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第7話 学院入学!

私は今、ほうきに乗って学校に向かっている。少し前を飛ぶロゼさんが道案内をしてくれている。学校に近づくにつれて、まばらに通学する学生を見かけるようになる。


ソーサリア国立魔法学院は、民に広く開かれている。誰でも申請すれば私のようにすぐに入学でき、その代わり卒業が難しい。

学院には初級、中級、上級の3つの階級があり、昇格試験を受け上がっていく。卒業条件は、上級までの進級、魔法研究の論文の提出、一定以上の教養科目の単位の取得の3つを満たした後卒業試験に合格することだ。

アーノさんによれば、上級クラスまで進級するのがまず難しく、最終的に卒業できるのは1割にも満たないらしい。

ロゼさんは現在中級クラス。魔法科目は同じ授業は受けられないが、教養科目は一緒に受けられる。最初は神話の授業をとることに決めた。


「テレーナ! このスピードだけど、鳳凰落としてない?」


「大丈夫です、ちゃんと肩に乗っています!」


そう、私の肩には鳳凰が乗っているのだ。鳳凰は昨日のうちに目覚めて、それからは元気そうに過ごしていた。

外に出てから気づいたが、いつの間にかついてきていた。危ないから家にいてほしかったが、仕方がない。何かあったら私が守ろう。


余談だが、昨日の夜にロゼさんが律儀に部屋へやってきたのがとても愛らしかった。ぬいぐるみと勘違いしてしまったときに、「これからも是非、寝ぼけた私の癒しとなってくれるとありがたいです」と冗談で言ったが、本当に来てくれるとは。一緒に寝ようとしたが、真ん中に鳳凰が割って入ってきたから寝ぼけてロゼさんに抱きつくことはなかった。


「もうすぐつくよ!」


魔法学院の正門が見えてきた。重厚感のある石柱には、ソーサリア国立魔法学院と銘打たれている。門は開放され、多くの人が行き交う。

山のてっぺんという不便な場所にあるにもかかわらずこんなに多くの人がいるのは、ここがソーサリア唯一の魔法学校であるからだ。他にも魔法を教える施設はあるが全て私塾で、公的な学位は得られない。


制服はあるが、着用している人は半分くらいの割合だ。卒業が難しいゆえに年齢を重ねるため、段々制服を着にくくなってくるのも一因……らしい。一方ロゼさんは寝るとき以外いつも制服姿だ。デザインがとても気に入っているらしい。


門の先には中庭が広がっていて、芝生が美しく整備されている。中央には噴水があり、それを見ながら仲良く談笑している人も見られる。


中庭を囲う建物を見上げると、本日開講される講義情報が魔法により映写されている。神話の授業は……、東棟123講義室。正門からみて右側の建物だ。だがその前に、事務室に行かなければならない。学生証を貰うためだ。それがなければ講義の単位が得られない。


「ロゼさん、事務所はどこですか?」


「こっちだよ!」


ロゼさんが指差すのは真ん中の建物だ。広い中庭を横断し、建物に入る。この棟は、事務室の他に食堂や図書館、購買や魔導具の展示場と、講義以外の目的の施設が集まっているようだ。

