トラップ階段
エミリアが階段から脚を踏み外し階段から転げ落ちそうになったり、エミリアが見事に階段に仕掛けられた罠を踏み抜いて階段が崩れ落ち始めたりと色々ありながらも、俺たちは順調に上り続けていた。
「順調じゃないよ!」
「死んでねえじゃん」
「それはそうだけどさあ」
階段は先ほど半分くらいが崩れていってしまったので、取りあえずエミリアを横抱きしながら、まだ崩壊していないあたりまで俺は空中を歩いていく。
「君って大概無茶苦茶だよね。なんなの、その空を歩く技能」
「別に特別なことしてる訳じゃねえし、大体俺にその無茶苦茶をさせる羽目になってんのはどこの誰のせいだ」
いちいち、この階段のささやかな罠に全部引っ掛かりよってからに。
「ほら、私は君と違って性格いいし?」
「お前は今俺に抱き上げられてるってこと、分かってないのか?」
「私はとっさに君を道連れにできる程度の身体能力があるとは、自負してるよ」
絶対、お前の性格は良くないだろ。
「というかさ、普通に考えて無理なんだよね、罠を全部見抜くのって。 きっちり段差はダミーされてるし、さっき踏み抜いた仕掛けだって、他との違いなかったじゃないか。 むしろ、どうやって判別してるの君は」
「経験と勘」
「私も君と同じかそれ以上に経験積んでるはずなんだけど」
なぜか、半目で睨まれる。いやだって、なんかこう、そろそろ俺ならこの辺に設置しとくなあ、みたいなとこに全部罠があるのが悪い。
そして、それを踏み抜くこいつはもっと悪い。
「むしろ君が、今回のことを仕組んだんじゃないの?」
「出来るか、アホ」
大体、なんの得があるって言うんだよ。俺まで絶賛迷ってる訳だし、なんならうるせえ奴を運ぶ羽目になってるんだぞ今。
「それはほら、私と二人っきりになれるっていう飛びっきりのやつが」
「そろそろ落としていいか」
あと、得にはなるかもしれんが、わざわざこんなことせんでも二人には普通になれるだろうが。
「そりゃ、非日常で、新たな刺激をだね」
減らず口止まらねえなこいつ。
第一。
「ダンジョンが? 非日常か?」
こんな状況、そこそこ経験あるぞ俺は。
「ううん、めっちゃ日常」
そうだろうが。
そんなこんな話ながら空を跳んでいると、ようやくまだ無事な階段へとたどり着いた。
まず俺が階段へと降り立ち、エミリアもおろした。
結構な距離を歩いてきたはずなのだが、上を見上げるとまだ階段の終わりは見えなかった。
「あと、どれくらい上がる必要があると思う?」
「さあ、ひとつ言えるのは、もう罠にはまりたくないってことかな」
そう言ったエミリアは中々足を踏み出そうとしない。
……まさか、ばれたか。いや、そんなはずは。
「よくよく考えたら、君が先導すべきだよね。 あの精度で罠を見分けられるなら、なおさらさ。 落とし穴は冗談だけど、さっきまでの道中は君、本当にわざとじゃないのかな?」
何を言ってるのかさっぱり。
別に罠にはまりまくる聖騎士様が面白かったなんてことはないぞ。
思いっきり蹴られた。