草書体ってまじで読めるもんじゃない
「無理ぃ…………読めなぃぃぃぃ…………」
無理だった。
まあ若干、そんな気はしてなくもなかった。
一応、警戒のために周囲を見回っていたから、その声が聞こえてきてから駆け寄ってみたのだが、分かりやすくうちひしがれた弓使いが地面に両手をついている。
ある種の愛玩生物みたいになっていたので、試しに頭に手を触れようと試みたら、普通にはねのけられる。
「読めないのか」
「無理。 この文字が使われてる年代は大体わからなくもないし、私たちの主と愉快な仲間達の逸話が彫られてそう、ってのはわかるんだけど」
「愉快な仲間達て」
あと、知ってはいたがこいつの信仰の仕方、割りと雑だよな。なんかしらバカにしてんだろ。
「そうとしか呼べないんだよ。 うちの教典ってぶっちゃけ冒険譚なんだけどさ。 毎回、『○○がどこそこのオンナノコといい仲になった!』か、『あそこのオンナノコ達は○○で~』とかのレビューの一節が挟まるから」
「なんでお前ら、清貧面できてんの?」
「だから、生活面のある側面の戒律に関して、秩序の女神様のとこほどは厳しくないんだよ」
秩序の女神様っていうのは、また別の教会が信奉してる神様だ。ただ、こっちはかなり厳しくて冒険者の在り方なんかも、否定する一派もいたりして、少なくとも俺とはあまり馴染みがない。
「どう? 君もそんな我が主を信じてみない?」
「ここの扉の開け方を、今ここでお前が解明できんなら、考えてやらなくもないな」
しょんぼりするエミリア。まあ、どうせ三秒くらいで立ち直りはする。
「でも、言い訳させて欲しい」
「なんだ」
「これ、扉周りに文字を彫った人、めっちゃ癖字。 もしくは、字が下手」
「そんなことがあるのか……」
「崩し方が、変。 センスない。 これは芸術とかじゃなくて、単に悪筆」
製作者、めっちゃぼろくそにいわれてんな……。
ただ、まあ、悪筆だろうがなんだろうが、扉を正攻法で開ける方法がここには無いということには変わり無い。
「一応確認するけど、君が読めたりは」
「悪い。 こっちの文字は、しかも古い年代のものは無理だ」
読み書きに苦労はしないが、古い時代のやつは、どうにもならない。
「だよねえ」
エミリアもそれは分かっていたために、気落ちは全くしていなさそうだ。
「君らは、こっちの人じゃないもんね」
「そうだな。 悪いな」
「いや、元はと言えば、悪筆の製作者が悪いからね」
自分のせいにはしねえよなこいつ。
まあ、別にそれも良い。
ただ。
「どうするか」
「うーん、せめてここにいるのが私じゃなくて、もっと文字に詳しい仲間だったらなあ」
「お、おれ、読めるかもしれないです」
「そうそう。 うちのヒーラーなら…………え?」
え?