迷子になる前から迷子になると考える奴はいない
ことの発端はというと、今俺たちが潜って(そして遭難して)いるダンジョンの入り口で、俺のパーティーとエミリアのパーティーがばったり遭遇したところまでさかのぼる。
「うわ、″鴉″」
「げ、″一角獣″」
これは、互いのパーティーリーダーの第一声。別に、仲が悪いわけではない。どっちも、ダンジョンの最前線近くを基本的にはうろうろしてるから、否が応でも顔見知りにはなるし。
一応、競い合いはあるといえばあるが、うちのギルドと″一角獣の宿り場″は、縄張り争いとかは激しくやりあうことはないからだ。
だから。
「やあ、カイニス」
「よお、エミリア」
個人レベルで、普通に友人と呼べる関係性を築いてる奴も普通にいて、俺とエミリアもその例からは漏れなかった。
他にも、俺のパーティの前衛なんかは、宿り場パーティーのヒーラーの子を、
「今日も、かわいい」
「あ、あの、こ、困ります……!おれ、可愛くないので……」
「そういうとこ含めて、かわいいよ」
「うう……」
口説いてるし。
「止めた方がいいか……?」
「むしろ、止めない方がいいよ、こういうのは。 君が、馬に蹴られたいタイプなら、好きにすればいいと思うけど」
「その辺、意外と寛容だよな」
パーティー内外での恋愛を禁止するギルドも多い。これまでに、一パーティー同士の恋愛関係のトラブルから、ギルド同士の抗争まで至った例もいくつかあるかららしい。
「うちの神は、そもそもそういう関係は、情熱的だったからねえ。 妻が五人、その上あらゆるところに子供いっぱい作ってたくらいだし」
「そんなもんかあ……」
一角獣の宿り場というギルドは、″教会″がバックにいる。そして、一角獣というモンスターはことあるごとに、少女を拐いまくる実にはた迷惑な奴だが、″教会″の神様が地上に降りてくる時の姿らしい。
だから、″一角獣の宿り場″出身のパーティーは、構成メンバーが全員女なのだ。
「さあどうだい、そんな寛容な主のもとで君も暮らさないかい? レッツ、信仰」
「流れるように勧誘するのやめろ」
″教会″の神様、そっち方面ではやりたい放題なのだが、逆に清貧な生活を送っていたり、善行をすすめてたり、その他にも規則正しい生活やらなんやかんやで細かいルールも多いのだ。
エミリアはけらけら笑いながら、肩をすくめた。
「残念。 大体、私が勧誘したら成功するんだけどね」
「勧誘の仕方が悪いだろ」
あと、タイミング。少なくとも、ダンジョンに潜る寸前にするものじゃねえだろ。
そんなこんなで、俺たちが雑談してる間にリーダー同士の話はまとまったらしい。
「はーい、注目」
「いつぞやの賭けの貸しを返させる条件で、今回はうちと″一角獣″が一緒にダンジョンに潜ることになった」
「くっ……あのときにあそこで切り上げとけば私の勝ちだったのに…………!」
なにやってたんだ、こいつら。
「ということでお前ら」
リーダーの雰囲気が変わる。
それに合わせて、全員が居ずまいを正した。
「迷宮潜行、開始だ」