第2話:銀月の聖女と運命の出会い
※本作は「全知スキル×逃亡聖女×恋愛攻略」な異世界転移ファンタジー!
第一部完
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▼前回のあらすじ:
異世界の森で目覚めた俺は、全知スキルを手に入れ、初のサバイバル生活を開始する。
ガサガサ、と茂みを揺らす不気味な音は、止まらない。
俺の心臓は、警鐘のようにドクドクと激しく脈打っている。
(どうする……どうするんだ、俺は!?)
脳内で、パニックに陥った俺が、猛スピードで選択肢を検討し始める。
(逃げるか? いや、無理無理! こんな森のど真ん中で、どっちが安全な方角かなんて分かるか! 下手に動いて、相手のテリトリーに突っ込むのがオチだ!)
(じゃあ戦う? 馬鹿言え! 俺はレベル1の非力な高校生だぞ! 武器は己の拳のみ! 勝てるわけないだろ!)
(隠れる? どこに? 木のフリでもしとけってか!?)
ダメだ、どれもこれも死亡フラグにしか見えない。
八方塞がりで絶望しかけた俺の脳裏に、あの青白いウィンドウがよぎった。
(そうだ……俺には、スキルがあるじゃないか!)
この、ゲームじみた力が、今の俺が持つ唯一の武器であり、生き残るためのコンパスだ。
パニックになりそうな思考を、必死で押さえつける。
(落ち着け……落ち着け、俺! パニックは最大の敵だ。まずは情報を得ろ。それが俺にできる、唯一のことだ!)
俺は震える息を飲み込み、近くの木の幹に身を隠しながら、揺れ続ける茂みの一点に、意識を強く、強く集中させた。
心の中で、祈るように叫ぶ。
――頼む! 俺の唯一のチートスキル! ここで仕事してくれ!【全知解析】!
その叫びに応えるように、目の前に再びあの青白いウィンドウが浮かび上がった。だが、そこに表示された内容は、俺の想像を根底から覆し、斜め上へとブチ抜いていくものだった。
▼ ステータス
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名前:ルナリア
種族:人族
年齢:16
天職:聖女候補 → 不明
レベル:3
HP:15 / 80
MP:5 / 120
【状態】
衰弱、疲労、神恩喪失(呪い)
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「……は?」
思わず、気の抜けた声が出た。
「な、名前:ルナリア……? 可愛い名前だな……って感心してる場合じゃねえ!」
「種族:人族……人間!? 獣や魔物じゃないのか……! やった!……のか?」
まず訪れたのは、安堵。最悪の事態は避けられた。だが、その安堵は、次の行を読んだ瞬間に、氷のような戦慄へと変わる。
「……って、全然安心していい状況じゃねえ! HP、15/80!? 風前の灯火どころか、もう消えかかってるじゃないか! 誰かポーション持ってこい!」
最大HPも俺より低い。レベルは3あるというのに、とても戦闘能力があるようには見えないステータスだ。
そして、意味不明な項目が続く。
「天職:聖女候補 → 不明……? 聖女候補!? なんだそのとんでもない肩書は! それが『不明』になってるってどういうことだ? 転職したのか? いや、この矢印の感じは……リストラか? 異世界も社会は厳しいんだな……」
その答えは、最後の項目にあった。俺の背筋を凍らせる、最悪の単語。
「【状態】:衰弱、疲労、神恩喪失(呪い)……呪い!? 出たよ、一番厄介なやつ! ゲームでも聖職者か、超レアな専用アイテムがないと解けない状態異常だろこれ!」
(つまり、茂みにいるのは、何かの呪いにかかって、聖女候補の職を失って、死にかけてる女の子……ってことか!? 情報量が! 情報量が多すぎるんだよ!)
俺が情報の洪水でショートしかけていると、茂みの揺れが、ふと止んだ。
そして、入れ替わるように、一人の少女がよろよろと姿を現す。
その瞬間、俺は息を呑んだ。
(うわ、マジか。とんでもない美少女……!)
月光をそのまま編み込んだかのような、美しい銀色の長髪。土や小枝に汚れても、その本来の輝きや美しさまでは隠しきれていない。
彼女がまとっているローブは、素人目にも上質だと分かる生地だ。だが、森をさまよったせいか、裾や袖は無惨に引き裂かれ泥にまみれていた。胸元には何かの紋章らしきものが刺繍されているのがわかる。
(なんだ、この紋章……)
思わず反射的にスキルを使おうとするが――。
そのとき、少女の宝石のような紫の瞳が、力なく俺を捉える。透き通るような白い肌は、およそ生きている人間とは思えないほど血の気を失っていた。
(って、そうだった、この子のHP、死にそうなくらい減ってるんだった!)
俺はあわてて【全知解析】による紋章の解析をキャンセルする。
彼女は、俺の存在に気づくと、わずかに目を見開いた。
助けを求めるように、あるいは何事かを伝えようとするかのように、カサカサに乾いた小さく唇が動く。
だが、それが音になることはなかった。
ふっと、彼女の瞳から光が消える。
まるで糸が切れた人形のように、その体は重力に従い、地面へと崩れ落ちていく。
「危ないっ!」
理性が「関わるな」と警鐘を鳴らすより先に、俺の体は動いていた。
地面を強く蹴り、数メートルの距離を一息に駆け抜ける。
そして、彼女が硬い地面に打ち付けられる寸前、その華奢な体を腕の中に抱きとめていた。
腕の中に収まった彼女の体は、驚くほど軽かった。まるで羽毛のようだ。
そして、まるで熱というものを知らないかのように、ひどく冷たい。生きている人間の温かさじゃない。
耳元で聞こえる、か細く、浅い呼吸だけが、かろうじて彼女の命がまだここにあることを告げていた。
(生きてる……! でも、このままじゃ……!)
恐怖も、混乱も、全てが吹き飛んだ。
ただ、腕の中にいるこの儚い命を、俺が助けなければならない。
その、あまりにも重い事実だけが、俺の胸に突き刺さっていた。