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8/8

第8話:誓いと旅立ちの朝

※本作は「全知スキル×逃亡聖女×恋愛攻略」な異世界転移ファンタジー!


▶本話で第一部(全8話)は完結となります。

 楽しんでいただけた方は、ぜひブックマークや感想で応援していただけると嬉しいです!


▼前回のあらすじ:

俺の全知スキルはギャルゲーにも対応し始めた。


 休養期間の最終日。俺は、これからの旅に待ち受けるであろう、神殿騎士という脅威を前に、自分の無力さを改めて痛感していた。


(俺がそこらの木の棒を振り回す練習をしたところで、プロの騎士に勝てるわけがない。フィジカルじゃ、絶対に勝てない。俺の戦い方は、これじゃない)


 俺が鍛えるべきは、貧弱な筋肉じゃない。この世界で、俺が唯一持つ最強の武器――【全知解析】の応用力と、思考とのシンクロ率だ。

 俺は、洞窟の壁に向かい、そこに屈強な神殿騎士がいると強くイメージする。脳内で、相手の殺意が俺に向けられる。

(まずは、『戦闘シミュレーション』だ。【全知解析】! 目の前の敵が、俺に斬りかかってくる! その攻撃を予測しろ!)


《戦闘補助モード:未来予測を起動。対象の攻撃行動を予測します》


 念じた瞬間、目の前の空間に、無数の赤い光の線が、まるで蜘蛛の巣のように現れた。

(うわっ!? なんだこれ!?)

 あまりの情報量に、脳が悲鳴を上げる。赤い線は、剣の軌道、足の動き、フェイントの可能性、その全てを同時に示しているようだった。

(くそっ……! 駄目か! 情報量が多すぎるんだ。ただ『攻撃を予測しろ』じゃ、あまりに漠然としすぎてる……!)

 イメージの中の騎士が振り下ろした剣の軌道を、俺は目で追うことすらできずに「斬られる」。その瞬間、ズキン、と脳の芯が痺れるような、鋭い頭痛が走った。

「……っぐ……!」

 俺は思わず、こめかみを押さえて膝をつく。

(これが……シミュレーションの失敗のペナルティか。脳に直接負荷がかかるのかよ……!)

 だが、ここで諦めるわけにはいかない。

(もっと条件を絞るんだ! 欲しい情報は一つでいい!『俺の急所への、0.5秒後の攻撃軌道』だけを予測しろ!【全知解析】!)


 二度目の挑戦。すると今度は、目の前の空間に、ただ一本の、鋭く鮮明な赤い光線が走った。イメージの中の騎士が、剣を振り下ろす軌道そのものだ。そして同時に、自分の足元には、青い光で示された矢印が表示される。

(右へ跳べ!)

 俺はそれに従い、ステップを踏む。赤い光線は、ほんの数センチ先を空しく通り過ぎていった。

「……はぁ……はぁ……できた……!」

 たった数秒のシミュレーション。それだけで、額には汗が滲み、息が上がっている。だが、確かな手応えがあった。これなら、格上の相手でも立ち回れるかもしれない。


 俺は壁に手をつき、荒い息を整えながら、次のシミュレーションに移った。

(次は、『交渉シミュレーション』だ。相手は……ヴォルカン辺境伯)


《交渉補助モードを起動。最適な交渉戦略を構築します》


> ▼ 対ヴォルカン辺境伯:推奨交渉戦略

> --------------------------------------------------

> 基本方針: 相手は義理人情に厚いが、同時に現実主義的な武人。感情論だけでは動かない。

> 推奨手順:

> 1. 共感の獲得: まずルナリアの窮状を正直に訴え、彼女の父君との友情に訴えかける。

> 2. 利益の提示: 次に、彼女を保護することが、彼が属する第一王子派閥にとっても利益となることを、論理的に説明する。

> 3. リスクの共有: 最後に、こちらからも協力できること(君の持つ特殊な力など)を匂わせ、対等な協力者としての立場を提案する。

>

> [警告:虚偽や誇張は、相手の不信感を招くため絶対的な禁じ手です]


