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第30話 燃料革命

 午後の店番をしていると、マーティンさんがふらりとお店にやってきた。


「おぅ、邪魔するぞ」


 私は笑顔で答える。


「どうしたんですか? また何か、新しい魔道具の提案ですか?」


 マーティンさんが小さく息をついた。


「そうとも言えるし、そうじゃねぇとも言える。

 実はな? 最近の木炭供給不足で、良質の木炭が集まりにくくなってる。

 商人が足元を見てきて、単価が高くなってるんだ。

 嬢ちゃんの魔道具でなんとかならねぇか?」


 と、言われてもなぁ?


 木炭の品質とか、私はよくわからないし。


「ちょっと木炭を見せてもらえますか?

 何が良くて、何が悪いのか教えてもらえません?」


 マーティンさんが(うなず)いて「こっちにきな」と店の外に出ていった。


「ウズメ! 店番よろしくね!」


『ハイなのです!』


 元気なウズメを残し、私はコヤネを連れてマーティンさんの店に向かった。





****


 鍛冶工房の中で、マーティンさんが二本の木炭を手に持って待っていた。


「こっちがシュトラース・ヴァイラーから買い付けてる木炭、こっちが町の木炭だ」


 ふむふむ。見た目には同じように見えるんだけど。


 (そば)に居たエリックが微笑(ほほえ)みながら告げる。


「良い木炭ってのは、硬くていい音がするんだ。

 煙も少ないし、温度も高くなる。

 でも材料の木材や天候次第で品質が変わるから、良質の木炭ってのは高いんだよ」


 エリックが近くの木炭二本を叩いて甲高い音を出した。


 ほー、これが『良質の木炭』って奴なのか。


 コヤネが静かに告げる。


『木炭の品質はカーボンの純度に依存します。

 不純物や水分が少なく、均一であるほど上質の燃料となるのです。

 この差が燃焼効率の違いとなって現れます』


 私は眉をひそめて答える。


「カーボン? よくわからないけど、炭の濃度が高いほどいいの?

 う~ん、それならなんとかなるかなぁ?」


 今の木炭は通常価格が一袋銅貨三枚のところが、銅貨五枚まで値上がりしてる。


 庶民の生活にも大打撃中だ。


 人が増えれば燃料需要が増える――頭が痛い問題だなぁ。


 マーティンさんが私を見つめて(たず)ねる。


「どうだ嬢ちゃん、いけそうか?」


「うーん、じゃあサンプルとして、この二本の木炭をもらっていいですか?」


 黙って(うなず)くマーティンさんにお礼を言って、私はお店に戻った。





****


 店番をウズメに任せつつ、私は早速工房にこもった。


 工房ストックの木炭も引っ張り出し、マーティンさんの木炭と比べていく。


 ≪精査≫魔術で構成要素を調べてみると、良質の木炭は確かに不純物が少なそうだ。


 魔導ガラスみたいに不純物を排除すれば、高品質にできるだろう。


「あとは、どうやって高品質な木炭を作る魔道具にするか、か~」


 コヤネが静かに告げる。


『材料の仕入れも考えた方がいいでしょう。

 特定材木に依存すると、それだけ価格が高騰します。

 単価を抑え、安定供給するなら炭化そのものから工程に入れるべきです』


「んー、なんでもかんでも『木材を投入すればいい形』で木炭にできる魔導炉ってこと?」


 コヤネが黙って(うなず)いた。


 そっか~。安価に安定供給ねぇ。


 でもそうなると、町の炭屋が廃業になっちゃうかもだなぁ。


「じゃあ町の炭屋からも木炭を仕入れて、それも原料にできるようにするとか?

 生木から木炭を作る第一工程と、木炭から魔導木炭を作る第二工程。

 こんな感じで材料を仕入れて売れば、安定供給できるのかなぁ?」


『大筋では問題ないと思います。

 あとは単価ですね。町の人には以前の単価で売り、町の外にはプレミアを付けて売る。

 この仕組みを作れるなら、人々の暮らしは安定するでしょう』


 なるほどなー。となると……エーヴィガー・ヴィントの住民だって印が欲しいな。


 これはマーティンさんにでも頼んで、ネックレスにしてもらおうかな。


 今のエリックなら、町の人の名前を真鍮(しんちゅう)のネックレスに掘るくらいできるだろうし。


 市民証か~。王都では運用してるらしいんだけど、こんな小さな町で運用できるかな?


「――ま! やるだけやってみますか!

