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第5話 朝

朝。窓から降り注ぐ陽の光に起こされる。まだ眠たいのに。

薄く目を開けてみたが、だめだ。もうちょっと寝よう。そう思って、隣にあった大きなぬいぐるみに抱きついて目を閉じた。


「テ、テレーナ……?」


おや、私を呼ぶ声が聞こえる。ロゼさんの声だ。

夢にまで出てきたようだ。


「えっと…………寝てるの……?」


おかしいな、夢にしては現実のような感覚だ。

その疑問を持った瞬間、一気に目が覚める。

目を開けると、目の前に顔を真っ赤にしたロゼさんがいた。それを私は、ぬいぐるみだと思って抱きついてしまっていたのだ。


「あっ、ご、ごめんなさい……!」


すぐに手を離す。


そういえば、ロゼさんと一緒に寝てたんだった……。




昨日の夜。私は2階の部屋にいた。夜も更けて眠たくなってきた頃、ドアを叩く音がする。


「テレーナ、開けて〜!」


「はい」


扉を開けると、パジャマ姿のロゼさんがいた。枕を手に持っている。


「今日この部屋に泊まってもいい……?」


私がアーノさんにあてがわれた部屋は広く、二人でも十分ゆとりがある。むしろ、一人では寂しいくらいだ。そもそも私は泊めて貰っている身なので、文句はない。


「もちろんいいですよ。でも、どうして急に?」


ロゼさんは、一階にアーノさん黙認の自室がある。さっきまでそこで過ごしていたはずだが、この時間になって来たということは何かあったのだろう。


「それが、部屋で変な物音が聞こえて……。おばけかなって……」


「ふふっ」


意外な理由で思わず笑ってしまう。


「笑わないでよ! 一緒に寝よ〜!」


ロゼさんは恐怖心を和らげるためにここに来たのだと理解した。

私にはロゼさんを優しく包み込んであげれるような母性はないが、一緒に寝るぐらいは容易い。


「いいですよ。広い部屋なので、少し寂しかったですから」


「よかった〜。ありがとう、テレーナ!」




このようなことがあって、今の状況だ。


「テレーナ、意外と朝弱いんだね」


いつものように明るく言っているが、顔はまだ赤い。ロゼさんの方も、意外と抱きつかれたりすることに弱いらしい。おばけに続いて弱点を2つも見つけてしまった。


人の弱点というものは、概して可愛らしく思える。それが意外なものであれば尚更だ。ロゼさんへの好感度が上がる。


「そうみたいです。ぬいぐるみと勘違いしてしまいました」


「ぬいぐるみ……!」


「これからも是非、寝ぼけた私の癒しとなってくれるとありがたいです」


「えっ! わ、わかった……」


少しからかいすぎてしまったが、更に顔を赤くするロゼさんは可愛かった。


2人はベッドから起き上がる。


「と、ところで、今日はテレーナに教えなきゃいけないことがあるんだ」


「教えなきゃいけないこと?」


「ほうきで飛ぶ方法! 学院に通うのに便利だから!」


「確かにロゼさんも使ってましたね」


「楽だし速いよ! 南の平原で練習しよう!」






南の平原に着いた。家の庭も広いが、ここなら存分に練習ができる。


「飛ぶにはバランス感覚が大事で、こんな感じで乗るんだよ」


ロゼさんがほうきに跨がる。ほうきには魔法陣が彫り刻まれていた。


「前の方、この辺に、ウォーレ〈浮遊〉の魔力を込めて……」


すると、魔法陣が光り、ロゼさんが宙に浮いた。私もそれに習い、やってみる。ウォーレ〈浮遊〉は初級魔法で、魔法陣は既に覚えている。問題は実際に使えるかどうかだ。


「うわっ」


浮きはしたが、ほうきではバランスをとるのが難しい。すぐに足をついてしまった。


「ちなみになぜほうきなんですか? バランスがとりにくいと思いますが……」


「あっ、たしかに……。なんでなんだろう?」


よくわからない文化に疑問を呈しつつ、もう一度ウォーレ〈浮遊〉を使ってみる。今度はうまくバランスがとれた。


「さすがテレーナ! 上達が早いね。次は動いてみようか」


ロゼさんは少し高く飛び、辺りを大きく一周した。


私も同じように飛んでみる。感覚的には、ほうきはただの支えで補助的なものだと思って飛ぶと良い感じに飛べた。


「こんな感じですね!」


「いや、感覚掴むの早くない……? 一体何者なんだ……」


「もっと高く飛んでみます!」


「え、危なくない? 気をつけてね」


高度を上げて、街の全貌を眺める。

北側に家があって、さらに北に山があり、その山頂に学院がある。道は整備されているが、歩いて登るのは大変そうだ。

西側には大きな城があり、街の中心となって栄えている。これがソーサリア城か。豪華で威厳を感じる。

また、街から少し離れた所に遺跡のような建築物がみえるが、半壊しているのが気になった。


東側には川があり、南へ湾曲して流れている。これがカレンヴィアとの国境になっているのだろうか。向こう側にも豪華な王城が見える。


「テレーナ、危ない!」


景色を見すぎてバランスを崩してしまった。ほうきから真っ逆さまに落ちてしまう。そのとき私は無意識に呪文を唱えていた。


「ウィーエル〈聖天飛翼〉」


背中から光が溢れ、光の翼となった。

翼をはためかせ、なんとか地面と衝突しないで済んだ。


「えっ、なにその魔法!?」


「危ないと思ったら、無意識に……」


「高度な光属性魔法だ……。ぼく、こんなの見たことないよ……!」


驚愕するロゼさん。


「珍しい魔法ということでしょうか?」


「光属性の魔法はそんなに研究が進んでいないからそもそも珍しい。しかも、それは多分上級魔法。こんなの普通じゃありえないよ……」


記憶の片隅にあったこの魔法。私の正体を解明する手がかりとなりそうだ。


「テレーナ、もしかして学校行く必要なくない……? 魔法も自分で習得してるし……」


「たしかに自分でも多少は学べますが、人に教わると見えてなかった視点からも学べるかなと。あと、魔法以外にも国の歴史や伝統も知っておきたいです」


「テレーナは立派だね……。この国の女王様となってほしいぐらいだよ」


「それは荷が重すぎます……!」


そこに、金色の鳥が飛んできた。綺麗な毛並みだが、飛び方が弱っているように見える。私に向かって飛んできているように感じた。


私はその鳥を迎えに行く。親近感のような何かを感じたのだ。


鳥は私の腕に抱かれる。すると、安心したような表情を見せ、眠ってしまった。一体どこから飛んできたのだろうか。


「その鳥は……?」


「弱っているようです。治癒の魔法は……」


魔術基礎論に載っていたリール〈治癒〉を思い出し、使う。


「その子、一旦家に連れて帰る?」


「はい。回復はしましたが、安全な場所で保護したいです」


まだ遭遇していないが、街の外は魔物がでるらしい。襲われる前に保護できてよかった。


私は新しい魔法ウィーエル〈聖天飛翼〉の翼で、ロゼさんはほうきに乗って、家へ向かった。

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