表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超常のプラスミド  作者: 釣鐘銅鑼
災禍の坩堝編
44/46

Episode39:暴食の核

黒霧街の一角。


そこだけ、世界の“質”が違っていた。


肉が蠢く。


増える。


重なる。


押し潰す。


建物の輪郭すら曖昧にしながら、ひとつの巨大な“塊”が脈動している。


「クワセロォォォォ!!」


咆哮。


空気が歪む。


その振動だけで、周囲の瓦礫が浮き上がる。


ガット=トラクト。


七罪・暴食。


理性はない。


あるのは――


飢餓。


それだけ。


対峙する影が二つ。


瓦礫の上。


煙の中。


一歩も退かずに立っている。


「……見た目通りってわけか」


低く呟く。


ジャック=ライナー。


肩に担いだ重火器が、鈍く光を反射する。


その視線は冷静だ。


相手がどれだけ巨大であろうと、


やることは変わらない。


「削る」


引き金。


轟音。


閃光。


連続する衝撃。


重武装火器が火を噴く。


弾丸ではない。


塊だ。


質量そのものを叩き込む破壊。


肉塊に直撃。


抉れる。


吹き飛ぶ。


崩れる。


――だが。


「ガァ……!」


再生。


一瞬。


肉が盛り上がる。


繋がる。


埋まる。


増える。


「……効いてねぇな」


ジャックが舌打ちする。


削っている。


だが、減っていない。


むしろ。


増えている。


「タリナイ……!」


ガットが吠える。


腕が伸びる。


口が裂ける。


そのすべてが、ジャックへ殺到する。


衝突。


爆音。


ジャックが踏みとどまる。


重火器を振るう。


叩き潰す。


だが。


終わらない。


その横。


静かな気配。


「……本当に、下品」


クラリスが一歩前に出る。


ドレスの裾が、焦土に触れる。


それでも構わない。


視線はただ一つ。


ガットへ。


手が、腰へ。


鞘に触れる。


ゆっくりと。


抜かれる。


紅い刃。


《紅椿》。


血のような光を宿す刀身が、夜気を裂く。


「少しは“形”を整えなさい」


次の瞬間。


消える。


斬撃。


一閃。


二閃。


三閃。


肉が裂ける。


切断。


分断。


細切れにされる。


だが――


「クウゥ……!」


再生。


切った端から、


増える。


繋がる。


膨張する。


クラリスの眉が、わずかに動く。


「……なるほど」


理解する。


これは“生物”ではない。


“現象”に近い。


「その回復力」


刃を構える。


「ならば」


一歩。


踏み込む。


「利用してあげる」


再び斬る。


今度は違う。


断つためではない。


“刻む”。


細かく。


浅く。


無数に。


肉塊が裂け続ける。


再生が走る。


だが――


追いつかない。


クラリスの瞳が、静かに光る。


「――撫命ぶみょう


空気が変わる。


音が遠のく。


それは、“殺し”ではない。


触れることで、


“命の在り方”を書き換える力。


斬った箇所。


そこに。


“命令”が走る。


増えろ。


増えろ。


増えろ。


過剰再生。


制御を失った回復。


ガットの肉が――


暴走する。


「ガ……?」


膨張。


歪み。


崩壊。


再生が、再生を食い潰す。


細胞が増えすぎて、形を維持できない。


肉が溶ける。


崩れる。


流れ落ちる。


「ガァァァァァァァァ!!」


絶叫。


今までとは違う。


苦痛。


ジャックが目を細める。


「……自壊か」


クラリスは淡々と答える。


「ええ。食べすぎなのよ」


肉塊が、崩れる。


崩壊。


圧縮。


収束。


そして。


“それ”が現れる。


静寂。


瓦礫の中央。


立っているのは、


一人の青年。


筋骨隆々。


無駄のない肉体。


だが――


腹部。


そこに。


巨大な“口”。


ゆっくりと、開く。


「……ハァ」


息を吐く。


理性。


明確な意思。


先ほどまでの獣とは、明らかに違う。


青年が、顔を上げる。


目が合う。


笑う。


「……いいな、それ」


低い声。


だが、はっきりとした言葉。


「今の、効いた」


腹の口が、


ぐちゃりと動く。


「もっと寄越せよ」



空気が、張り詰める。


ジャックが武器を構える。


クラリスが刃を傾ける。


理解する。


今までのは、


“外側”だった。


これは――


核。


七罪・暴食。


ガット=トラクト。


その本体が、


今、姿を現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