた。



 帰りの昇降口。

 行子からメッセージが来ていた。


『今日、学校にいた? 会いたかったのに。』


 龍和はしばらく画面を見つめた。


 そして、返信を打った。


『……ごめん。また今度』


 誰にも見られないように、スマホをポケットにしまう。


 個人の復讐に、彼女は巻き込みたくないのだ。

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