腕時計
長針と短針が重なる。大したことはないけど、なんだかちょっと幸せが増えた気分。
大きめの文字盤。手が細く見えるからとか時計屋で聞いた気がする。ただのデカい時計に見える。
ため息を吐きながら腕時計のベルトを外す。やっと息ができる気がした。緩く着けていたはずなのに、左手の指先に久々に血が通ったような感覚。
服を着替えてメイクを落として——。やらなきゃいけないことが多いのに、全部無視してベッドに飛び込みたい。
とりあえず冷蔵庫を開く。缶ビールと日本酒の瓶が目に入る。明日も仕事だけど、これぐらいならいいだろう。ビールを手にとろうとして、やっぱり躊躇う。ダイエット……。
冷蔵庫の扉を閉める。自らを戒めよう。服を脱いで下着姿。脱衣所で体重計に乗る。うん、やめて良かった。
直前の己の判断に乾杯。やはり私を理解っているのは私だけ。これはもう讃えるべきだろう。
——カショリ。
そう思い、気付けばビールのプルタブを開けていた。なんと罪な音なのか。もう後戻りができないではないか。
吹き出す白い泡に、わざとらしく「おっとっと」と口に出しながら啜る。誰がいるわけでもないのに、「開いちゃったものは仕方ないし」なんて言い訳が口をつく。
一度口を付けると、もう離してはくれない。そのままぐいっと缶を傾けたかと思うと、すでに中身は空っぽ。あれれ〜、おっかしいぞ〜。
迷いに迷って、正確にはそのフリをして、冷蔵庫から日本酒を取り出す。
出勤まであと数時間。起きれるかなー、これ。




