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【1】③

 夜診もやっている外科病院に駆け込んで、涼音が受付を済ませたあと。

 雪音を両側から支えるように、三人は待合室のベンチに腰掛ける。

 待つまでもなく呼ばれて診察室に入ると、まだ若い担当医は治療しながら安心させる意図もあるのか優しく話し出した。


「傷自体はそんなに深くないですよ。頭部はちょっとした傷でも出血が凄いからびっくりされましたよね。少し痕が残るかもしれませんがよく見ないとわからないくらいだと思いますし、額だから前髪で隠せますから」

「そうなんですね。ありがとうございます」

 義母が安堵の溜息を吐くのに、航大も同じ想いだった。


「……それよりも、椅子から落ちて頭を打ったのならその方が心配です」

 いろいろ検査もしたあとで、とりあえず雪音は帰宅を許された。


「二十四時間は注意して見てあげて、頭痛や吐き気があったら夜中でも迷わず来てください。まずは電話を。遠慮は要りませんから!」

 担当医にそれだけは! と念押しされて、礼を述べて病院を出る。


 実際に傷の痛みは大したことがないらしく、雪音は診察の途中からけろりとしていた。

 ただ、額から後頭部にぐるりと巻かれた包帯が痛々しい。


 ──よかった、雪ちゃんがとりあえず無事で。でも、まだ安心できない、んだよね?


 家に帰ると、義母はとりあえず雪音の血で汚れた服を脱がせて、濡れタオルで顔や体を拭いてやっていた。

 今日は入浴はしないよう指示されたのだ。


 両親の寝室のベッドに寝かせると、雪音は疲れからかあっという間に寝息を立て始める。

 一息ついたかと思ったところで玄関ドアが開く音がした。

 航大が義母と一緒に寝室を出た途端、慌てふためいた様子で帰宅した父と顔を合わせる。

 義弟が眠るすぐ傍の廊下で騒ぐわけには行かないので、涼音が無言で合図するのに従い三人でリビングに移動した。


「ママ、雪ちゃんは?」

「今、ちょうど寝かせたところ。狭くて悪いけど、パパ今日は雪ちゃんの二段ベッドで寝てくれる? 二十四時間は気をつけるように言われてるから、今夜は私がずっと起きて見てることにする」


 連絡を受けていたのだろう父が訊くのに、義母が落ち着いて答えた。


「それは構わないけど。……航大、お前が一緒に居たんだろ? なんでこんな──」

 父の怒りを理不尽だとは感じなかった。

 そう、自分のせいだ。もう少し、本当に僅かにでも気を配っていれば……。


「大声出さないで! 雪ちゃんが起きるでしょ」

 けれど、思わずといった調子で声を荒げた父を義母が制する。


「あ、ごめん。でも、航大は」

「航ちゃんのせいじゃないわ。キャスター付きの椅子に立って乗る雪ちゃんが悪いのよ」

 涼音は航大に気を遣って(かば)っているわけではなく、本心からそう思っているのだろう。

 彼女は普段から、もちろん努力してそうしている部分もあるのだろうが、航大にも実の子である雪音と同じように接してくれていた。


 そして父の方も、妻へのポーズで航大を責める素振りをしているわけではなく心から雪音を心配している。

 彼は本当に雪音を可愛がっているのだ。


 ──お母さんはそう言うけど、やっぱり俺が悪いんだ。俺がゲームしててあんないい加減な返事しなきゃ、雪ちゃんだって椅子に乗ったりしなかったんだから。


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