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第002話ー再来の豪炎

 朝のHR前。

 ガヤガヤとした教室に、甲高い笑い声が響いていた。


「なー、マジでさぁ、永和のやつ、あれでメンタル壊れたんじゃね?」


「トゥフフフフッ、とか言ってたくせにな。あいつ、マジでおもちゃとしては優秀だったよなー」


「おもちゃって言い方……でもわかるわー、それな」


 毛受裕太めんじょう ゆうたが机に足を乗せ、ドヤ顔で笑っていた。

 その横には成田也厚なりた なりあつがペンを鼻に乗せながら、子供のようにキャッキャと笑っていた。

 そして石井助理いしい じょりは、教科書を開いているふりをしながら、スマホで何かを検索していた。


「結局さー、あいつ、密告者扱いされたあとから、すっかりイっちゃってたじゃん。うちのクラス、これでやっと平和になったよな」


「いやー、それにしてもマジでちょっといじめたぐらいで退学級って、やわすぎでしょ」


「デブって基本、脂肪と一緒にプライドも詰まってるから、燃えやすいんだろ」


「言い方よ! けどさぁ……ぶっちゃけ今、つまんねぇよなー」


「それな。あいつのリアクションが一番おもろかった」


「もうちょい壊してから消えてほしかったよなぁ」


 石井の言葉に、全員がまた笑う。

 周囲の生徒たちは、その輪に入ることもせず、ただ距離を取って笑うフリだけしていた。



「おいお前ら、今日、転校生来るらしいぞ」


 誰かが放った一言に、教室がざわめいた。

 進学校である東高校には珍しい転校生。しかも三年のこの時期に、である。


「へー、男? 女?」


「男らしいよー。なんか親の都合で海外から帰ってきたんだって」


「は? 陽キャ? 陰キャ? 体育会系? 草食系? 肉食系? 」


「さあな。でも結構イケメンらしいぜ?」


「はー……期待しとこっかな。つまんねぇ空気、変えてくれりゃいいけど」


「ま、どうせネタになるだけのやつだろ」


 毛受がつまらなそうに言ったとき、担任の声が教室に響いた。


「おい、お前ら席つけー。朝のHR始めるぞー。転校生、連れてきたからな」


 その声に、教室の空気が一瞬ぴりついた。

 ドアが開く。


 そこに立っていたのは──


「う……わ……」


「え、でか……え、ガチでイケメン……」


 女子たちの声が、教室のあちこちでさざ波のように湧いた。


 背が高い。

 それもただの高身長ではなく、しっかりとした筋肉が肩から胸にかけて浮き出ている。

 制服の下でも、鍛えられた体が隠しきれない。


 顔は、優しい。

 輪郭はやや丸く、柔らかい雰囲気を纏っているのに、瞳はなぜか鋭く、奥底が凍てついているようだった。


「皆さん、初めまして」


 その男は、ゆっくりと一礼した。


「こんにちは。僕は村下龍和むらした りゅうわです」


 静かで、落ち着いた声。

 だがその声には、何の感情もなかった。


「訳あってこの時期に転校してきましたが、どうぞよろしくお願いします」


「よ、よろしくおねがいしまぁす!!」


 女子のひとりが我に返り、慌てて返事する。

 それにつられて他の生徒も挨拶を返し始めた。


「……よし、それじゃあ空いてる席に……そうだな、村下は窓際、永和が使ってた席がちょうど空いてるな」


 毛受がピクリと反応した。

 その視線を無視して、村下龍和はゆっくりと歩き出す。


 教室の真ん中を、静かに、そして堂々と。


 まるで、獲物の群れに向かって真っ直ぐ歩く、狩人のようだった。



 彼の背中には、微かに焼け焦げた布の匂いがあった。

 それは、香水や体臭とはまた違う、何故だか、そんな匂いがしてくる気がするのだ。


 村下龍和は、席につくと、静かに前を見据えた。


 その瞳には、どこにも光がなかった。

 代わりに、深い闇があった。


 張り付けた笑顔の裏で、彼の中の“何か”が、静かに口角を吊り上げる。


「トゥフフフフ……」


 唇がかすかに動いた。


 それは──誰にも聞こえない、地獄からの再会の挨拶だった。

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