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第26話 事業見学

 昼食後、お店の前にはお父様とラーズ兄さま、ヴォルフガングさんが集合していた。


 私はウズメとコヤネを連れ、みんなに合流する。


「じゃあ、第二魔導工房に行きましょうか!」


 三人が(うなず)くのを見届けて、私は街はずれに歩き出した。



 町を歩いていると、いろんな人が私に声をかけてくる。


「あら、クラウディア! 戻ってきたのね!」


「お?! クラウディアじゃねぇか! また魔香草(ハーブ)を買いに行くからよろしくな!」


「クラウディアー! また今度、文字を教えてよ!」


 私はみんなに笑顔で答えながら歩いていく。


 お父様がぽつりと(つぶや)く。


「すっかり町に受け入れられてるのだな」


 私は振り返って笑顔で答える。


「はい! 今では立派な町の一員です!」


 ラーズ兄さまも嬉しそうだ。


「まぁ、クラウディアなら当然だろう」


 ウズメが悔しそうに(こぶし)を握っていた。


『なんで誰も、我々に声をかけないですか!

 私こそが、あの店の看板娘なのですよ?!』


 コヤネがぼそりと告げる。


『これで誰が本当の看板娘か、はっきりしましたね』


 私は「あはは……」と笑ってごまかしながら歩いていった。





****


 第二魔導工房では、ロベルトさんが複数人で魔導ガラスを製作中だった。


「ロベルトさん、見学しても大丈夫ですか?」


「おう! 問題ねーよ!」


 お父様は魔導炉を遠くから眺めて、興味津々だ。


 ヴォルフガングさんも楽し()に作業工程を(なが)めていた。


「なるほど、アレンジした≪加熱≫魔術と≪耐熱≫魔術で石英(せきえい)を溶かしているんだね。

 型は――これは≪浮遊≫の常時発動で浮かしているね?

 そこにアレンジした≪急速冷却≫かな? よくもまぁ、この速度で冷やせるものだ」


 私は内心で冷や汗を()きながら答える。


「細かいことは、教えられませんので!」


 なんで見ただけで見抜いてくるの、この人?!


 お父さんは魔導炉を見ながら私に(たず)ねる。


「これで魔石をどのくらい使うんだい?」


「えーと、小型魔石を一日一個消費しますよ?」


「――一個?!」


 今度はお父様と一緒に、ヴォルフガングさんも驚いていた。


「たった一個で、これだけの魔導炉を動かせるのか?!」


 私は胸を張って答える。


「私の特製魔導炉ですから!

 メンテナンスできるのも、私だけですよ?」


 出来上がった魔導ガラスを、ロベルトさんの弟子たちが空いてるスペースに並べていく。


 あっという間に十枚を作り終えると、ロベルトさんが息をついた。


「ふぅ。今の材料だとここまでだな。

 生産速度が速すぎて、材料の調達が追いつかねーよ」


 ラーズ兄さまがロベルトさんに(たず)ねる。


「材料が潤沢(じゅんたく)だったとして、一日何枚生産できるんだ?」


「それなら五十枚は固いですね。慣れてくれば百枚もいけるかもしれませんが。

 今度は保管場所も考えにゃなりません。

 隣の敷地に魔導ガラスの保管倉庫をつくるべきでしょうな」


 お父様は出来上がった魔導ガラスを目で確認しながら告げる。


「この大きさと透明度を、その生産速度でか。

 ――よし、領外の石英(せきえい)産出地に話を付け、大口契約を結んでみよう。

 サンプルに何枚か、余計に生産しておいてくれ。王都に持ち込み、売り込んでみよう」


 ラーズ兄さまが苦笑を浮かべる。


「父上、王都に行かれるのですか?

 社交界が苦手な父上が、売り込み出来ますか?」


 お父様も苦笑で答える。


「だが、商機を逃すわけにはいかないだろう。

 売り込める物は高く売れる場所に売るべきだ」


 私はため息をついて告げる。


「お父様……そういうのは『適材適所』ですよ?

 商取引は商人に任せればいいんです。

 まずは近場から普及させて、口コミで品質が広まるのを待ちましょう。

 お父様は材料の仕入れが安定するよう、商人と提携して石英(せきえい)の産地に話を付けてください。

 大量買い付けなら安く仕入れられるはずですし、領主と話し合えば、関税も抑えられます。

 お父様がすべきは、商人ができないことをサポートすることですよ?」


 今はシュトラース・ヴァイラーのアノンさんに頼りきりだけど、あそこは隣の領地だ。


 領地を栄えさせたいなら、領内の商人にも多く取引させないと。


 私の言葉に、お父様が呆気(あっけ)に取られていた。


「……クラウディア、お前は商才があったんだな」


「これでも魔道具店の店主ですからね?!」


 ヴォルフガングさんが楽しそうに笑った。


「ハハハ! これなら領主としても、立派にやっていけるんじゃないかな?