 まずは魔導木炭を魔術で作ってみよう!」


 私の声に、コヤネが小さく拍手をした。





****


 一時間後、マーティンさんのお店に試作型魔導木炭を三本持ち込んだ。


 マーティンさんは目を見開いて驚いていた。


「……もうできたのか?」


 私はニコリと微笑(ほほえ)んで答える。


「まだ魔術で直接作っただけです。

 この品質で大丈夫か、確認にきました」


 マーティンさんが木炭を打ち鳴らして音を確認する。


「……いい音だ。シュトラース・ヴァイラーの木炭より、ずっと高品質じゃねーか。

 燃やしてみても構わんか?」


「ハイ! どうぞ!」


 マーティンさんが魔導木炭を炉にくべて、取り出して燃え加減を目で確認していた。


「……匂いがほとんどしねぇ。煙も少ねぇし、熱量も十二分にある。

 これでいくらなんだ?」


「んー、町の木炭を一本半使ってます。

 なので、一袋で銅貨四枚から五枚ですかね?」


 マーティさんが絶句していた。


 エリックが代わりに声を上げる。


「そんなに安く作れるのか?!」


 私は笑いながら答える。


「やだなぁ! 材料費だけの値段だってば!

 魔導炉を動かすなら、もう少し値段が上がると思う。

 多分、銀貨一枚くらいじゃないかな。

 コヤネが言うには、燃焼時間も三倍以上に伸びてるらしいし、元は取れるはずだよ?」


 マーティンさんが燃えている木炭を見つめながら告げる。


「それで、量産は可能なのか?」


 私は胸を叩いて答える。


「術式の研究は終わりました!

 (あと)は、製造用魔道具を作るだけです!」


 マーティンさんが(うなず)きながら答える。


「俺にできることはいくらでも手助けする。

 その魔導木炭製造機、頼んだぜ」


 私はウズメのように元気いっぱいに答える。


「ハイ! お任せください!」





****


 その日から、私はマーティンさんたちと一緒に新型の魔導木炭製造機の製造に明け暮れた。


 同時に町長や商人ギルド書記官のヴァルターさんも巻き込み、市民証の手配も進めていく。


 街はずれに魔導木炭工房が出来上がったのは、二週間後だった。


 古い倉庫を改造した工房で、私はさっそく魔導木炭製造機に火を入れる。


 木材が魔導炉で一瞬で炭化され、魔導木炭圧縮機に投入されていく。


 すぐに整形された魔導木炭が排出され、一工程で一袋分が出来上がった。


 私は出来上がった魔導木炭を確認しつつ、背後で見ていたマーティンさんに告げる。


「どうです? 巧くいきましたよ?」


 マーティンさんも魔導木炭を手に取り、音を確認していた。


「……うん、試作品と変わらねぇ品質だ。

 これで本当に一袋銀貨一枚で売れるのか?

 製造機のランニングコストはどうなってる?」


 私はニカッと笑って答える。


「それは秘匿(ひとく)事項なので! でも問題ありません!」


 試作型の『皇竜の炉心マナ・フォールド・エンジン』を仕込んであるので、小型魔石一個で一年は持つ。


 補助燃料が必要なだけで、永久機関にかなり近づいたと思う。


 ……この『皇竜の炉心マナ・フォールド・エンジン』を作った古代の魔導士、とんでもない天才だよなぁ。


 まだまだ解析には時間がかかりそうだ。


「町の人は市民証を見せれば、従来の銅貨三枚で販売するように手配します。

 マーティンさんも燃料費の高騰で悩まされることはなくなりますよ?」


 マーティンさんがニヤリと微笑(ほほえ)んで答える。


「頼もしいじゃねーか。材料の仕入れは安定しそうか?」


 私はサムズアップで答える。


「ハイ! 領内の商人にも声をかけてます!

 アノンさんにも声をかけてますから、潤沢に揃う予定です!

 製造販売と在庫管理は炭屋さんに委託するつもりですし、これで燃料問題は解決ですね!」


 マーティさんが差し出してきた手を、私はがっちり握手した。


 今は夏前、冬を前に燃料問題が解決だ!


 ついでに魔導ガラスに続く、地元の名産品が増えた!


 魔導木炭も、エーヴィガー・ヴィント産の木炭として近隣に販売していくんだ!


 広がるかどうかは……アノンさん次第かな?


 ウズメが威勢よく(こぶし)を天に突きあげた。


『このまま、天下を取るのです!

 簡単にいえば、天下布武なのです!』


「いや、意味が分からないから……」


 笑いだしたマーティンさんに釣られて、私もつい笑ってしまった。


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