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超常のプラスミド  作者: 釣鐘銅鑼
災禍の坩堝編
43/46

Episode38:収束解放

夜は、まだ終わっていなかった。


黒霧街。


崩れた街区の上に、炎が揺れている。


赤。


黒。


肉。


焼ける匂いと、腐敗の臭気が混ざり合い、空気そのものが濁っていた。


その中心。


二つの“災害”が存在している。


一つは――暴食。


肉塊は膨張を続けていた。


骨が軋み、皮膚が裂け、その隙間からさらに肉が溢れ出る。


人だった輪郭は、とうに失われている。


ただ、欲だけが残った。


「ガ……ア゛ァァァ……ッ!!」


咆哮。


空気が震える。


その振動だけで、瓦礫が崩れる。


「クワセロ……タリナイ……!」


地面を這う腕。


壁を削る口。


触れたものすべてを取り込み、


己を拡張する。


終わりなき捕食。


それが――七罪・暴食。


ガット=トラクト。


もう一つは――憤怒。


炎が、静かに燃えている。


爆ぜない。


荒れない。


ただ、在る。


それだけで周囲を焼き尽くす熱量。


ヴァルカン=アッシュ。


その存在そのものが、臨界だった。


「……相変わらず、醜いな」


一瞥。


それだけで、ガットの動きが一瞬鈍る。


格が違う。


支配している。


そして。


その視線が、ゆっくりと移る。


第七分室へ。


「久しぶりだな、駄犬ども」


声は低い。


だが、確実に届く。


記憶を引きずり出す声音。


ロックは応えない。


ただ、前に立つ。


戦闘は、すでに始まっている。


リリスの弾丸が夜を裂く。


だが。


届かない。


熱に触れた瞬間、


軌道が歪み、


質量を失う。


「……消えてる!?」


弾丸は“焼失”していた。


モルトが解析を飛ばす。


「周囲の熱密度が臨界域です!

通常弾では貫通不可能!」


シャルが結界を展開する。


層。


重ねる。


干渉を分散する。


だが――


「無意味だ」


ヴァルカンが手を上げる。


炎が、収束する。


圧縮。


一点。


そして、


内側から爆ぜる。


結界が破断する。


シャルの身体が宙を舞う。


「っ……!」


ロックが動く。


鎖。


地面から。


空間から。


ヴァルカンを縛る。


だが。


燃える。


触れた瞬間、


概念ごと焼き切られる。


「その程度か」


踏み込み。


一瞬。


距離が消える。


衝撃。


ロックの身体が吹き飛ぶ。


戦線は崩壊しかけていた。


そこに――


異物が介入する。


轟音。


衝突。


ガットの肉塊が、


横から“抉られる”。


「ガァァァァァッ!?」


吹き飛ぶ。


崩れる。


そして、再構築。


その前に。


影が、落ちる。


男が一人。


瓦礫の上に立っていた。


無骨な外套。


巨大な武装。


その佇まいは、


戦場に馴染みすぎている。


「……でけぇな」


吐き捨てるように言う。


ジャック=ライナー。


視線は、ただ一つ。


ガットへ。


もう一人。


静かな足音。


焦土の上に、似つかわしくない優雅さ。


「本当に、下品」


微笑みながら、女は言う。


マダム・クラリス。


その指先が、わずかに動く。


空気が、歪む。


ガットが吠える。


「クワセロォォォ!!」


肉が波のように押し寄せる。


だが。


ジャックは動じない。


「いいぜ」


武装を構える。


「全部まとめて来い」


クラリスが横に立つ。


「処理して上げるわ」


次の瞬間。


衝突。


爆音。


肉と破壊がぶつかり合い、


戦場が、二つに割れる。


残されたのは。


ヴァルカン。


そして――第七分室。


炎が、揺れる。


「邪魔が入ったか」


興味はない。


ただ、目の前。


ロックたちのみ。


「続けるぞ」


再戦。


だが、同じではない。


リリスが撃つ。


今度は“当てない”。


散らす。


空間を乱す。


熱の流れに、歪みを生む。


モルトが叫ぶ。


「分布偏差、発生!」


シャルが展開する。


結界は“層”。


一枚ではない。


連結。


遅延。


減衰。


完全防御ではない。


だが。


“削る”。


ロックが踏み込む。


鎖は、焼かれない。


触れない。


流れを読む。


進路を塞ぐ。


逃げ場を消す。


ヴァルカンの動きが、


ほんの僅かに、遅れる。


「……ほう」


だが。


それでも足りない。


炎が、さらに圧縮される。


密度が上がる。


空間が軋む。


「足りん」


解放。


爆炎。


すべてを呑み込む。


結界が砕ける。


リリスが吹き飛ぶ。


モルトが転がる。


シャルが膝をつく。


残るのは――


ロック。


静寂。


その中心で。


黒い紋様が、脈打っている。


腕。


血管。


因子経路。


すべてが軋む。


ヴァルカンが見る。


「それか」


理解している。


危険性も。


価値も。


ロックは息を吐く。


荒い。


だが、止めない。


「……未完成だ」


小さく呟く。


「でも」


拳を握る。


「使うしかねぇだろ」


収束。


それは本来、


外へ向かう力ではない。


内へ。


一点へ。


未来を削り、


可能性を閉じ、


結果を“選ぶ”力。


それを――


逆流させる。


「――収束、解放」


世界が、歪む。


音が遅れる。


空間が沈む。


鎖は見えない。


だが、確かに存在する。


すべてを縛る“可能性”。


すべてを押し込める“結果”。


ロックが消える。


視界から。


ヴァルカンの目が開く。


「速――」


遅い。


懐。


至近。


逃げ場はない。


圧縮。


衝突ではない。


“収める”。


空間ごと、


一点へ。


叩き込む。


地面が沈む。


都市が揺れる。


衝撃が波となって広がる。


静寂。


そして。


瓦礫の中。


ヴァルカンが、立ち上がる。


血が流れている。


だが――


笑っていた。


「いい」


炎が再び燃え上がる。


より強く。


より濃く。


「それだ」


ロックの呼吸が乱れる。


負荷が大きい。


長くは持たない。


だが。


退かない。


背後に。


守るものがある限り。

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