【7】
「ねえ航ちゃん、暇があるときでいいからまたメッセージくれる? 前みたいに航ちゃんといろんな話して、一緒に喜んだりしたい」
「そうだな。──大人気ないことしてゴメンな。無視なんて、いい年してホント情けないよなぁ」
「いいよ。なんでそうしたのかもわかったし、もう許す」
わざとらしく偉そうに言う雪音に、航大は小さな声で「ゴメン」と繰り返した。
夕方、家での食事の時間に間に合うようにと雪音は航大の部屋を後にする。
駅まで二人で並んで歩き、改札脇で別れの挨拶を交わした。
「航ちゃん、またね。絶対、近いうちに帰って来て! お父さんとお母さんも会いたがってると思うよ、きっと」
雪音が口先だけではなく、真剣に言い募るのを、航大も真顔で受け止めた。
「大丈夫、約束する。一人暮らしして確かに気楽なんだけど、寂しい、っていうのとはちょっと違って、なんとなく、……なんとなく何かが足りない気がして。四人で暮らした十何年、ホントに楽しかったなって痛感した」
しみじみと口にする航大に、雪音は思わず声を上げてしまう。
「それ、お父さんとお母さんが聞いたら凄い喜ぶんじゃない?」
彼は雪音の言葉に、少し照れくさそうに笑った。
名残は惜しいが、いつまでもこうしているわけにも行かない。
雪音は改めて航大に別れを告げると、改札を通り抜けたところで笑顔で振り向いた。
優しく愛しい義兄と目が合い、雪音は声は出さずに両手を頭上に上げて大きく振る。
ただ微笑んで見ているだろうと思った航大が右手を高く上げて振り返して来たのに不意を突かれ、嬉しさが胸に溢れそうになった。
航大と雪音の優しい時間は、あともう少しだけ平行線を辿る。
~『優しい時間は。』END~
本編終了ですが、義兄視点の短いお話があります。