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種まき  作者: 山葵からし
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満員電車

 朝目が覚める度に後悔する。どうやらまた同じらしい。

 顔を洗い、家を出る準備をする。行きたくもないところに行くための準備は、より一層気持ちを落ち込ませてくる。こんなになるなら休んでもいいだろうとは思うが、それで失敗してからは欠かさず行くことにしていた。

 家族に行ってきますと声をかけ、重い足取りで家を出る。通り過ぎる家々。庭先で土いじりをする老夫婦にいつもと同じように挨拶される。にこにこと泥をほじくり返して、何がそんなに楽しいのだろうか。

 駅に着いて満員電車に乗り込む。クラスにも部活にも馴染めないが、ここでは息ができる。誰も彼もが鮨詰めの車両を構成する一人の人間。同じ会話ばかり繰り返される空間に比べれば、圧倒的に居心地がいい。

 隣に立つサラリーマンは、いつもと同じ本を読んでいる。いい加減に覚えてしまった。

 スマホを取り出すこともなく、サラリーマンの背に挟まれるだけの30分。

「——お出口は右側です」

 聞き慣れた女性の自動アナウンス。降車駅が近づいていることを悟る。

 ドアが開き、たくさんの人が雪崩のようにホームに溢れていく。この瞬間は何度経験しても辛いが、誰がどのように動くかはなんとなく理解できてきた。

 右から降りようとする少しハゲたおじさんを押すと、いつも通りかけ分けやすくなる。あとはドアに向かって無理やり進むだけだ。

 ホームに降り立つと同時に電車のドアが閉まる。幾分か居心地はいいが、あの状態が長引くのは遠慮したい。ままならない気持ちに嫌気がさす。

 改札を出ると同じ制服が目立つようになる。

 自分も同じものを来ているはずなのに、他人が着ている姿を見るとより一層鬱屈とした気持ちになる。

 右、左、右、左……。前に出す足を交互に数える。意識していないとそのまま立ち止まってしまいそうだった。

 ふわりと吹き抜ける夏風。温く不快な湿り気を運んでくる。どうかこの時間ごと私のことも吹き飛ばしてくれないだろうか。

 校門を通り過ぎて下駄箱へ。そこで初めて違和感に気付く。私の下駄箱に、ゴミが詰め込まれている。

 なんということだ。こんなにもゴミを愛おしいと思う日がくるなんて、人生わからないもんだ。

 口角が上がるのを抑えきれない。

 1048回目の9月9日にして、やっといつもと違うことが起きたんだから。

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