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第20話 意外な来訪者

 エーヴィガー・ヴィントの町に、一台の馬車が入って行く。


 豪華な装飾が施された貴族の馬車だ。


 騎兵たちと後続の馬車を引き連れながら、馬車はカーバンクル魔道具店の前で止まった。


 馬車から降りた男性――アッシュグレイの髪の毛をした、背の高い壮年男だ。


 貴族らしいダークスーツに身を固めた男を、魔道具店前で見張りをしているギルドの私兵が呼び止めた。


「何かご用ですか。現在店主は不在ですが」


 ダークスーツの男が鋭い眼光で私兵を見る――私兵隊は迫力にたじろぎ、一歩退いた。


「留守か。ではいつごろ戻るか、聞いているかね?」


 私兵が恐縮しながら答える。


「いえ……我々には分かりかねます」


 ダークスーツの男が私兵に告げる。


「では、店主が戻ったら知らせてほしい。

 私は宿で待つとしよう。

 済まないが、この町で一番大きい宿へ案内してくれないか」


 二人の私兵の内、一人が(うなず)いて歩き出した。


 残った私兵が(あわ)ててダークスーツの男に(たず)ねる。


「あの! せめて、お名前を教えて頂けませんか!」


 ダークスーツの男が振り向いて私兵を見つめた。


「……ヴォルフガング・フォン・ファルケンシュタイン。

 グルートファルク王国の魔導士だよ」


 ダークスーツの男――ヴォルフガングは先導する私兵の(あと)に続いて宿に向かった。


 残った私兵が震える声で(つぶや)く。


「まさか、“あの”ファルケンシュタイン公爵?!

 なんでそんな大物が、クラウディアに会いに来るんだ……」


 私兵は茫然(ぼうぜん)とヴォルフガングの背中を見送った。





****


 私は大きなアーネンエルベ子爵家の馬車に乗りながら、鼻歌を歌って体を()すっていた。


 ラーズ兄さまが苦笑を浮かべて告げる。


「クラウディア、子供じゃないんだから、少し落ち着け」


「だってー、ラーズ兄さまも来るとは思わなかったし!」


 お父様が優しい笑みで私に告げる。


「今後も事業を進めるなら、ラーズも同行した方が良いだろう。

 私よりも建設的な意見も言えるようだしね」


 ラーズ兄さまが眉をひそめてお父様に告げる。


「まだ根に持ってらっしゃるのですか、父上」


 お父様がニヤリと微笑(ほほえ)んで答える。


「本当のことだろう?

 私の目を覚まさせたのは、ラーズの言葉だよ」


 私はきょとんとしてラーズ兄さまに(たず)ねる。


「兄さま、何を(おっしゃ)ったのですか?」


 ラーズ兄さまが私の頭を優しく()でた。


「お前は気にしなくていいんだ。大丈夫」


 んー、私だけ仲間外れ?


 ラヴィニアがクスリと微笑(ほほえ)んだ。


「その溺愛振りは変わりませんね、ラーズ(ぼっ)ちゃま」


 ラーズ兄さまが不満気(ふまんげ)に答える。


「溺愛か? 妹が可愛いのは当然だろう?」


 んー、でもラーズ兄さまって、別に姉さまたちとは仲が良いわけじゃないんだよなー。


 なんで私だけ可愛がられてるんだろ?


 小首を(かし)げる私を、みんなが微笑(ほほえ)んで見守っていた。





****


 馬車がお店の前で止まる。


 お店の前には、商人ギルドが用意してくれた見張りの兵士が二人付いてるみたいだ。


 ラーズ兄さまの手を借りて馬車から降りると、見張りの兵士たちが敬礼をして告げる。


「これは領主様、ラーズ様、それに――クラウディア様。おかえりなさいませ」


 私は苦笑をしながら答える。


「お父様とお兄様はまだしも、私は呼び捨てでいいよ!」


 兵士が困ったように答える。


「それはその……さすがに領主様の前で呼び捨てるのは、難しいかと」


 そういうものなの? 困ったなぁ。


 ウズメとコヤネが魔道具(カーバンクル)から飛び出してきて告げる。


『ただいまなのです!』


『ご苦労様、何か異変はありませんでしたか』


 兵士がコヤネを見てハッと何かに気が付いていた。


「あっ! そういえば、クラウディア様にお客様がお見えになってました」


 お客? 聞いてないぞ?


「誰が来てたの?」


「それが……グルートファルク王国のファルケンシュタイン公爵です。

 現在は大通りの宿に宿泊されて、クラウディア様をお待ちです」


 隣国の公爵?! なんで私に?!


