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第1話 夢

そこは雲の上。神々が住まう天上の世界だ。私は、ふわふわの雲の上を駆け回っていた。光の泡が無数に飛び交い、幻想的で、暖かい。どこまでも広がる青い空と白い雲に挟まれたこの場所は、のびのびとした気分になるには一番だ。穏やかな風が吹いて、肩まである金の髪を優しく揺らす。


「テレーナ、準備はできた?」


後ろから、柔らかい声が聞こえてくる。振り向くと、私よりも長い金髪を持つ、綺麗な女性が歩いてくる。


「お姉ちゃん!」


私はそう言い、駆け寄って左腕に抱きつく。お姉ちゃんの肩に頭を預け、腕を放さない。そうすると、お姉ちゃんが優しく頭を撫でてくれた。


「ふふ、甘えすぎよ。もういい年なんだから」


「そう言う割には、いつも甘やかしてくれるよね」


「うん、ついつい甘やかしてしまうわ。テレーナが可愛すぎるのが悪いんだよ?」


お姉ちゃんの顔が、甘い香りを連れてすぐ目の前まで接近する。


「お、お姉ちゃん、近いよ……」


「照れてる姿、本当に可愛い……」


お姉ちゃんの右手が私の頬に触れる。お姉ちゃんを見上げる形にされて、心臓の鼓動が早まり、顔が紅潮してしまう。いつも自分から甘えるのだが、たまにこのように反撃が来る。そして、このときのお姉ちゃんは飢えた狼のような表情をしていて、そのまま襲われちゃうんじゃないかと思ってしまう。しかし……。


「ずっとこうしていたいけれど……、もう人間界を見守りに行く時間ね。一緒に行きましょう」


「う、うん……。行こう、お姉ちゃん!」


このように、いつもすぐに普段どおりのお姉ちゃんに戻ってしまうから、一体何を思っているのか分からない。私を弄んでいるのだろうか?


私たちはいつものように雲を降り、地上へ飛んでいこうとする。

見守ると言っても、干渉することは滅多にない。街の外に出るような人間は大抵強く、魔物に襲われようと命を落とすことはない。

稀に戦えない者が街を出て襲われることがあるが、例えばカレンヴィア王国ならすぐに聖剣騎士団が駆けつけるだろう。

だから、私たちは半分遊びに行くようなものだ。地上は美しいから、お姉ちゃんと行くのはとても楽しい。

今日は何をしよう、とワクワクしていた。また街に忍び込んで、私たちの発想にない人間独自の文化に触れてみたいな。今は、魔法の国ソーサリアにとても興味がある。ソーサリアでは魔法を魔物からの防衛や日常生活だけでなく、舞台の演出だったり魔法競技だったりと娯楽にも使われているのだ。

前に行ったときには、また行こうねと約束していた。


「ねぇ、お姉ちゃん! 今日は……」


ドゴオォォォン!


なんの前触れもなかった。一筋の稲妻が、目の前を横切った。その跡には、禍々しく強大な魔力が残留している。


「っ!? 一体なにが……!?」


辺りが突如闇に包まれる。そしてもうひとつ、稲妻が走る。それは、私に向かってくる。


「テレーナ! 危ない!!」


回避できずに稲妻が直撃し、意識が朦朧としてくる。この稲妻は、普通の稲妻ではない。私たちは、稲妻程度で意識を失うわけが……


「テレーナ! しっかりして!!」


地上に落下していく私を、お姉ちゃんは受け止めようと近づく。しかし……


「……!? なに…………っ……!?」


お姉ちゃんが、目に見えない何かに縛られたように止まったのが見えた。何者かの低い声が響く。


「ふっ……あっけないものよ。こんな場所にいるということは、貴様らは神か、あるいはそれに仕える者だろう? この世界はこれから我々に支配され、蹂躙される。新世界に旧き神は不要。亡霊となり、世界が変わり果ててゆく様を見届けるが良い!」


…………そして、私は意識を失った。

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