寒いよりも暑い方がなんともできない
ここでプロローグに時間軸が戻ります
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ここまでに発覚している事実。
1 エミリアは多分人間をやめてる。
2 ダンジョンの住人であるはずのコブリンがキレイに骨になる年月の間、ここに放置されたまま。
3 俺達に怪我はない。
「他の二つはともかく、最初のは必要な情報だったかなあ? あと、私はちゃんと立派な人間だよ」
「わふはっは!ほへはわふはっははら!」
容赦なく引っ張られた頬が、かなりヒリヒリしている。からかいすぎたらしい。
多少、場を和ませようという意図はあったのだが、その必要はなかったらしい。流石に、精神的にど安定してる。
「で、まあ、シンプルに一番厄介なのは、これだね」
エミリアは頭蓋骨を指し示しながら、そう言った。
「そうだな」
重ね重ねになるが、こいつらはダンジョンに詳しい。恐らくこのエリアは、俺達にとって未踏破なだけでなく、こいつらにとっても未知の領域で、ひょっとすると秘匿された場所なのかもしれない。
勿論、ここがそもそもダンジョンの内部ではない可能性もあるといえばあるのだが。
「それは考えてもしょうがねえからな」
「考え出したらキリがないし、もし本当にそうならますます帰り方も分からなくなるだけだからね」
そうと分かったらやることはひとつだ。
「妙な気を起こさないでよ?」
「こんな状況で妙な気が起こせるほど豪胆じゃねえよ。そっちこそ、興奮すんなよ」
「この状況があと3日くらい続いたら分からないけど、今はそんな気になりようもないから安心して」
「思ったより限界が早い……」
「そっちだって、多分2日が限度でしょ?」
「3日は気合いで持たせることできるに決まってるだろ」
4日たつとわからん。
俺達は互いの身を守っていた装備を取り外す。無論のこと、モンスターなんかがやってきたら、防御が心もとなくなってしまったが背に腹は変えられない。重さはともかくとして、暑さによる消耗はなるべく避けたいからだ。
さっきから暑いんだよな、ここ。そしてダンジョンで妙な暑さを感じるときは、そういう仕掛けがあるか、炎を出しまくるモンスターが近くにいるかのどちらかだ。
そして、お互いが持っていた食料を出しあってもろもろ計算。
「節約して、7日かな」
「今回は長い期間の潜行を想定してなかったからな」
「同じく」
後、俺達がそこまで食料なんかを携帯する役割でもないというのもあった。うちは、リーダーというか、魔術師が荷物を背負うことが多いからなあ。当人曰く、『武器が軽いから楽』らしい。逆に一番荷物を背負わないのがナンパ野郎。あいつは、盾と剣、あとちゃんとした鎧を身に付けることが多く、最重量だからだ。
そして、多分パーティー内の役割から考えると、エミリアのところも同じような事情だろう。
「7日分もあったことを喜ぶべきだろうね」
「違いない」
せっかくの食料達は、ぴったりと壁に沿わせるように置き、周りに防具やらを置く。多分ないだろうけど、もしモンスターがやって来ても多少はマシになるだろう。無いよりはいい程度だが。
さて。
「取りあえずこの穴を」
「少し歩いてみるか」
なんか分かればいいんだが。




