盗人
喉から手が出るほどに欲しいと願った。一人の僕には到底手に入らないものだったから。
盗んだというと人聞きか悪いけれど、だってそうする他なかったんだもの。説明すればわかってくれるんだって、母様も言ってたように思う。
手の中。奪い取ったそれが、今はとても大切に思える。うるさくても煩わしくても、僕にとっての宝物になるんだ。
街中を走りながら、すれ違う人の好奇の目に晒される。そりゃこんな格好でこんなものを抱えていれば、誰だって二度見三度見はしたくなるだろう。
不思議なくらい静かにこちらを見つめるそれと目が合う。腕の中に収まるほどに小さいのに、不思議な強さを感じる。
目を離せずに見つめ返していると、なんだか頭の中に声が聞こえた気がした。
『どうして?』
大人びて落ち着いた女性の声。頭の中で直接聞こえているのに、なんだか腕の中から聞こえていた気もする。
「ごめんね。今はまだ、僕も途中だから」
そう答えるとそれは満足したように泣き出した。大きな泣き声があたりに響く。道行く人々は過ぎ去りざまに振り返り、不躾な視線をぶつけてくる。
パトカーのサイレンが遠くで聞こえる。近くに来る前に、もっとどうにかしなければ。
手の中であやすようにして、一歩ずつゆっくり歩き始める。