 私はお父様やラーズ兄さまと顔を見合わせ、困惑して眉をひそめた。





****


 馬車から荷物を店内に運び込み、お父様たちを客間へ案内する。


「ごめんねお父様、ラーズ兄さま。

 今は空いてる客間が一つしかなくて」


 ラーズ兄さまが客間の中を見て苦笑を浮かべた。


「ベッドが一つか。それにかなり狭いな。

 ここに二人で泊まるのは難しそうだ。

 私たちも宿に部屋を取ろう」


 私はきょとんとしてラーズ兄さまを見つめた。


「なんで? どちらか一人はここに泊まれるんじゃない?」


 ラーズ兄さまがフッと笑みを浮かべて答える。


「私だけが泊まると、父上のヘソが曲がるだろう?

 ここで『気が変わった』と言われても困るからな」


 そんな馬鹿な。ラーズ兄さまじゃあるまいし。


 お父様がそんなわけ――と顔を見てみると、お父様が気恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「……まぁ、気遣ってくれて助かるよ」


「お父様? どうされたのです?

 何か悪いものでも食べましたか?」


 くるっと背中を向けたお父様が、咳払いをして私に告げる。


「ともかくだ。我々はファルケンシュタイン公爵にご挨拶に行ってくる。

 お前はここで待っていなさい」


「はーい、お父様」


 お父様たちが店から出ていくのを見送り、私はラヴィニアに振り返った。


「荷物、片付けちゃおうか!」


 ラヴィニアが微笑(ほほえ)んで(うなず)いた。


「はい、お嬢様」


 ラヴィニアはアーネンエルベ子爵家から私物を全部引き上げて来た。


 行きの荷物と加えて、結構な大荷物だ。


「大丈夫? 部屋に入る?」


「ええ、なんとか致します」


 ラヴィニアの部屋は、洋服で埋まりそうだ。


「うーん、部屋の増築も考えた方がいいかなぁ?」


 元は遺跡探索者を宿泊させる客間だから、狭いんだよねぇ。


 庭はまだ余裕があるし、今度誰かに相談してみよう。


 私も荷物を部屋に運び込み、整理を始めた。





****


 クラウディアの父、マーティンが宿を訪れ、店主に(たず)ねる。


「ここにファルケンシュタイン公爵が宿泊していると聞いてきたのだが」


 店主が平身低頭で答える。


「これはこれは領主様。はい、二階に宿泊しておられます。

 クラウディア様のお帰りを待つと(おっしゃ)り、三日前からおられます」


 マーティンがラーズと顔を見合わせた。


 ファルケンシュタイン公爵と言えば、近隣諸国でも有数の魔導士として著名な人物。


 そんな人間が前触れもなく来訪する場所ではない。


 領主であるマーティンにすら知らせずに訪れる、その理由がわからなかった。


 ラーズがマーティンに告げる。


「父上、ともかくお会いしましょう。

 考えていても始まりませんよ」


「……そうだな。

 店主、公爵の部屋へ案内してくれ」


 (うなず)いた店主が先導し、マーティンたちは二階へと向かった。





****


「クラウディア! ちょっとおいで!」


 ――ん? お父様の声?


 ラヴィニアと顔を見合わせてからお店の方へ移動する。


 店内にはお父様とラーズ兄さま、そして――とっても背の高いおじさんが立っていた。


 背の高いおじさんが私に微笑(ほほえ)んで告げる。


「君がクラウディアかな?

 私はヴォルフガングだ。古代遺跡(ベリド・アーク)の案内を頼みたいのだが、構わないかな?」


 え? 隣国の公爵だよね? 古代遺跡(ベリド・アーク)を調べに来たの?


 私は困惑しながら頭を下げる。


「店主のクラウディアです……。

 あの、なぜ公爵様が私に会いに来られたんですか?

 古代遺跡(ベリド・アーク)を見るだけなら、他の人でもご案内できますよ?」


 ヴォルフガングさんが笑みをこぼしながら答える。


「一度、見に行っては見たんだがね。

 やはり君でなければ全貌を知ることはできないと判断した。

 例えば――そう、裏コースだ」


 ――それを知ってるってことは、ユルゲンさんの関係者?!


 いや、でも『旅の冒険者』って言ってたし、情報を買っただけかも?


 でもなんだかヴォルフガングさんって、どこかユルゲンさんの面影を感じる。


 どうしよう、なんて答えたらいいんだろう。


 この人を裏コースに案内しても、大丈夫なのかなぁ?


 お父様が困惑する私に告げる。


「ファルケンシュタイン公爵は、この店に宿泊したいと(おっしゃ)っている。

 どうだクラウディア、応じられそうか?」


 ――さらに宿泊までするの?! 宿があるのに?!


 一体なにを考えてる人なの?!


 困惑し通しの私を、ヴォルフガングさんは楽しそうに目を細めて見つめていた。


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