穴との遭遇
普通ならば起こらない、いつもならこんなことにはならない、そういうことがあっさり起こるのがダンジョンという場所だ。
まあ、そうは言っても、外には外のルールがあるように、ダンジョンにはダンジョンの中で通用する法則みたいなものはある。だから、冒険者はなんらかの対策手段を持てるのだ。
しかし今回、俺とエミリアが今現在巻き込まれ中のこれは、全くもって予測できなかったと言わざるを得ない。
まじで、どうしてこうなった。
各ギルドのエースパーティーによる迷宮潜行は順調だった。というか、正直このくらい″浅い″エリアは、俺たちにとっては順調もなにも、問題なく進めて当然といえば当然ではある。
「ゴブリン、三体発見」
「了解、出る」
「バ、バフかけます」
うちのヒーラー口説き前衛が、コブリンの一体を相手取る。このモンスターは知恵が回るので、そうなったら敵の背後に回り込んで襲いかかってくる。現に、他の二体が前衛の背中側に回り込んでいるのだが。
ちらっと、エミリアに目をやると、口が″右″と動いた。それを確認してから、俺は一気に左側のコブリンに肉薄し、首を剣で薙いだ。
『Gi…………』
空気が漏れるような音を出しながら、コブリンは絶命。もう一体のコブリンは眉間に矢が刺さって、地面に転がっている。最初の一体は、もちろんナンパ前衛が処理した。
「まあ、こんなもんだな、ここらは」
両リーダーは、どちらも魔術師で、呪文を唱えていたようなのだがそれも結局は最後までは使われることはなかった。
「カイニス、他にいるか?」
「確認しているから、ちょっと待ってくれ」
索敵のコツは、自分の感覚を薄く広げていくことだ。ダンジョンそのものに、自分の感覚を同化させていくイメージ。もし、ここの周辺に何かがいるのなら、見えるあるいは聞こえる、匂う……なんにしろなんらかの反応があるのだが、今はなかった。
「大丈夫だ」
「よし」
ふっと、空気が緩む。
それが、悪かった。
いや、これが悪かったって言ったら、全冒険者がどうにもならないことになるから、どうしようもないといえばなかったんだが。
最初に気づいたのは、エミリアだった。
「え、上、なにこれ!?」
「あ?」
そこには、穴があった。
否、厳密には穴がいた。なんかこう、穴が凄まじい勢いで天井を進んで、そして急落下してくる。
流石というべきか、エミリアは咄嗟に弓をつがえて、穴に射ったのだが穴だからそれが通じるはずはなかった。
「ええ…………」
呆然としている間に、エミリアが穴に飲み込まれる。
「エミリア!」
俺は咄嗟に手を伸ばしなんとか、彼女の手を掴み──一緒に穴に落ちる……落ちるでいいはず、多分。取りあえず穴の中に入っていってしまった。
いや、まじでなんだったんだよあの穴は。