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第8話 お嬢様

講義が終わると、学生証が一瞬光った。授業を受けたことが認定されたのだろう。


「寝ちゃったら認定されないからね〜。テレーナが声かけてくれて助かったよ」


「次の授業は離れ離れですけどちゃんと起きててくださいね」


「うー、テレーナはしっかりしてるなぁ。これじゃあどっちが先輩かわかんないよ! もっと寂しいとか言って甘えて?」


「甘えません。そんなことしなくてもロゼさんが先輩なので大丈夫ですよ!」


ロゼさんはちょっと残念そうな顔を見せる。2限は、私は初級クラス、ロゼさんは中級クラスの専門科目を受講する。たしかに一緒に受けられないのは寂しいけど、人の目もあるのに甘えるのは恥ずかしい。


「そうだ! 昇格試験さえ受かれば専門科目の単位がなくても昇格できるから早めに受けてよ! テレーナにとっては初級なんて意味ないでしょ?」


「基礎こそ重要だと思うのですが……」


「魔法は上級ほど基礎の理解が得られるんだ。初級は理論はそこそこに魔法が使えれさえすればいい、みたいな感じだからテレーナには早く昇格するほうがいいんじゃない?」


「そうなんですね。できるだけ早く昇格してみます」


ロゼさんと一旦別れ、西棟に向かう。講義室につくと、一際目立っている女性がいた。金髪の長い髪は丁寧に手入れされていて美しい。その身に纏うはシンプルで清楚な白と青のドレス。その佇まいからは育ちの良さが感じられる。

ふと、その女性と目が合う。


「あら貴女、見ない顔ですわね? 新入生?」


「はい、今日から入学しました」


「ではわたくしの隣にいらっしゃい。わからないことも多いでしょうから」


なんて優しい人なんだろう。いきなり頼りになりそうな人に巡り会えた。


「わたくしはシャルロット。貴女は?」


「テ、テレーナと申します」


溢れる気品から、少し恐縮してしまう。


「そんなに畏まらないで下さいませ。それよりその肩の鳥はなんですの? わたくし見たことありませんわ」


「えっと……、私も種類はわかりません」


鳳凰はキュー? と首を傾げて鳴いた。


「お名前をお聞きしても?」


「鳳凰です」


シャルロットさんの瞳孔が大きくなる。やっぱり変な名前なのだろうか?