じっくり見て回りたいが、あまりゆっくりしてると講義に遅れてしまう。まっすぐ事務室へと向かった。


「失礼します。新入生です。学生証を貰いに来ました」


若い女性の事務員さんが対応してくれる。


「はい。お名前を教えて下さい」


「テレーナです」


「テレーナさんですね。…………はい、登録が確認できました。こちらが学生証です」


学生証はしっかりとした素材で出来ていて、少しのことでは傷ひとつも付かなそうだ。特殊な魔力が込められていて、これを持って講義を受けると自動で出席が取られるらしい。


「そして、こちらが制服です」


「ありがとうございます」


お礼を言い受け取った制服は、可愛らしい黒のブレザーで、控えめに施された金の装飾からは品格が漂う。


「こちらの魔法ですぐに着ることができますよ」


一枚の紙が手渡される。メトル〈纏衣〉という名の魔法の手順書だ。簡単な魔法で、すぐに使えそうだ。


「着てみてよ〜」


ロゼさんもそう言うし、私も着てみたい。


「わかりました。メトル〈纏衣〉!」


目の前に創った魔法陣が、私をすり抜けるように後ろへ移動すると、手に持っていた制服と着ていた服が入れ替わった。制服は私にぴったりで、とても着心地が良い。


「かわいいー! 似合ってる! ぼくこの制服すごく気に入ってるんだ」


「私もこの制服好きです……! ここの刺繍とかすごく良くないですか!?」


「わかる〜! あと、こことか!」


「そこもいいですね!」


制服のどこがいいかのトークが弾む。ロゼさんが家でもこの服を着てる気持ちがよくわかった。


「あのー、授業に遅れちゃいますよ?」


困ったように言う事務員さんのお陰で時間を思い出した。


「すみません、ありがとうございます!」


急いで教室に向かう。扉のすぐ近くの席に駆け込んだところで授業開始のベルが鳴った。結構大きな講堂で、100人以上はいるだろうか。鳳凰もちゃんと大人しくしている。勝手についてきたときはどうなるかと思ったが、手のかからないいい子だ。


「なんとか間に合ったね……」


「ええ、良かったです……」


息をきらしていると、担当の教授が入ってきた。白髪のお爺さんで、杖をついている。不安になる足取りで前に立つと、意外にもはっきりとした聞き取りやすい声で講義が始まった。




アステンシア神話によると、この星アステンシアは、広大な虚無の空間に、創造神グランレオスがゼロから創り上げたものです。虚無に囚われていた無数の魂たちは、アステンシアという拠り所ができ、植物として、動物として、そして人間として生きることができるようになりました。

神話は、人類の最祖先、モノ族による伝承です。彼らの実体験に基づく歴史の始まり。それを知ることで、今を理解する、未来を見ることが可能となるやもしれません。

グランレオス神は、モノ族にこう仰いました。


「遥か未来、大いなる闇が、我々全てに襲いかかる。貴公らよ、どうか、修練に修練を重ね強くなり、闇に打ち勝ち、光ある未来を守り抜いてくれ。この剣と、この知恵で」


モノ族は、聖なる力の込められた剣と、魔法の扱い方が綴られた本を賜りました。

ある者は剣を複製し、ある者は本を理解し魔法を習得しました。

さらにある者は剣技を磨き剣士になり、ある者は魔法を教わり魔道士になりました。


いつしか剣士と魔道士はそれぞれ集まって暮らすようになり、互いのことを忘れるようになりました。


それぞれの町が街になり、王を擁すようになった頃、剣と魔法は邂逅しましたが、それは協力ではなく対立となりました。


と、ここまで話すと歴史の範囲になってしまいます。

話を少し戻すとして、忘れてはいけないのは、我々は大いなる闇に備えなければいけないということ。

しかしそれを信じ、素直に鍛錬する者は少なくなってきております。無論、隣国との戦争に備えるという理由で鍛錬するものは多数おりますが、神話由来の理由ではないということです。

現在隣国とは戦争中ですが、それは形式的なものです。王が変われば戦争が終わるかもしれません。それは決して悪いことではないでしょう。しかし、大いなる闇に対抗し得る者が減ることは避けたいところです。


信じるも信じないも自由ですが、私が長年研究して得た、モノ族と神が存在した証拠をお教えしたいと思います。




「ロゼさん、寝てません?」


私は小声でロゼさんに声をかけ、腕をつついた。


「ね、寝てない寝てない……」




神話でグランレオス神がモノ族へ与えた聖剣、それは現在カレンヴィア王国で厳重に保管されております。

また、神書はソーサリア王国で保管されております。こちらは、私が国に研究者として招かれ、解読を進めたこともあります。


神話上の道具が実際に存在することは事実です。皆さんも知っておられたでしょう。しかしそれだけでは、道具が創られてから神話が創られたのだろうと考えるかもしれません。

しかし神書は人の手によっては決して創られていないということを私は実感しました。そのことを本日はお伝えしたいと思います。


そもそも神書がなぜ国で保管されているのか? それは、世界に一冊しかないからです。写本を作ればいい? 確かに簡単な魔法のページは写本できます。実際に、解読された魔法のページの写本は世に出回っておりますね。

しかし高度な魔法になってくると、魔法陣が複雑すぎて、正確に書き写すことが難しいのです。

そのような高度の魔法は、国から認められるほどの魔道士でないと使用を試みるのは危険です。少しでも誤れば身を滅ぼしかねません。

神書の研究者になりたいならまず、防御の魔法を極める必要があります。それが身に付いていなければ研究は出来ません。命あっての研究ですから。


神書は現在、全体の3分の1ほどしか解読されていません。神でもなければこのようなものは創れないでしょう。


私が研究に参加した魔法は光魔法で…………。

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