「……ははっ。すげえな、ほんと……」

 疲労困憊になりながらも、俺はこの一日で、自分の力がただの鑑定スキルではないことを、身をもって理解したのだった。



 その日の夕食後。俺は、旅の安全性をさらに高めるため、彼女の「力」について尋ねることにした。

「こうしてると改めて思うけど、旅の途中で、どっちかが大怪我したら一発でアウトだよな。俺は全然だけど、ルナリアは、何か……その、傷を癒す方法を知ってたりしないか?」


 その瞬間、ルナリアの表情が、これまでにないほど深く、暗く曇った。

「……治癒術、ですか……」

 彼女は、悲しげに微笑むと、その白魚のような指先で、自分の腕にできた小さな切り傷――おそらく、薪を集めている時に作ったのだろう――を、そっとなぞった。

「今は……『呪い』のせいで、神様との繋がりが、ほとんど断たれてしまって……。この通り、自分の小さな傷一つ、癒すことができないのです」

 彼女の腕の傷は、治癒することなく、痛々しい赤みを帯びたままだった。

 その傷跡を見つめながら、俺の胸に込み上げてきたのは、彼女への同情だけではなかった。彼女をこんな目に遭わせ、その尊厳まで奪った名も知らぬ追っ手と、理不尽な『呪い』そのものに対する、静かで、底冷えのするような怒りだった。


 俺は、うつむく彼女の前にそっと膝をつくと、彼女の震える手を取った。

「そうか……。辛かったな」

 まず、彼女の痛みを肯定する。そして、俺は力強く続けた。

「けど、もう君が一人で悩む必要はない。君が治せない傷は、俺が怪我しないことでカバーする。君が使えない力は、俺がこのスキルで補う」

「……え……」

「だから、今は何も心配するな」

 俺は、彼女の手を強く握りしめる。そして、彼女の運命そのものを背負う覚悟で、誓った。


「その呪いは、俺が必ず解く方法を見つけてやる。君がまた、心から歌える日が来るまで、俺が絶対に、君を守り抜くから」


 俺の決意の言葉が、静かな洞窟に響き渡る。

 ルナリアは、顔を上げた。その紫色の瞳からは、堰を切ったように涙が溢れ、美しい頬を次から次へと伝っていく。

 彼女は、言葉にならない嗚咽を漏らしながら、俺の腕に、子供のようにすがりついた。


(えええっ、こ、この状況、どうすればいいのっ!?)

 パニックに陥った俺は、いつものようにスキルに助けを求めた。


> 【推奨行動(RECOMMENDED ACTIONS)】

> STEP 1:[静観]

> STEP 2:[背中をさする]


 俺はその指示を忠実に実行し、彼女が落ち着くまで、ただ優しく、そのそばにあり続けた。



 そして、運命の三日目の朝が来た。

 洞窟の外は、俺たちの旅立ちを祝福するかのような、雲一つない快晴だ。

 旅の支度は、万全だ。

「準備はいいか、ルナリア?」

「はい、カケルさん。いつでも行けます」

 彼女の瞳に、もう弱々しさはなかった。そこにあるのは、俺への絶対的な信頼と、未来を見つめる強い意志の光だ。

 俺は洞窟の入り口で、彼女に向かって、そっと手を差し伸べる。ルナリアは、一瞬はにかんだ後、その手をしっかりと握り返した。


 洞窟の外に立った二人は、自分たちが三日間を過ごした、最初の拠点を静かに振り返る。

 俺は、隣に立つ、信頼できる「仲間」に向かって告げた。


「よし、ルナリア。行こうか」

「はい!」


 俺は脳内の【全知解析】が示す「北北西」へと、確かな足取りで歩き始めた。

 その隣を、ルナリアが、同じ歩幅でついてくる。彼女の小さな手の温もりを感じながら、俺は心に誓う。

 この温もりを、この手を、俺はもう二度と離さない、と。

 目指すは、300キロ先の、自由都市リンドブルム。

 こうして、俺と彼女の、異世界を巡る本当の旅が、今、始まった。


(第一部完)

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