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超常のプラスミド  作者: 釣鐘銅鑼
災禍の坩堝編
37/42

Episode33:鎖の臨界

拘束と再生が、噛み合う。


骸獣グレースビーストは吠えない。

ただ、増える。


裂けた肉の奥から、

触手が、骨が、祝福因子が、

理不尽な速度で組み上がる。


止める力と、

壊れて進む力。


地下施設が悲鳴を上げる。


鉄骨がねじれ、床が沈み、空気が軋む。


「出力上昇……止まりません!」


モルトの声が震える。


鎖が軋む。


ロックの両腕から血が滴っていた。

能力経路の過負荷。毛細血管が裂けている。


だが、緩めるわけにはいかない。


「……止まれ」


骸獣の胸部。


浮かび上がる“顔”。


リョウ。

マイカ。


歪んだ影が、笑っているように見えた。


――助けて。


喉が、締まる。


違う。


それは記憶だ。

贖罪願望が見せる幻だ。


あの日、救えなかった現実が、

今、形を取っているだけだ。


「ロックさん!」


リリスの銃声。

弾丸が触手を砕く。


だが再生が、追い越す。


止めるたびに、速くなる。


「危険です!

因子、臨界値突破……!」


警告音が重なる。


「このままでは爆発的転移が起きます!

半径三百メートル、消滅します!」


選択肢は二つ。


拘束を解くか。

このまま圧し潰すか。


ロックの喉が鳴る。


脳裏を掠める声。


――“現実”を選ぶ番。


現実とは何だ。


救えなかった事実か。

殺すしかない判断か。


骸獣が一歩、踏み出す。


地下構造が破断する。


床が沈み、暗い空洞が口を開ける。


時間がない。


「三秒!」


モルトが叫ぶ。


「再生流、遅延させます!」


「頼む!」


青白い閃光が走る。


骸獣の再生が、ほんの僅か鈍る。


三秒。


世界が、遅くなる。


ロックは拘束を再構築する。


固定ではない。


絞殺でもない。


――圧縮。


存在そのものを、一点へ。


鎖が地面から、壁から、天井から噴き出す。

因子の流れを逆算し、

全てを胸部へ収束させる。


骸獣が暴れる。


自壊。

再生。

増殖。


だが、逃げ場はない。


「……これで終わらせる」


跳躍。


鎖を踏み台にし、空中で体を捻る。


ナイフを振り下ろす。


硬質な抵抗。


だが、今度は止まらない。


外側からの拘束。

内側からの締め上げ。


拘束――臨界圧縮オーバーフロー


刃が、核に触れた。


胸部の“顔”が崩れる。


子どもたちの影が、剥がれ落ちる。


骸獣が、初めて絶叫した。


音ではない。


存在の悲鳴。


白光が膨張し――


次の瞬間、爆縮。


音が消えた。


衝撃も、熱も、風もない。


ただ、“在ったもの”が消えた。


――。


瓦礫の匂い。


崩れた天井の向こうに、夜空。


ロックは仰向けに倒れていた。


拘束は消えている。


腕が動かない。

因子経路が焼け、痺れが残る。


少し離れた場所。


骸獣は、動かない。


再生反応、ゼロ。


ただの肉塊。


墓は、閉じた。


モルトが膝をつく。


「……完全停止。終わりました」


リリスが銃を下ろす。


シャルが駆け寄る。


「……ロックさん」


震える声。


ロックは、空を見上げた。


勝った。


止めた。


だが。


胸の奥が、空洞だ。


軽くならない。


救えなかった現実は、

どれだけ圧縮しても消えない。


「……悪い」


かすれた声。


「俺の力が、足りなかった」


止めるだけでは守れない。


圧縮し、

壊し、

終わらせる。


それを選んだ。


遠くで、何かがひび割れる。


鏡のような音。


視線を向ける。


崩れた壁の向こう。


ミラーが立っていた。


静かな瞳。


感情のない顔。


一瞬だけ、ロックを見る。


そこにあったのは――


失望か。

共感か。

あるいは確認。


次の瞬間。


鏡面が揺らぎ、

彼女は溶けるように消えた。


残ったのは夜。


そして。


変質した力。


拘束は、もう“止める力”ではない。


終わらせる力へ、踏み込んだ。


守るために、

どこまで削るのか。

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