「か、かっこいい……」


「えっ?」


「い、いえ! なんでもありませんわ。ペットを連れて学校にくる方は珍しいですわね」


そういえば全然周りを気にしていなかった。変な目で見られていたかな、と不安になる。


「禁止とかではない……ですよね?」


「ええ、そのような校則はありませんわ」


「よかった……」


「ところで、その鳳凰、後で……」


何か言いかけたところでベルが鳴り、髭の生えた男が入ってくる。がっちりとした体つきで、見た目だけ見ると戦士だと思ってしまうかもしれない。


「さあ静かに〜。今日は初級氷属性魔法をやるぞ」




授業が終わる。扱った魔法は、魔術基礎論で既に覚えていた。特に目新しい情報は得られずに講義は終わってしまった。


「昇級試験は昼以降、随時中庭で行う。希望者は担当者に声をかけてくれ」


そう言って先生は立ち去っていった。


「わたくしは試験を受けますわ。受かれば、残念ですが会う機会は減りますわね……」


シャルロットさんの目線は鳳凰に向いている。


「私も受けますよ、一緒に昇級しましょう」


「えっ!? 冗談でしょう、テレーナさん? 今日が初めてなのではなかったのですか!?」


「初めてなんですけど、初級魔法はだいたい覚えているので」


「小さい頃から親御さんに教えて貰って? 英才教育ですわね」


「独学です」


「…………?」


信じられないといった表情で、シャルロットさんは固まる。そうか、事情を知らないと、私が天才だと勘違いされてしまう。誤解を解かねば。


「実は私、記憶喪失なんです。ですが、魔法を体が覚えていてすぐ習得できたんだと思います」


「まぁ! そうだったのですね。腕の良い医師を紹介しましょうか?」


「アーノさんという方に診てもらったのですが、記憶が封印されている、と言われて。治療で改善は見込めないかと……」


「アーノさん!? 教授のですか!?」


「ご存知ですか?」


「ええ! 有名人ですわ! カレンヴィアから来た天才、と! そのアーノさんでも、封印を解けなかったと?」


「はい」


故に私は、魔法の高みに登りつめ、記憶を取り戻すことを目標としている。


「そんなことが……。信じられませんが、信じるしかないのでしょう……」


衝撃を受けた表情のシャルロットさん。講義の終わった教室にはもう私たちしか残っておらず、静寂が訪れた。

しかしそれは長くは続かなかった。ロゼさんが入ってきたからだ。


「テレーナ〜! 食堂いこ〜! ん? その人は?」


「ロゼさん! この方はシャルロットさんです。優しく声をかけて下さったんです」


シャルロットさんは美しい作法で軽くお辞儀をする。やはりこの人は上品さが身にしみついている。


「えっと、もしかして、貴族の方だったりしますか……?」


「い、いえ! 一般の生まれですわ!」


すごく慌てている。ということは、やはり貴族なのでは?

理由あって庶民に扮している? ならば合わせた方がいいのだろう。そうロゼさんもそう思ったのか、


「そーなんだ。よろしくねシャルロットさん!」


と、敬語を取りやめる。さすがに敬称はつけているが、溢れる気品が凄いので仕方なさそうだ。一応ロゼさんの方が上級生なので不自然ではない、と思う。


「わたくしもお食事、ご一緒してもよろしくて?」


「もちろん!」


私たちは中央棟の食堂に向かった。とても広い食堂で、人はたくさんいるが席は十分空いている。私はロゼさんおすすめの唐揚げ定食を頼む。シャルロットさんは海鮮丼を頼んでいた。


「ん〜、美味しいっ!」


ロゼさんが美味しそうに食べている姿を見ると、自然と顔が綻ぶ。

鳳凰にもご飯をあげないと。あっ、唐揚げって鳥肉……。気づいて鳳凰を見ると、怯えたような目をしていた。


「鳳凰のことは食べないから大丈夫だよ……。この野菜食べる?」


鳳凰は食べ物に見向きもせず、私を見るばかりだ。


「鳳凰の食べ物はわたくしが買ってきますわ!!」


シャルロットさんは興奮したように購買へと走り去ってしまった。びっくりして、ロゼさんと顔を見合わせる。

どうしたのだろうと思っていると、一瞬で戻ってきた。その手にはリンゴが。


「風の精よ! 力を与え給え! フウラ〈風裂〉」


リンゴの皮があっという間に剥けて、さらに一口サイズに切られ皿に並ぶ。


「ほら、これをお食べになって?」


一欠片のリンゴを鳳凰の嘴に近づけると、鳳凰はそれを食べた。


「きゃあ〜! 食べてくれましたわ〜! かわいい♡」


はしゃぐシャルロットさんに周囲から視線が集まる。それに気づいて、誤魔化すようにこほん、とひとつ咳払いをする。


「さて、試験の話ですが……」


「いや誤魔化せないよ! シャルロットさんの意外な一面を、私は見た……」


ロゼさんは、舞台役者のようにおおげさに言う。一人称も変わってるし、誰かの真似なのだろうか。


「な、なんの話でしょう……?」


「シャルロットさんは動物がお好きなんですか?」


「…………はい。鳥類が特に好きですわ……」


私が問うと、観念したように答えるお嬢様。別に観念することではないけども。上品な印象を持つシャルロットさんからは想像できなかった反応を見れて、私はうれしい。


「いいところを目撃しちゃったよ〜」


「か、からかわないで下さいませ!」


「でも、可愛かったですよ?」


「っ〜〜!!」


「あはは! テレーナも意地悪だね〜」


つい追撃をしてしまった。私もロゼさんも、人の普段のイメージからは考えられないような一面を見るのが好きなのだろう。そのような一面を見ることは、その人がより立体的に見えてくる。それが人間の面白さだと私は感じている。


「すみません、もうからかいませんから」


頬を膨らませて疑惑の目を向けてくる。小動物みたいでかわいい。しかしそれを口に出すとさすがにまずいので我慢した。


そんな中、チャイムが聞こえた。館内放送のようだ。


『本日昼休み後、学院に国王陛下がお見えになります。中央棟の屋上で演説がありますので、是非ご参加下さい。なお、この演説は一般教養科目の単位に加算されます』

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