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種まき  作者: 山葵からし
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宇宙飛行士

 父さんに連れられて行った近所の科学館。何よりも興味を持ったのはプラネタリウムだった。

 車で背もたれを倒すと怒られるのに、何故かここの椅子は全部目いっぱいまで倒されてた。

 手を引く父さんを見上げてた。きっとまだ10歳にも満たない頃だったように思う。

 ふかふかの椅子に座っているとだんだん部屋が暗くなる。ブザーが鳴ると、中央にあった大きな機械が動き出す。

 天井にはたくさんの星が映し出される。僕はそれが果たしていくつあるのか、こっそりと数え始める。どんどんと移り変わっていくのに、必死になって数えようとする。

 結末はいつも同じ。いつの間にか眠ってしまい、父さんに起こされる。だと言うのに、父さんは何度もここに連れてきてくれた。

 お土産に買ってくれた宇宙飛行士の人形は、そういえばどこにしまったんだっけ。


 昨日、母さんから電話があった。科学館が閉鎖になるらしい。

 昔から人が少なかったし、むしろ今までよく持った方だろう。

 幸いにも週末は三連休。久々に足を向けてもいいかもしれない。


「……こんなに安かったのか」


 検索して出てきた入館料の安さに思わず声が出る。

 たった数百円で、元気の有り余る小学生を疲れ果てるまで遊ばせられる。これは父さんが何度も連れてきてくれるわけだ。

 食費を切り詰めて生活費を捻出してる安月給からしてもありがたい。


 久々の帰省を決めて準備を始める。

 帰省といっても、精々電車で2時間もかからない。軽い着替えだけリュックに放り込めば完了だ。

 押入れから小さなリュックを取り出すと、わずかに重みがあった。


「……どうして」


 ワニの宇宙飛行士。宇宙服の頭の部分が、体と比べて突き出しすぎてる。

 実家で無くしたと思っていたけど、いつの間に連れてきたんだろうか。

 抱き上げるとホコリくさかった。そりゃそうか。一度洗濯したほうがいいかもしれない。


 それにしても覚えがなさすぎる。存在を思い出したのも今さっきだし、このリュックもこないだの帰省で使ったばかり。もちろん人形を持ち帰ったりなんてしていない。

 不思議に感じはしたが、次の日も仕事だったし準備もすぐに終わったので、深く考えずにすぐに眠ってしまった。


 その夜、その人形が夢に出てきた。

 相変わらず不恰好な宇宙服を身に纏って、パカパカとワニは口を開く。

 ああ、ここは宇宙だから音が聞こえないんだ。なんとか身振りで伝えようとすると、ワニは理解したのか口を開くのをやめる。心なしか、すこし残念そうな表情。


 ゆっくりと泳ぐようにこちらに近づいてきて、僕の手を取る。

 ワニの顔は、いつの間にか父さんに変わっていた。


「……父さん」


 話しかけると、父さんは人差し指を口元にあてる。

 そうか、今はプラネタリウムの上映中だ。

 手を握ったまま視線を天井に移すと、いくつもの星がキラキラと瞬いている。

 その星たちを数えようとして、僕はいつものように僕は眠ってしまった。

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