 技術と商才を兼ね備えるとは、立派なご令嬢だ!」


「もう『ご令嬢』じゃありませんよ!」


 私の反論に、その場のみんなが楽しそうに笑いだした――なんで?!





****


 魔導工房からの帰り(ぎわ)、ヴォルフガングさんが私に(たず)ねる。


「そういえば、その首から下げている眼鏡はどんな魔道具なんだい?」


 ――あ、ついうっかり持ってきちゃった。


 私は眼鏡を持ちあげて告げる。


「これは≪鷹の目≫の魔術を付与してある眼鏡です。

 精密作業をするとき、集中しやすいので」


 ヴォルフガングさんがメガネをまじまじと見つめて答える。


「ほぅ、恐ろしく精密な魔力回路だね。

 これを君が、手作業で作ったというのかい?」


「そうですけど……それが何か?」


 ヴォルフガングさんが満足そうに(うなず)いた。


「それだけの技量と魔導知識、宮廷魔導士でも滅多に居ないレベルだ。

 魔道具師としては、一流と言っても過言ではない。

 普通はそれだけの腕があれば、魔導士になってしまうからね」


 私は小首を傾げて(つぶや)く。


「そんなもんなんですかねぇ?

 他の魔道具師はアネスさんしか知らないんで、基準がわかりません」


 ヴォルフガングさんが楽しそうに笑みを()らす。


「ふふ、この後、王都に挨拶に行ったときに君のことを国王に伝えておこう。

 きっと君の商売の役に立つだろう。

 魔導ガラスもサンプルを一枚、買い付けられるかな?

 我が国に持ち帰り、売り込みをしてあげよう」


 ウズメがジト目でヴォルフガングさんを見つめた。


『急に親切になって、怪しいのです!

 今度は何を企んでいるですか!』


「ハハハ! 君たちを怖がらせたお()びをしたいだけだよ!

 それに我が家にも、その魔導ガラスを入れてみたいしね!」


 コヤネがぼそりと(つぶや)く。


『信用なりません』


 私は笑いながら告げる。


「あはは! 取引先が増えるなら、こちらも大歓迎ですよ!」


 明るい笑顔でみんなが店の前に帰り着くと、その場で解散した。


 私はウズメたちと一緒に見せの中に入り、店番をしているラヴィニアに告げる。


「ただいまー! 誰かお客さんきたー?」


 ラヴィニアが微笑(ほほえ)んで答える。


「おかえりなさいませ。

 まだ今日は誰も来ておりません」


「そっかー、じゃあ店番を変わるよ!」


 ラヴィニアがカウンター席から立ち上がって告げる。


「では、私は夕食の買い出しに行って参ります」


「はーい! 気を付けてねー!」


 お店から出ていくラヴィニアと入れ替わりに、私はカウンターの中に座る。


 ウズメが肩を落として告げる。


『今日はなんだか疲れたのです……』


 コヤネも小さく息をついた。


『これであのいかがわしい老人ともサヨナラですね』


 うーん、ヴォルフガングさんはすっかり嫌われてるなぁ。



 結局その日は、お店が閉まるまでお客さんが来ないで終わった。





****


 夕食の席でラヴィニアが私に告げる。


「次はどんな商品を開発されるんですか?」


 私は豚肉のステーキを口に運びながら答える。


「んー、今はアイデアがないかな~?

 魔導眼鏡を改良すれば、売り物になるとは思うんだけど。

 銀細工師がこの町には居ないから、アノンさんと協力しないと貴族には売れないね」


 眼鏡は高級品だ。貴族じゃないとまず買えない。


 貴族は真鍮(しんちゅう)製の眼鏡なんて見向きもしないしなぁ。


 そうなると金や銀の加工職人が必要になってくる。


 この町で作れる商品は、そう多くはない。


 ラヴィニアは微笑(ほほえ)みながら告げる。


「アノンさん以外の商人が買い付けに来るといいですね」


「そこはこれからじゃない? まだまだ商売、始まったばかりだし!」


 私は根菜のスープを飲み干し、席から立ち上がって告げる。


「じゃ、私はお風呂に行ってくるね!」


 入浴の準備をしに、私は部屋に戻った。


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