はじまり
後宮ドラマの悪役令嬢エリーナは、頭脳と美貌を武器に後宮を牛耳っていた。しかし最後はバッドエンド。
理沙はそのバッドエンドが確定したタイミングで転生してしまった。
これからの大逆転、あるのでしょうか??
初めて顔を合わせた男の姿に、恐怖で体が固まる。鉄の表情、無機質で物を見るような瞳、死神のような闇を纏う姿。
その男は目にした人々に、心の底からの恐怖を与えた。
この人が私の・・・。与えられた現実の辛さに、目を背けたくなる。
この人が、私の結婚相手なの━━━。
◇◇◇◇◇◇
『花々の諍い~恋の散る頃は』
妃嬪たちが皇帝の寵愛を巡って争う海外の後宮ドラマ。
頭脳と美貌を武器に宮廷を牛耳っていた悪役令嬢のエリーナ。主人公のヒロインを最後まで苦しめた彼女だったが、最後は正義の裁きが下り宮廷を追放、醜い男の元へと嫁がされるバッドエンドだった。
全く、神様なんてこの世にいるのだろうか。
私は不慮の事故に遭い、目覚めると悪役令嬢エリーナとしてドラマの世界に転生していた。
そして転生したタイミングは今まさに醜い男の元へと嫁ぐ、バッドエンドが確定したエンディング後の世界。
神様、これから大逆転、あるんでしょうか━━━?
◇◇◇◇◇◇
馬車の窓から覗く景色が、風のように流れていく。
国を出てからどれだけ経っただろう。
6日か、7日か。
私はこれから異国の男の元へと嫁ぎにいく。会ったこともない、顔も知らぬ男の元へ。
・・・。
やっぱりまだ慣れない。妙な感じ。
これが夢じゃないかと、いまだに信じられない気持ちになる。
普通の会社員だった私が、アスファルトで舗装されていない道を馬車で走っているのだから。車や電車じゃないのよ、馬車よ馬車。
ここが好きだった後宮ドラマの世界の中だと気づいたのは一昨日のことだ。
馬車で走っている最中、大きな音と衝撃がして、傾いたと思うと地面に叩きつけられた。
先日の雨で道が大きくえぐれ、そこに馬車の車輪が挟まり転倒したのだ。
ガンッ!!!
下から突き上げてくるような強い衝撃を受けたかと思うと、次の瞬間、地面が反転し床に叩きつけられた。
幸い打撲程度で大きな怪我はなかった(たんこぶはできたけど)。ただ勢いよく地面に叩きつけられた衝撃で眠っていた記憶が泡のように浮かび上がり、前世の記憶が蘇ってきたのだ。
私は日本の22歳の会社員、桃加 理沙だった。どこにでもいるごく普通の新入社員。勤め始めてまだ半年も経ってなかった。そんなある日、車に轢かれた。
夜の街灯の少ない住宅街、あっと思った時には車のヘッドライトの光が、目の前に迫っていた。
記憶はそこまで。おそらくそれで亡くなってしまったのだろう。
それが私、桃加理沙の最後の記憶だった。
思い出したのはそれだけではない。
今、私がいるこの世界が、ドラマの世界の中だということだ。
よくあるWEB発の小説や漫画では見ていたけど、本当にこんなことってあるのね。最初は記憶が混乱して、夢なのかもと思っていた。でも私はドラマの中の悪役令嬢エリーナそのままだった。
名前はエリーナ、主人公のヒロインを苦しめる悪役令嬢だった。